第31話 照れくささと恥ずかしさと

 その後、打ち上げ兼親睦会は何事もなく、終始盛り上がりを見せて終わった。

 私自身も今まで話したことがない人と話すこともできたし、ここに来てよかったなと強く思う。


 それにどうやらあの男女で話すやつをきっかけに少しだけぎこちなかった男女間も見違えるほどに仲が良くなったし、クラスがすごくいい雰囲気になった。

 あれは思い返せばすごく……すごく恥ずかしかったけど、やってよかったなとは思う。


「今から二次会サ〇ゼでやるんだけど、行く人~」


 カラオケ店を出た後、そう呼びかける丸山君。

 ほんとあの人の行動力には驚きだ。今度から仕切るときは率先して丸山君にやってもらうとしよう。


「いくいく!」

「いくぜうぇ~い!」

「まだまだ夜は長いぜ!」

「うぇ~い!」


 あれ? 私のクラスこんなにパーティーピーポー感あったっけ?

 ほんと、人ってすぐに変わっちゃうんだな。


 いや、私としてはクラスの雰囲気が良くなるのはいいと思う。とてもいいと思う。

 だけど……問題を起こさないことを祈るばかりだ。

 あと、私このノリについて行ける気がしない……。


「舞は二次会どうする?」


 加奈にそう聞かれる。

 加奈の横には花と海が立っていて、いつもの妹一行? メンバーが揃っていた。


「加奈たちは行くの?」


「う~ん……」


「正直なところを言えば……」


「あのノリについて行ける気がしない」


「いつも加奈たちあんな感じじゃん」


「あれは四人だからできるんだよ~。複数人となると疲労が……ね?」


「おばあちゃん臭いねぇ」


「クンクン……別に臭くないけど!」


「ほんと花純粋ね……」


 花は本当に純粋だ。

 今のでほんとに臭いんだと勘違いする人はきっと花ぐらいだろう。

 

 さすが私たちのアイドル。

 今日も安定して可愛い。


「じゃあ私たちはここで帰ろっか」


「そうだね」


 というわけで、私たちは二次会に参加するのはやめることにした。

 だけど現在の時刻は十七時。思ったより時間が余っていて、今帰るには少し早い気がする。

 

 それを四人全員が思っていたのか、以心伝心のようにお互いに思っていることが分かった。

 顔を見合わせて、ふふっと笑う。


「じゃあ私たちはいつもの場所に行きますかね」


「だねだね」


「今日ちょうどお兄ちゃんみくちゃんとデートらしいし。このまま朝まで飲み明かすぞ~!」


「明日休日だからって浮かれずぎじゃないの?」


「女子高校生とは、浮かれる生き物である」


「何それおかしい」


 海のツッコみに、みんなで笑う。


 いつもあまり話さない人と話すのも楽しいし、クラスの人たちとわいわいするのも楽しいけど、でもやっぱりこの四人でいるのが一番楽しい。

 そんなことを思いながら、私たちは駅に向かって歩き始めた。


「あ、あのっ!」


 その瞬間、後ろから肩を掴まれる。

 何事かと思って振り返れば、そこには顔を真っ赤にして息を切らした蒼井君の姿があった。


「あの……夏休み、どっか行かない?」


「わ、私と⁈」


 あまりにも突然のことだったので、無意識のうちに声を上げてしまった。

 

「い、嫌なら全然いいんだけどさ……できれば、どこか遊びに行きたいなって」


「……」


 たくさんの視線を感じた。

 蒼井君から、真剣な眼差しを向けられた。


 どれが理由かわからないけど、私の体が信じられないくらいに熱くなって、たぶん顔も真っ赤になったと思う。

 だけど、そんな状況でも自分の言いたい言葉はすんなりと出てきた。


「私も……行きたい……です」


 恥ずかしさのあまり敬語になってしまう。

 だけど蒼井君は無邪気にぱーっと笑顔を咲かせ、手を握ってきた。


「マジか! ほんとにありがとう! 楽しみにしてる!」


「う、うん……わ、私も……」


「じゃあ、また」


「う、うん……また」


 手を振って、二次会組の後を追う蒼井君の背中を見る。

 なんだろう……すごく、不思議な気持ちだ。


 そんな気持ちに浸っていると、またしても肩を掴まれた。


「イケメンと……夏休みデート……」


「舞はやるなぁ」


「おめでとう」


 後ろには嫉妬の視線を向けてくる加奈と、にやけた花と海。

 あまりにも衝撃的なこと過ぎて、全然気づいてなかったけど、この二人後ろにいたんだった……。


「さぁて色々と聞かせてもらおうか!」


「ちょ、加奈⁈」


「早く私たちの二次会始めるぞ~」


「ごうごうごうー!」


 三人に背中を押されて、ずりずりと進んでいく。

 

「ちょっと三人ともー!」


 気づけば私は笑みをこぼしていた。

 三人にいじられて照れくさいのに、私は笑っていた。


 今年の夏は、高校生になって初めての夏は。

 

 一味違うのかもしれない。

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