第8話 ソルジャー王国-2


 翌日。円形闘技場には満員の観戦者が、


「ワアアアア」


と、これから起こる闘技に興奮して歓声を上げた。

空中には、花火が揚がる。昼間なので煙しか見えないが、その音が歓声を助長していた。

 すると、この声援をかき消すほど大きな音で、実況がはじまった。


『当ソルジャー国の円形闘技場にお集まりの皆さん! こんにちは! 私今回の実況を担当しますアナウンサーのルネスバロと申します! 以後お見知りおきを! 本日は天候も良好! 実に闘技を行うにはもってこいの天気となっております!』


 ソルジャー国は大型系天女なので雨が降れば移動すればいい……そう思った観客が何名かいた。


『それでは選手入場です!! 一人目は、猫王国出身! 果たして通訳の力でどれほど戦える!? 黒猫ティルシ―!!』


 ティルシーが入場した。お金に目がくらんだらしい。この闘技は金貨1000枚もかかっているからだ。しかし出場者はそう多くない。その理由は、この闘技が命がけであるということを皆知っているからだ。そして、どんな猛者達がいるかがわかっているからだ。


「いえ~い! 皆ありがとうにゃ~」


 そんなことはつゆ知らず、皆に手を振っている。

 まさに知らぬが仏である。


『2人目は、ドラゴンの国からはるばるやってきたドラゴン!! その大きな翼で舞い天空からさす! ドラゴンのイブラッド!!』


 イブラットといわれたドラゴンは人3人分ほどの大きな巨体で、つめは鋭く、硬そうな鱗で覆われたドラゴンだった。


『3人目は、雷の国出身! この円形闘技場で雷鳴はとどろくのか!? 雷のセバスリー!!』


 セバスリーといわれた男は、ローブを羽織り、白髪と白髭が長い老人で、まるで魔法使いのようだった。


『4人目は、風の国出身! 突風を吹かせ、相手をどこかへ飛ばしてしまうのか!? 風のマルコラス!!』


 マルコラスと呼ばれた男は、鎧に顔以外の全身を包んだ男で、髪は黒く、無精髭が生えていた。


『5人目は、水の国出身! 相手を能力で溺れさせてしまうのか!? 水の女神シェリアル!!』


 シェリアルと呼ばれた女は、水色のローブを着ていて、まるで水の女神のようだった。


『6人目は、我らソルジャー国出身! その巨体で相手を踏み潰すのか!? ソルジャーのルーバート!!』


 ルーバートと呼ばれた男は、3メートルはある巨体の男で、全身鎧に身を包み、大きな剣を装備していた。


『7人目も、我らソルジャー国出身!! その華奢な体でどう戦う!? 女剣士リリアリー!!』


 リリアリ―と呼ばれた女騎士は、顔以外全身鎧に包んでおり、剣を装備していた。落ち着いた色合いの金髪で、髪は長く、綺麗な髪だ。顔は整っているが、鋭い目をしており、女性だが剣士の目をしている。


『8人目は、火の能力者! その烈火で相手を丸焦げにさせるのか!? 火のローレイド!!』


 ローレイドは呼ばれて、円形闘技場のこれから戦うことになるフィールドに立った。

 周りに観客が大勢いて、圧がすごかった。

 本当にここで戦えるのだろうかと、心配になった。


『以上! 8名が全出場者です! ルール説明します! 武器は何でもあり、自分の所有する武器がない場合、武器や防具を貸し出します! 能力も可! 相手が降参するまで、また審判がドクターストップするまで戦いは続きます。このフィールドは、出ても失格にはなりませんが、戦いから逃げたと判断された場合には、失格になります。思う存分戦ってください! なお、場外から出た場合、審判が天女候補の大地に乗ってついてきますのでご了承ください。また、心理戦をする場合、選手同士が会話すると思いますが、その時の言語の問題は心配しないでください。我々の優秀な猫の国スタッフが翻訳を随時してくれます!! それでは今から30分後、第一試合を行います!! 参加者は呼ばれるまで控室に待機していてください!!』



 待機室。

 そこでローレイドとティルシー、ルドウィン、ルーナは雑談をしていた。


「まさかティルシ―も参加するとはな」

「け……決してお金目的じゃ無いにゃ……優勝して、火の国の大使が強いということをアピールするためにゃ!」

「……でも、大丈夫ですか? 相手は本当に強そうですし……」


 ルーナが心配そうにティルシ―を見つめていった。


「大丈夫にゃ、あんなの見掛け倒しだにゃ……それに秘策もあるにゃ」

「……そうなんですね。わかりました! 応援しています! ローレイドは大丈夫ですか? 緊張している様子ですが……」


 ローレイドは緊張していた。あの観客の前で戦うことへの不安、そしておそらく能力を使わないと勝てないので、能力を使うことになるだろう。その能力をコントロールできるかの不安もあった。

