狙いの的
文化祭の出し物決めは最悪の空気だった。多くの生徒が大型造形を提案したが、橋本の『喫茶店をしたい」の一言で多くの女子が橋本の意見に賛同した。
青葉の新幹線での予言が当たった。
これがヒエラルキー。人間がグループを作るときに必ず存在する制度といってもいい。自分の意思を殺し、リーダーについていく。これを変えることが可能かはおそらく今日わかる。
多数決の結果、クラスの出し物は喫茶店になった。
次に決めるのは文化祭当日に働く時間帯。ここで橋本が口を動かした。
「正直さぁ、うちらは楽しみたいんだよね。だからさ、楽しそうじゃない内橋さんたちが私たちの分も働いてくれない?」
教師がいないのをいいことに橋本が提案した。内橋さんはおそらくクラスで静かな子だと思う。そんな子を狙い、自分たちは楽するつもりなのだろう。
「え、でも私たちも‥」
「え?ダメなの?」
反論を許すことなく、橋本が遮る。
誰も橋本には逆らわない。それが平和だから、それで誰かが犠牲になっても自分は関係ない、だからみんな逆らわない。これが青葉が最も嫌っている空気。彼女だけは反論する、そう思っていると彼女は本当に反論した。
「え、なんで。自分たちが楽しめばいいの?」
青葉の発言にクラスのみんながおどろく。
「は?別にいいじゃん。楽しみたい人が楽しめばいいんだよ。楽しくないなら仕事でいいんじゃないの?」
少し怒った口調で橋本が返す。
「それを決めるのは内橋さんの意見をしっかり聞いてからじゃないの?1人で勝手に決めることじゃないと思うけどな」
「でも何も反論してないよ?それが答えみたいなもんじゃん」
「橋本さんは反論させる気もないと思うんだけど、勝手に自分の都合押し付けて、そうやって楽するのおかしいよ?自覚した方がいいよ。もう高校2年なんだから」
「夏城さん‥大丈夫‥だよ。」
この空気が良くないと感じたのか、内橋さんが口を開いた。それが青葉を傷つけるとも知らずに。
「ね、内橋さんが言ってるんだから夏城さんは黙っててよ。そんなんだからクラスでも浮いてるんだよ?空気も読めないとか邪魔すぎるんだけど」
汚い言葉を使っていても誰も止めない。自分が助かればいいのだから。
「上里くんに近づいたのも友達が出来ないからでしょ?やめてあげなよ、上里くん可哀想だよ。自分の自己満足で近づくのは性格悪いと思うなぁ」
笑いながら橋本は言った。まるで悪魔のように笑いながら。担任が戻ってきて、話は終わった。
終わりのチャイムが鳴り、青葉は教室を出た。僕はカバンを持ち、青葉を追いかけた。
「いやぁー、無理だったなぁ」
青葉は上を向いて言った。へこんでいると思ったけど大丈夫そうだった。表面は。
「逆によく勝てると思ったね。勝算がないのに突っ走るのは青葉っぽいけど」
「勝つとか負けるじゃないと思うけどな。おかしいってことを知って欲しいの」
なるほど。そういうところも青葉っぽい。
けど青葉じゃ、無理だ。しっかりとした意見だけでは通用しない。
正しいことを言っている子が否定される。それはおかしい。このクラスは本当におかしい。けど、『おかしい』という自覚もクラスメイトは持っていない。
空気が全てじゃない。そのことを教えてやる。
「青葉、明日は休んだ方がいいよ。いや、休むことを薦める。」
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