第5話 母

「すべては新国王のために!!」


 唱和した声が豪華な造りの部屋に木霊する。

 すると、国王が言った。


「皆の者、今現在、次期国王陛下は3段階目の試練を受ける準備中じゃ。もうすでに着々と準備は整っておる。そのために既にプランQ……天女が亡くなられたという誤報を国民にアナウンスし、すでに国民は避難完了しておる。」

「申し訳ありません、陛下、私の国はこの次期国王の試練の協力させてもらうことが初めてでして……説明をお願いいたします」


 そう、国の代表の一人が、国王に言うと、頭を下げた。


「わかった……3段階目の試練は回復じゃ。1段階目精神崩壊、2段階目能力開放で、次期国王の精神、体力ともに限界まで壊れかけておる。それを回復させるんじゃ。そうしなければ、次の4段階目、5段階目の試練に耐えられない。」

「どうやって……ですか?」


 先ほどの代表が質問する。


「それは、プランQを発動させたのがヒントじゃ。効率よく回復させるのには母の力が必要じゃ。ほら、昔から言うじゃろう、母の力は偉大だってな。だから……次期国王の母、つまり火の国の天女に次期国王の肉体、精神の回復を任せる」

「……正気ですか?今、次期国王は精神的にも不安定なはず……精神的に不安定ですと、能力が暴走する危険があります。最悪、その能力の暴走によって天女様が亡くなられますよ?」


 代表がそう言った。


「じゃからプランQを念のため発動したんじゃ。天女が亡くなっても被害が最小限になるようにな……じゃが、わしは信じておる。次期国王であるわが息子と、その母である天女のことを。無事、母の力で能力暴走させずに回復させることを期待しておる。」



   ◇



 そのころ、天女の間。そこは美しい建造物があり、天窓から差し込む光はまるでエンジェルラダーを連想させ、まるで神々の楽園に迷い込んだと錯覚させるような幻想的な場所だった。

 そこから、美しい歌声が聞こえる。子守歌らしきその歌は、まるでハープで奏でられているように心地よい音色だった。歌っていたのは、美しい純白の羽衣をまとった優しそうな女性だった。ローレイドを抱きかかえてまるで赤子をあやすように歌っている。

 その女性は火の国の天女だった。過酷な運命にある自分の息子と離れ離れで生活していたので、先ほど再開したときには、心配と、再開した嬉しさ、抱きかかえられる、触れられるうれしさのあまり涙を流してしまった。

 この一時しか、息子と触れ合えない。だから一時一時をかみしめながら貴重な時間を過ごしていた。


「もう大丈夫……もう大丈夫よ……よく頑張ったわね……偉いね……」


 そう、歌に挟みながら言った。


「う……ん……」

 

 心地よい歌と母のぬくもりに癒され、ローレイドは目が覚めた。


「……ごめんなさい。起こしちゃったかな……ごめんねローレイド」


 天女は優しい声色でローレイドに謝罪する。


「……あなたは……誰ですか?」


 天女は少し悲しそうな表情をして、少し考え、言った。


「あなたを見かけたこの国の天女です。私の権力で、無理言って国王にこの部屋に連れてくるよう頼みました。事情はすべて聞きました……」

「……」


 天女が犯罪者の俺をかばう……何か裏があるんじゃないかと思ったが……


「つらかったでしょう。わざとじゃないのに能力が暴走したせいで故郷を失い、自分の大切な方をすべて殺めてしまった……この話を聞いて、いてもたってもいられず、あなたをかばってしまいました……」


 そう言いながら天女は微笑んだ。この天女の笑顔は不思議と裏がないと思わせるようなそんな純粋な笑顔だった。


「いいですか……私はあなたの味方です。どんな時も。」


 ローレイドは純粋にその言葉が嬉しかった。天女を殺してから自分に味方など一人もいなかった。そう言ってくれる人が一人でもいることが、ありがたかった。


「……ありがとうございます」


 そのローレイドの言葉を聞くと、天女がローレイドを抱きしめた。温かい体温が伝わり、なぜか……懐かしいにおいがした。



   ◇


 そのころ、国王は同盟国の代表に今後の試練の準備の段取りについて話をしていた。


「皆の者、第3の試練が終わる前に、各国の天女に伝令して、今この火の国に隣接している国を、天女の能力で遠くにバラバラに配置してほしい。第4の試練の準備のためじゃ」


 天女の能力で浮いている国は、その天女の能力を使い、自由に動くことができる。


「はっ!! 仰せのままに!」


 そう言うと、各々窓のほうへ向かっていき、窓を開け、口笛を吹いた。

 しばらくすると鳥がやってきた。

 この鳥は伝言鳥といい、この鳥に何かしゃべり、伝えたい人の名前を伝えると、その人物の元へ行き、同じことをしゃべってくれる。遠くの人に伝言するのに便利な鳥なのだ。また、偵察したい時にもよく使われる。


