彼女はそっと前を見た
体育祭後のテストもなんなく一位を取り、僕には素晴らしい夏休みが待っているはずだったが夏休みの予定はバイトと青葉でほとんどが消えた。いや、消された。
「いつまで浮かない顔してるの、元気出そうよ元気!」
東京、スイーツパラダイス、カラオケ、図書館、オープンキャンパスに僕を同行させた彼女は新幹線の中でそう言った。今日は彼女の叔母が大阪で経営している旅館に行くらしい。神奈川から大阪という遠出が初めてだった僕は少し浮かれていたのかもしれない、彼女が『春樹が少し笑っている、気持ちが悪い』と声に出しながら日記に書いていた。
「日記、ちゃんと付けてるんだね」
「んー、春樹と会った日は全部書いてるよ」
「そっか、でも悪口は書かないでね。泣いちゃうから」
「ねぇねぇ、大阪でしたいことってある?」
僕の最高の冗談をガン無視した彼女はあざとく上目遣いで聞いてきた。
「特にはないかな」
「えええ、大阪だよ?私の好きな食べ物ランキング第三位のたこ焼き食べたくないの?」
「一位じゃないのかよ…」
小さくそう言い、盛大なため息をした。
「そういえば、夏休みが終わったら文化祭だね!うちのクラス何するんだろう」
「喫茶店をしたいって女子は言ってたよ」
以前、クラスの女子が話していたのを思い出した。
「ふーん、喫茶店かぁ。ちなみにそれ言ってた子は橋本さんだよね?」
「そうだった気がするけど」
「そっかぁ、じゃあ予言してあげる」
と彼女はそう言い、僕に予言の内容を伝えた。
「少し、度が過ぎてたら私は反論もする。だからちゃんと見ててね」
彼女は『見守っててね』と遠回しに言った気がした。
新大阪到着のアナウンスが流れ始めた。
「じゃあ、行こっか!」
と彼女は小さく笑みを作り、ユリの花が描かれたノートをそっと静かに閉じた。
駅を出てから、たこ焼きを食べに行き、何故かボーリングをした。
「なんかこう遊んでいると私たち高校生みたいだよね」
清々しいほどのガターを連続で出した彼女は歩きながらそう言った。
「高校生なんだけどね」
「普通の高校生って意味だよ」
そういうことか。なぜ彼女はいつも言葉が足りないのだろうと考えていると彼女は言葉を続けた。
「同じ思いを持ってる人と楽しく過ごせるなんて思ってもなかった。だから嬉しい」
そういい、彼女は下を向いた。
「僕もだよ。友達なんていらないってずっと思ってた。けど青葉が変えてくれた。だからありがとう」
何も考えなくても言葉が勝手に口から出てくれた。これは間違いなく僕の本心だった。
「なんか、恥ずかしいね」
彼女はクスッと笑いそう言った。
「自覚してるよ」
優しく言い返した。
「よーし、春樹が恥ずかしいこと言ったからあの夕日に向かって走ろう!」
彼女はそういい、赤信号で止まっていた。
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