第9話 ソルジャー王国-3

 ――――だい……じょ……ロ……イド……!?


 はっきりとは聞こえないが声が聞こえる。誰の声かはわからない。

 

「う……」


 唸り声が聞こえた。自分の声らしい。今まで人生で出したことのない弱り切った声だった。


「大丈夫!? ローレイド!」


 今度ははっきり聞こえた。ルーナの声だ。

 ルーナが抱きついてくる。ふわっといい香りがした。


「よかった! ローレイド! 目が覚めて!」


 ルーナはずっと心配していた様子だった。自分のことを心配してくれる、ルーナのその行為は心から嬉しかった。だが、同時に怪しんでいた。自分は犯罪者だ。なぜ心配してくれるのだろうか……。何か裏があるのだろうか。この善意を素直に受け取れない自分がいた。

 周りを見渡す。ここは医務室だった。ローレイドはベットに横になっており、そこにはルーナ、ティルシ―、ルドウィンがローレイドを囲んでいた。


「……大丈夫……ありがとう……」

 

 ルーナがそう聞くと、嬉しそうにほほ笑んだ。そして、少し怒ったように、


「もう……心配したよ……」


 そう言った。すると隣にいたティルシ―も、ローレイドに話しかけた。


「私も心配したにゃ」

「……ティルシ―、ありがとう……ティルシ―こそ大丈夫?」


 ローレイドがそう、ティルシーを気遣った。


「私は平気にゃ。ちぇ、あともう少しで勝てたのににゃー」

「はは……」


 ローレイドは苦笑いした。たとえ天変地異が起きても、ティルシ―は勝てなかっただろう。

 すると、隣にいたルドウィンは、厳しい表情でローレイドを見ていた。


 ルドウィンは心の底から敬愛する火の国国王の息子であるローレイドを心配しないわけがなかった。ローレイドが誕生したときも、火の国の国王と一緒になって喜んだ。また、ローレイドが昔、赤子のころ天女や国王に大事にされて育ってきたのをだれよりも近くで見て、知っている。だから、ルドウィンは誰よりもローレイドのことを心配していた。

 ローレイドが起きた時、駆け寄りたかった、抱きしめたかった。しかし、今それはできない。今はローレイドは第4の試練中だ。この試練は旅を通して情報を得ること。それと同時に能力の強化も行う。そうしなければ、旅の最中で最悪死ぬかもしれない。それほどに危険な旅だった。能力強化を効率よく行うためには実戦あるのみである。

 だから……厳しく接するしかなかった。


「ローレイド! 次の試合が控えている! すぐ準備しろ!」

「え? ルドウィンさん……今起きたばっかりなのに……棄権したほうがよくないですか? 無理して戦わなくても……」


 ルーナがそう言った。すると胸を苦しくしながらルドウィンは言った。


「ルーナ……忘れてはならない! ローレイドは犯罪者だ! 国王陛下からの恩義があってこうして生きている!! 今はその恩に報いるため、同盟国を作るべく、戦うべきなのだ!!」

「……で……でも、これ以上は……」

「ルーナ、だめだ! ローレイドに同盟国を作らせる。これは国王陛下が決めたことだ! ここで引き下がるのは命令違反になる!」


 ルドウィンはそう厳しく言った。

 

「……わかりました」


 ローレイドが振り絞った声でそう言った。


「……ローレイド……」


 ルーナが心配そうに、起き上がるローレイドを見た。


「無理しなくてもいいんだよ……死んだら終わりだから……」

「……ありがとうルーナさん。でも、大丈夫です。戦えます」


 ローレイドは次の戦いの準備をした。



『さあ、いよいよ第6回戦!!ドラゴンのイブラット対火のローレイド!!』


 そう呼ばれて、ローレイドはまだ完全に回復したとは言えない体を引きずって、闘技場へ向かった。


『ローレイドは、圧倒的な炎で敵を瞬殺しました!! 対するイブラットも、空から炎を出し、一方的に倒してしまいました!! さあ、この対決、果たしてどうなる!?』


 イブラットがローレイドの前に対峙する。イブラットはとても大きく、ローレイドの身長の4~5倍はある。硬そうな赤い鱗で覆われ、目は鋭く、その目に睨まれたローレイドは、まさに蛇に睨まれた蛙だった。


『試合開始!』


 ゴングが鳴る。

 ――――と同時にイブラットがその大きな翼をバサバサとはばたかせて、飛び立った。


「ぐおおおお!!」


 大きな声を出し、ローレイドを威嚇した。そして……


 ボアアアアア


 と、大きな炎の渦を口から吐き出した。その炎がローレイドに向かってくる。


『おおっと! 先制攻撃したのはドラゴンのイブラット!! 空中から炎を出した!』

「!!」


 炎がローレイドを直撃した。炎に包まれるローレイド。


『直撃だ!! ローレイド! 絶体絶命か!?』

「?」


 ローレイドが首を傾げた。火の国王の炎に比べ、あまり熱くない……。そう思った。ローレイドは火の国王との過酷な戦闘で炎に耐性がついたのだった。

 ローレイドが深呼吸する。

 勝つためにはやるしかない……相手を殺すしかないのだ。

 ローレイドが意を決し、呼吸するように能力を放出した。


「!?」


 イブラットはそのあまりに巨大な炎にびっくりしたが、負けじとイブラットの炎も強くする。

 二人の炎はぶつかり合った。炎の煙と、眩い光があたりを包む。


『ローレイド! 凄まじい反撃だ!! さあ、だれが勝ってもおかしくなくなったぞ!!』


 ローレイドが優勢かと思われた。どんどんローレイドの炎に押されている。

 そして、ついにローレイドの炎はイブラットを焼いた。


「ぐおおおお!!」


 イブラットの巨体が焼けていく。飛んでいたイブラットは地面に落ち、燃えていた。


「うっ……」


 まただ……ローレイドは自分の能力で焼けているのを見て、木の国の天女を思い出した。あの焼けた顔、におい、自分の手で殺した感覚、全部……全部思い出した。


「うわああああ!!」

 