 

 「……少し緊張しています……でも頑張ります!」


 ローレイドは振り絞った声でそう言った。

  

 その時、猫の国の係の人が来た。ティルシ―を呼んでいる。


「ティルシ―さん、出番です。 控室を出て、闘技場まで来てください」

「よし、出番にゃ。相手をコテンパンにしてくるにゃ」

「……頑張ってください! 見に行きますね!」


 そう言って、ティルシ―は意気揚々と控室を出て言った。


『第一試合! 黒猫のティルシ―対女剣士リリアリー!!』


 闘技場には、ソルジャー国出身のリリアリ―と、完全武装状態の黒猫のティルシ―がいた。

 そう、これが秘策だ。闘技大会の運営から貸し出される防具、武器をありったけ装備し、相手の攻撃を防具で完全に防ぎ、疲れてきたところで貸し出し武器を使い、とどめを刺すという作戦だった。


「……我ながらナイスな作戦にゃ。これで金貨1000枚いただきにゃ」


 ティルシ―がそう言うと、ゴングが鳴った。


『はじめ!』


 開始直後、リリアリ―が剣を持ち、目にもとまらぬ速さでティルシ―を切った。

 すると、ティルシ―の防具がバラバラになって落ちた。


「にゃ!?」

『おおーッと先制攻撃したのはリリアリ―だ!! 素晴らしい剣術だ!』


 そしてリリアリ―が剣を逆さにもち、柄の部分を無防備になったティルシ―の体にあてた。何回あてたかわからないほどに高速であてる。

 すると、ティルシーは倒れた。


『ティルシ―ダウン!! 瞬殺だ!! 開始10秒もたっていないぞ!!』


 ティルシ―に審判が駆け寄る。そして、ばつの文字を手で作った。


『おおッと! ティルシ―ここでドクターストップ!! リリアリーの勝利だ!』


 観客から歓声が上がる。

 ティルシ―はそのままタンカーに運ばれていった。


 見に来ていたルーナが心配そうにしている。


「……相手、強かったですね……ティルシ―さん、大丈夫でしょうか……」


 

 控室。 

 実況の声はここまで聞こえていており、控室にいたローレイドはティルシ―のことを心配していた。


「……ティルシ―さん……無事にしていればいいのですが……」


 そう、ポツリとローレイドがつぶやいた。

 すると、また、猫の国の係の人が来た。


「ローレイドさん、出番です! 控室を出て、闘技場まで来てください」

「……わかりました」


 ローレイドは控室を出て、闘技場まで行った。

 すると、周りの観客が多くなっていた。声援も大きくなる。それに伴い、ローレイドの緊張も増していった。


『第3回戦! 火のローレイド対ソルジャーのルーバート』


 ルーバートとローレイドが対峙した。ルーバートは体格が大きく、相手にするとかなり圧が凄かった。ルーバートが丁寧にお辞儀をした。


「よろしくお願いします」

「よ……よろしくお願いします」


 騎士道精神という奴だろうか、見た目とは裏腹にかなり礼儀正しかった。


『それでは……はじめ!』


 巨体が、ローレイドめがけて襲ってくる。思わずローレイドは叫んでしまった。

 

「わああ!!」


 そして、ローレイドの自己防衛本能が炎を出させた。


「!!」


 ルーバートが避けようとするが、思いっきりローレイドに近づいていたことと、勢いを殺せずにいたため、炎が直撃した。


「うわあああ!!」


 ルーバートが火だるまになる。もがき苦しむ。その様子を見て、ローレイドは木の国の天女のことを思い出した。焼けただれる皮膚、あの匂い、すべてフラッシュバックした。


「あああああ!!」


 炎を出し続けるローレイド。もはや自分で能力をコントロールできていないようだった。

 審判が止めに入ろうとするも、炎が強く、近寄れなかった。試合はローレイドの勝利とし、ルーバートを助けるため、水の能力者が消火活動を行う。ローレイドは試合が終了しても、能力を出し続けた。


 やがて、リロード状態になって、倒れた。

 

 こうしてローレイドは初勝利をあげたが、精神的ダメージは大きかった。




 

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