「ソルジャー国天女に伝令、火の国の隣接をやめ、遠くへ向え」

「わかった。わかった」


 そう言うと、伝言鳥は外へ飛んで行った。

 同じように各国の代表も、天女に伝えた。

 その時、コンコンと扉がノックされた。


「よい、入れ」

「失礼致します!」


 貴族が入ってきた。国王に報告があるらしい。


「次期国王の第3の試練が成功しました!」

「!!」


国王が思わず喜んだ。


「わかった。すぐに向かう。ちょうど話し合いは終わったところじゃ」

「すまない、皆の者、急用ができたため会合はこれにて終了とする!」

「はっ!!」


 こうして会合は終了した。



   ◇



 そのころ、ローレイドは天女の間からでて、火の国王宮の入り口まで連行されていた。

 長い廊下を抜け、階段を降りると、そこはロビーになっていた。豪華なシャンデリアがあり、装飾が施されていた。

 そこに、国王、ルドウィンと女性2人が立って待っていた。国王の肩には伝言鳥がちょこんと立っていた。

 ローレイドが王宮入り口まで来ると、火の国の国王がローレイドに向けて言った。


「おぬしはわしが力いっぱい行使した能力をはねのけ、死刑は失敗に終わった。これ以上おぬしに力を使うのは国防の面でも危険と判断した。それに、天女からも死刑に反対されてしまったのでのう……そこでじゃ、おぬしにチャンスをやろう。見たところわざと天女を殺していない様子じゃったし、火の国にとってメリットのある行動をしてもらう。それを完遂した暁には晴れて死刑は免除。自由の身にさせてやろう」

「……」


 ローレイドはそんなうまい話は裏がある……そう思った。


「おぬしには火の国の同盟国を探す旅に出てもらう。我が国は国土を増やし、民を増やし、超大国になることを目指しておる。今現在、我の国の同盟はおぬしが落とした木の国以外では妖精の国しかない。なので同盟国を探してきてもらう。とても危険なたびになるじゃろう」

「……はい」


 ローレイドは国王がこの危険な旅で自分が死ぬことを期待しているのだろうと思った。さらにうまくいけば同盟国も増え、国王にとっては死刑囚が金の卵を産んだと喜ぶことだろう。だが、自分が断る理由もなかった。うまくいけば死刑が免除される。今はそれだけでありがたかった。


「今回の旅には必要最低限の戦力を持たせる。まず、移動手段に天女候補のルーナ」


 天女候補とは、天女の力を持った、天女候補生のことである。小さめの大地ならば浮かせて、動かすことができる。その小さな大地に乗れば、移動手段になる。


「はい! 私はルーナです。よろしくお願いします。ローレイドさん」

 

 ルーナはそう言った。ルーナは清楚な恰好をしていて、おしとやかな印象だ。金髪だが、目立つような派手な金髪ではない。落ち着いた色の金髪で、髪の長さは肩までの長さのロングボブだ。内側にカールしている。まつ毛が長く、少したれ目で、大きいぱっちりした目をしている。


「……よろしくお願いします」

「次に、通訳、猫の国出身のティルシ―」


 猫の国の人はあらゆる語学を習得している。それにより、様々な国の人々とコミュ

ニケーションをとることが可能だ。


「ティルシ―にゃ。よろしくお願いするにゃ」


 ティルシ―がそう言った。ティルシ―は黒い猫耳、しっぽがついており、まるで黒猫が擬人化したようだった。目は大きく、活発そうな印象だ。髪は黒く、美しいロングヘア―だった。


「……よろしくお願いします」

「次に、見張り役のルドウィン」 

「よろしく頼む」


 ルドウィンは身長が大きく、顔以外は全身鎧で覆われている。顔が怖いことで有名な国王の右腕で、髪は金髪の短髪で、髪型はオールバックだ。かなり優秀な火の国の王族で、名目は見張り役だと言ったが、実は護衛も兼ねており、国王が息子を心配してついて行ってもらうよう頼んだ。


「……よろしくお願いします」

「そして、最後にわしのいくつか持っているうちの一羽の伝言鳥を貸してやろう。この伝言鳥で偵察したり、報告したりするんじゃ。ほれ、伝言鳥、新たな主人だぞ」

「主人、増えた。増えた。よろしく」


 そう伝言鳥が嬉しそうに言った。


「……よろしくお願いします。」

「この伝言鳥は必要な時、指笛を吹けば来てくれる。便利な鳥じゃ。」

「……わかりました」


 国王から伝言鳥の簡単な説明を受けると、ローレイドはそう返事をした。


「それでは、行ってくるのじゃ。ルーナ、外に行き、能力を発動させることを許可する。皆の者、外へ出るんじゃ」

「わかりました。陛下。それでは外へ行き能力を発動させます」


 そう言い、ルーナは王宮を出た。ルーナの後に国王、ローレイド、ティルシ―、ルドウィンが外に出る。

 ルーナは手を前に出すと、力を込め能力を発動した。

 すると、ルーナの周りの大地、半径10mくらいが、ボコッと取れて、浮いた。


「それじゃあの。健闘を祈る」


 国王がそう言い、手を振った。その時、国王の肩にいた伝言鳥がルーナの浮かせた大地の先頭にちょこんと立った。まるで船の船首像だ。

 ローレイド、ティルシ―、ルドウィンはルーナが浮かせている大地に乗り込んだ。


「行く。行く」

「行ってきます……」

「行ってくるにゃ」

「陛下! 行ってまいります!」

「それでは、出発します!」


 ルーナがそう言うと、大地が高く浮かび上がり、勢いよく飛んだ行った。

 見えなくなるまで手を振っていた国王が、こうつぶやいた。


「……第4の試練……頑張るのじゃぞ……次期国王、わが息子よ」


 第4の試練は情報だ。国王たるもの、傘下国の情報を頭に入れておかなければならない。様々な国の情報を、勉強するだけでなく、旅に出て実際に行き、体感することで効率よく学ぶ。国をバラバラにしたのは、ローレイドを旅に出させ、偵察する能力などを培うためだ。

 国王は第4の試練の厳しさを知っているため、心配だった……。

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