第6話 旅路
ローレイド一行は順調に飛行していた。
ルーナが大地を能力で浮かせ、飛行していたのである。
しばらく飛行していると、あたりの景色は一変し、天高くそびえ立つ岩の細長い山が多くなってきた。ぶつからないよう気を付けて能力を制御する。
「それじゃあ、飛行に成功しましたし……、ローレイドさん、行先を決めるために、そろそろ伝言鳥を偵察に出してはいかがですか?」
ルーナが提案した。
「わかりました……」
あまり元気のない様子でローレイドは答える。まだ完全には心の傷が癒えていない様子だった。ローレイドが大地の先頭にいる伝言鳥に話しかける。
「伝言鳥、頼みます。偵察に行ってください」
「主人、わかった。わかった」
そう言い、伝言鳥が飛び立ったその時だった。
主人公の前に一瞬光に反射する糸のようなものが見えた。その後、
「わっ!!」
ローレイドが思わず驚いて声を出した。仕方がないだろう、自分が浮いたのである。
そして、ローレイドはどこかへ飛んで行ってしまった。
◇
とある天高くそびえたつ岩山のてっぺんで、一人の女性が空中で釣りをしていた。
女性の年齢は16~17くらいだろうか、黒髪で肩くらい伸びたショートカットで外側へはねている。くりくりとしたかわいらしい目が特徴的だった。少し不思議ちゃんといわれそうな雰囲気を出していた。
「かかった!」
女性がそう言うと釣り竿を持ち上げ、思いっきりリールを巻いた。
「これは……大物だ!」
リールと釣り竿を持った感触でそう確信した。そしてしばらくリールを巻いていると、現れたのは――――ローレイドだった。
「びっくり!人が釣れた!」
聞いたことがある言語だ。この言語なら木の国の学校で習ったことがあるので日常会話くらいなら喋れる。そう思ったローレイドは女性にしゃべりかけてみた。
「……はあ……あのう……」
「?」
「痛いので、釣り針とってくれませんか? 自分は取り方がわからないので……」
「わかった。じゃあ、ちょっとこれかぶってくれる?」
そう言うと、女性は隣に置いていたバックから黒い液体をとり、ローレイドにかける。
「わっ……な……何!?」
黒い液体を全身にかけられたローレイドは驚きのあまりそう言った。女性は、隣に置いていたバックから、大きな紙を取り出し、紙を地面にしき、言った。
「この紙にうつ伏せに寝て!」
「……はい?」
「早く!! 乾いちゃうでしょ!!」
ローレイドは女性の気迫に押され、しぶしぶ紙の上でうつ伏せに寝た。
「これでいいですか?」
「うん! じゃあ、紙からどいて?」
ローレイドが紙から退くと、ローレイドの姿が黒く紙に映し出されていた。まるで魚拓だ。――――魚拓とは、釣りで釣った魚の大きさを記録するため、墨などで紙に転写したものである。いや……人なので人拓である。女性は、その地面にあった人拓を両手で取って、まじまじと見つめた。
「……うん!」
女性は、満足そうに言った。
「あのぉ……忘れてませんか?」
「?」
女性は首をかしげる。
「釣り針です……」
「! あ! ごめんごめん」
女性は謝ると、ローレイドから釣り針を取った。痛みが引く。それと同時にローレイドは現状を再確認した。
「はあ……ここはどこなんでしょうか……」
あたりを見渡す。天高くそびえ立つ岩の山々が立ち並び、下は雲で見えない。どこか見当もつかないし、ルーナたちも見当たらなかった。そこでローレイドは思い出す。伝言鳥の存在だ。確か伝言鳥は指笛で呼ぶと飛んできてくれると言っていた。
「よし……」
ピュイーーーと大きな指笛を吹く。初めてやったがうまくいった。そしてしばらくすると伝言鳥がやってきた。
「お呼び。お呼び。主人」
「ルーナのところに戻って、ここへ場所を案内して連れてきてください」
「承知!承知!」
伝言鳥がそう言うと、バタバタと飛んでいった。
「……なんか、ごめんなさい。あの時は人が釣れて、舞い上がっちゃって……」
女性が謝ってきた。
「……いいですよ。仲間……と言っていいかわかりませんが、一緒に旅する人たちに合流できそうですし……」
「……ありがとう。優しいのね」
「……優しくは……ないです」
ローレイドは自分が犯した罪を思い出し……そう言った。
「ところで……気になるんですが、釣れますか?」
「うん。たまに釣れる。ドラゴンとか……人が釣れたのは初めてだけど……」
釣れるんだ……しかもドラゴン……そっちの方が釣るのは難しいような……ローレイドはそう思った。
「……そうなんですね。でも、危険だからやめたほうがいいです……」
「……うん。わかった。そうする。」
そう話していると、伝言鳥に案内され、ルーナたちがやってきた。
ルーナが心配そうにしている。ルーナは迎えに来て早々言った。
「大丈夫ですか!? ローレイドさん……けがはないです?ってなんで真っ黒なんですか!?」
「……大丈夫です。いろいろありまして……」
「とりあえず、乗ってください」
ローレイドが、迎えに来たルーナの能力で浮いている大地に乗った。
「……さようなら。もうしないほうがいいですよ?」
「うん。ごめんね」
そう女性とやり取りし、ローレイド一行は去っていった。
一人になった女性は、去り行くローレイド一行を見て、言った。
「……いいなあ……私も旅に出て、いろいろな景色を見たい……」
特に見たいのはこの釣り竿が使えるという、地上にある海だった。浮遊都市に当然だが海はない。そんな海にあこがれて、このような釣りの真似事をしていた。この女性が地上に行けないのには理由があった……。
◇
一方、そのころ、ローレイド一行はとある問題に直面していた。
「……困りましたね……ローレイドさんがこれでは……」
ルーナがそう言うと、皆同意したようだった。
そう、あの釣りの女性のせいで、ローレイドは今、黒のインクで全身真っ黒に汚れていた。今から、火の国の大使として国々を回り、同盟国を作るのである。国のお偉いさんと会うことにもなるだろう。こんな格好で会いに行ったら、とても失礼で、同盟国を作ることなど不可能だと思われた。
「一応、陛下からお金はいくらか預かっている。国についたら、まず風呂に入り、服を調達しなければならないな。」
ルドウィンが言った。皆がため息をついていたところに、バサバサと伝言鳥がやってきた。見たことのない伝言鳥だ。
「火の国国王陛下からローレイドへ伝言『下を見て進め』」
「下を……見る?……ルーナさん、下に行ってください」
「……わかりました」
今現在、比較的高いところを飛行していて、雲が下にあるため、下の様子が隠れていたのでルーナに下に降りるようローレイドは伝えた。
雲を突っ切り、下へ行くと――――地面に大きな足跡が存在していた。
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