線香花火

 彼女の叔父叔母に別れの挨拶をし、僕らは朝の新幹線に乗車していた。暇つぶしにスマホを触っていると祭りの記事を見つけた。

「明日近くで祭りあるらしいけど、一緒に行かない?」

彼女は軽く咳き込み、魚のように目を見開いた。

「春樹が遊びに誘ってきた‥。あの春樹が‥、うう、お姉ちゃん、春樹が成長してうれしいよ。」

「いつから僕らは姉弟になったの。それと遊びにぐらい誘えるよ。それより、行く?行かない?」

「行く行くーー。楽しんでゴーだね!」

日記に何かを書き込みながら彼女は答えた。

 答えた後に小さく口が動いていたが聞かなかったことにした。

 その後、無事に自分たちの町に着き、僕らはそれぞれ帰宅した。

 帰宅後、祭りの待ち合わせ時間を電話で話し、二日間の疲れを癒すようにしっかりと眠った。



 僕らは祭りが行われている近くの公園で集合することにしていた。10分まえに着き、青葉を一人でスマホを触りながら待っていると声をかけられ、顔を上げた。

「こんばんは」

目の前には体育祭で一緒に写真を撮った1年生がいた。笑みを作り、こんばんは、と返した。すると彼女は少し悩んだ様な表情を見せて、口を開いた。

「夏城先輩と祭りに行くんですか?」

青葉の名前が出てきて内心少しびっくりしたが平常心を保つ。

「一緒に行くよ」

「そうですか、交際しているって噂は本当なんですね」

なんだその噂は。本人たちが知らないところで出回る噂はいい気分はしない。

「付き合ってないよ。祭りは仲がいいから行くってだけだよ」

「そうですか。あ、時間やばい!先輩祭り楽しんでくださいね」

「夜遅いから気をつけてね」

と僕がいうと、ありがとうございます、と答え、少し小走りで去っていった。

「私には『気をつけて』なんて言わないのに、可愛いい後輩には言うんだね」

青葉が魚の様な目で僕を見つめていた。祭りをこのテンションのまま行くのはまずい。

「青葉は俺がいるから大丈夫だよ」

キラーン、と言わんばかりの笑顔を見せ、青葉の機嫌を窺う。

「ちょっと気持ち悪いけど、良いとしよう」

青葉の機嫌を戻したところで僕らは祭りが行われている場所へと向かった。



いつも通りのくだらない会話をしながら祭りを楽しみ、気がつけば帰宅の時間になっていた。リンゴ飴を食べながら、それじゃあね、と言う彼女に手を振り、僕は家に帰った。

 


 家に着いて1時間ぐらい経ったあとに、携帯が揺れているのを見て、電話に出た。

『あ、春樹くん?青葉叔父だけど。こんな時間に電話してごめんね。今、青葉ちゃんと一緒にいる?』

電話番号は交換していた。青葉叔父が少し焦った声で聞いてきた。

「いえ、1時間ぐらい前に別れましたけど」

『青葉ちゃん、家の固定電話と携帯にもかけても出ないんだよね。寝ていてもいつもは起きるのに』

「何回かかけましたか?」

『うん、2回かけたけど、こんな時間に外出する子じゃないから、不安になって』

何かあったのだろうか。僕はまだ音のする携帯電話を片手に外に出た。

 自転車を飛ばし、彼女に家のインターホンを押したが反応はない。青葉は真っ直ぐ帰宅すると言っていた。だから友達と会っているということない。僕は自転車で走り回った。学校、図書館にも行ったが彼女はいない。もう0時をまわっている。店に入ることは出来ない。体の全身が汗で熱を帯びているが気にせず走った。いない。どこにもいない。少しだけ考えて、僕は二駅分離れた祭りの会場まで自転車で飛ばした。

 祭りの待ち合わせ場所だった公園に彼女はいた。

「なにしてんの」

体を跳ねさせ驚いた彼女は無理矢理笑顔を作り、言った。

「いやー、乙女にはこんな気分があるんですよー」

「なにしてんの」

僕は同じ質問を繰り返す。今は冗談をまともに聞く気はなかった。

「春樹、怒ってる?」

「怒ってたら青葉の前には現れないよ」

「ふふ、それもそうだね。少しね‥。春樹には言えないこと」

そういい、彼女は静かに下を向いた。

「心配‥させないでよ」

小さく声に出した。

「心配してくれたの?」

首を傾げて聞いてきた。

「あたりまえだよ」

「なん‥で?」

「青葉は僕にとって大切な人。青葉がいてくれたから僕は毎日が楽しい。僕の周りにあった壁を壊して僕と接してくれた、僕にそこまでして勝手に姿を消すなんて僕は許さない」

脳が考える前に口が動いた。彼女は着ているティーシャツの中に顔を引っ込めた。

「なにしてるの?」

「今、すごく嬉しい。顔が変になってるから見ないで」

「ふ、なにそれ」

僕は思わず笑ってしまった。

 彼女が服に籠もっている間にコンビニで花火を買った。服から出てきた彼女を近くの川に連れて行き、2人で花火をした。


 花火を振り回している彼女に見惚れていた。そして少しだけ考えた。

 普通はただの友達にあそこまで必死にはならないだろう。あれだけ必死になって探し、青葉の名前が出ると驚いてしまう。ずっと分からなかった答えが今さっき分かった。いや、本当はずっと前から解は出ていたんだろう。

 周りの音が聞こえない。チリチリと鳴る線香花火は恋となり、静かに落ちた。



 僕は夏城青葉が好きなんだ。



 














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