第30話 人見知りだからこそ響く言葉

 未だに沈黙が続く俺と朝日さん。

 お互いに話そうと試みてはいるものの、その活力は結局ドリンクを飲むのにいってしまい、動きなし。


 周りはあんなにも和気あいあいと話しているということを目の前で見ていると、自分がどれだけコミュ障なのかを痛感する。

 ほんとごめん朝日さん。


 心の中で俺は全力で朝日さんに土下座をしていた。

 男ながらもう泣きそうである。


 ただここで泣くわけにはいかない。というか、今にも朝日さんが沈黙のあまり泣きそうな顔をしていた。

 その顔を見ていたら、自分の顔を見ているような気がしてきて、俺は気づけば言葉をこぼしていた。


「なんか俺たち、ちょっと似てるよね」


「えっ?」


 無意識のうちにこぼれた言葉。

 内心、「俺何言ってんだよ⁈ 急に⁈ 急すぎんだろあほかよ人見知りかよそうだよ!」と慌てていた。


 が、無意識に紡がれた言葉であるならまた無意識のように会話するということを意識しなければいいんじゃないか、と逆に冷静になった俺が助言。

 一度息を吐いて、また話し始めた。


「なんていうか、学級委員やってるのに案外人見知りで。全然話したことないわけじゃないのに、いざかしこまって話そうとすると委縮しちゃって。そういうところ、ちょっと似てるなぁって」


「……確かにそうだね。似た者同士かも」


 朝日さんが夕陽のような温かな笑みを浮かべる。

 それが俺の頭から離れてくれなくて、俺は気づいたらその笑顔に見入ってしまっていた。


「……あ、蒼君? は、恥ずかしいんだけど……」


「んあっ⁈ あっ、ご、ごめん……」


「……い、いや……だ、大丈夫……」


「あ、あはは~……」


 な、何やってんだ俺は!

 どんだけ気持ちが悪いんだよ俺! 友達でもない、知り合い程度の女の子をじっと見つめるとか、いつから俺はそんなにがっつくタイプになってしまったんだよ。


 後悔と恥ずかしさが混ざりあって、積もっていく。

 穴があったら入りたいとはこのことか……。


「で、でも蒼井君はすごいと思う。いろんなところで活躍して、たくさんの人に認められて」


 朝日さんが悲し気な表情を浮かべる。

 その表情を見ていたら、悶えの原因であった後悔と恥ずかしさも吹き飛んで、俺はまっすぐに朝日さんを見ていた。


「そんなことないよ。俺なんて運がいいだけだし、それに……たくさんの人に認められてるわけじゃないよ」


「そんなことないよ。いつも誰かが蒼井君の周りにいるし……」


「だったら朝日さんだって――」


「私はいさせてもらってるだけだよ。誰かを引き付けられるような魅力なんて――」


 また朝日さんが悲し気な表情を浮かべた。

 今にも消えてしまいそうな、そんな儚い表情。


 俺は朝日さんに、そんな表情をしてほしくないと思った。

 なぜなら俺はクラスで朝日さんをどこか羨ましいと思っていたから。すごいと思っていたから。


 だから自然と言葉は出てきた。


「たくさんあるよ」


「えっ?」


「みんながやりたがらないような仕事を率先してやってくれるし、陰でクラスメイトを支えてくれてる。それに休みの人の分の板書もノートにしてあげてるし、朝一番に来て教室を掃除してくれてもいる。そんな優しくて気配りのできる朝日さんに――魅力がないわけない」


 気づけば俺は、息をすることも忘れてそう言っていた。

 辺りはシンとしていて、カラオケボックスとは思えないほどだった。


 はっと意識を取り戻すと、にやにやしながら俺のことを見てくるクラスメイトと、顔を真っ赤にしている朝日さんが視界に入る。


 やっちまった……。


 ぼっと体中に熱が灯った。


「あっ、その……」


「……け、結構見てくれてるんだね」


「っ……!」


 やばいまた何言ってんだ俺!

 明らかにさっきの発言はストーカー野郎じゃねーか!


 もう今日が命日だと言われても信じるレベルで心臓がバクバク言ってる。

 俺死ぬの⁈ もう死ぬの⁈


「その……あ、ありがとう。私も蒼井君の周りをよく見てるところ、魅力的だと思うよ」


 スカートをきゅっと摘まみながらそう言う朝日さんの破壊力はえげつなく、俺はさらに顔に熱が帯びた。


「あ、ありがとう……」


 沸き起こる拍手と歓声。


 この日のことを一生忘れないだろうと、この時の俺は思った。




   ***




 将が遂にやった。

 あの女の子に対して人見知りを発揮しまくる将が遂にやった……。


 主催者であるわたくし丸山、泣きそうであります。


 実際に数人の男子は泣いていて、もらい泣きしそうであった。

 ポケットから女子の涙を拭うように入れていたポケットを取り出して、自分の目に当てる。


「(俺ももう年かな……)」


 そう思う彼女いない歴十六年の丸山だった。(一言余計だ!)



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