 ローレイドは悲痛な叫びをあげる。またも能力のコントロールが効かなかった。

 すぐにローレイドを勝者とし、イブラットを燃やしている炎を水の能力者が消火する。

 ローレイドはまたもリロード状態になるまで能力を放出し続け、その場に倒れた……。





 医務室。ローレイドはここにまた、運ばれてきていた。

 そこで、2人が言い争っている声が聞こえてきた。


「もう限界です! 棄権させてください! 本当に死んでしまいますよ!」

「……だめだ」


 この声はルーナとルドウィンだ。

 ルーナは天女候補生として、能力のことを勉強していたからわかるが、このまま能力を過剰に使ってリロード状態を繰り返せば、下手したら死ぬこともある。だから、通常リロードしないよう最小限の力で戦いは行われる。


「……なんでわからないのですか!? 死んだらすべて終わってしまいます! 国王様も悲しみますよ!!」


 ルーナは5つの試練の概要を知っている。もちろんローレイドが国王の息子だということもだ。わからないと旅でサポートするうえで弊害になってしまうと国王が考えたからだ。だからルーナは心からローレイドのことを心配していた。犯罪者なんかじゃないことももちろんわかっていたのだ。


「……おい、意識が戻っていたらどうする。その話はやめろ」

「……すみませんでした……でも、本当のことです」

「……ルーナ」


 そう言うと、ルドウィンはため息をついた。


「お前はわかっていない。この先どんな危険が待っているか。この旅がいかに危険か」

「……でも……」

「今、やめさせたら一時は確実に生き延びられるだろう。しかし、今後危険が迫ったとき、弱いままだと確実に死ぬぞ。その時お前は責任をとれるのか?」


 ルドウィンがそうルーナを責め立てた。


「……じゃあ、せめてローレイドに能力の抑え方を……リロードせずに戦う方法を教えてはどうですか!? 今のまま、間違った能力の使い方をし続けると、最悪死にますよ!?」

「……それはできない。」


 ルドウィンが首を横に振った。 


「何でですか!!」

「まだ、その段階にないからだ。まず、能力を解放させ、能力の最大値を上げる。能力の抑え方を今下手に教えてしまうと、無意識に能力を抑え込んでしまう恐れがあり、最大値を上げることができないからだ」

「……ですが、死んでしまえば元も子もありません!」


 ルーナが反論する。


「……ルーナ、気持ちはわかる。だが、ローレイドを信じることも大事だ。あの国王様の息子だ。きっと耐えてくれる……俺はそう信じる」

「……」


 ルーナはルドウィンの言葉を聞いて、黙ってしまった。


「……もう決勝戦だ。この戦いを制することができれば火の国の同盟が一つ増えることになっている。」


 ルドウィンがルーナに耳打ちした。


「これも試練の一環だ。心苦しいと思うが、これも今後のローレイドのためだ。理解しろ」

「……」


 その時、ローレイドが目を覚ましたようだった。


「う……ん……」


 ルーナはローレイドに駆け寄り、言った。


「ごめん……。ローレイド、起こしちゃったね……。うるさかった?」

「……いえ……」


 頭がぼーっとする。まだ頭が完全に起きていない様子だ。


「ローレイド! 次の試合の準備をしろ! 次でいよいよ決勝だ」


 ルドウィンがローレイドのところに行き、言った。

 ローレイドは嫌だった……もう人を殺したくない。そう心の底から思った。だから、その言葉に返事ができなかった。


「……」


 ローレイドは沈黙してしまう。しかし、ルドウィンがその沈黙を言葉でかき消した。


「ローレイド、貴様に選ぶ権利はない! これは国王の決定だ!」

「ルドウィンさん!!」


 ルーナがルドウィンを睨んだ。かなり迫力があったが、ルドウィンは物ともせず、続けた。


「必ず勝て! 勝てば我が国の同盟国が増える。」

「……」


 反応が鈍く、嫌だといわんばかりの沈黙に、ルドウィンは心を鬼にしていった。


「……忘れたのか? 貴様は犯罪者だ。自分のしたことを考えろ。生きられているだけでありがたいと思え。ほら、行くぞ!! ローレイド!!!」


 ルドウィンが怒鳴る。そしてローレイドを無理やり起こした。すると、見ていたルーナが我慢できずに言った。


「いくら何でもひどくありませんか!? 嫌がっているのに!!」

「……」


 ルドウィンはルーナを無視して、ローレイドに次の戦いの準備をさせる。


 そして、いよいよ決勝戦が始まった。



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王~崩落する世界より~ 空色 一 @sorairohazime

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