第28話 恋人が欲しい者たちの思惑

 カラオケが楽しまれている中、一部の人間は今日の本当の目的を果たすために密かに動いていた……


「(任せろ。そろそろあれをする予定だから)」


「(そうかそうか。ついにか……)」


 丸山は隣の奴に密かにそう言う。

 ちなみに丸山がいるのは妹一行がいる部屋。この部屋を仕切っているのも丸山だった。

 残りの二部屋にも同様に仕切り役がおり、完璧な布陣。


 そのため三部屋全てにおいて丸山の指揮が取れる状態になっていた。

 ……軍師丸山恐るべし。

 

「(でも、果たしてこれを女子は受け入れてくれるのか?)」


「(そこは任せろ。何せこっちにはあっち側に味方がいる)」


「(何ッ⁈ 協力者か⁈)」


「(あぁそうだ。何も男子だけが恋人が欲しいってわけじゃないからな)」


「(お前……天才かよッ⁈ お前についてきてよかった……うぐっ!)」


「(泣くのは早いぞ。泣くのは目標を達成してからだ)」


「(そ、そうだったな)」


 グループに合図を送り、ちょうど現在誰も歌っていないことを確認する。

 どうやら今ちょうど三部屋とも誰も歌っていないということだったので、早速始めることにした。


 目線で女子側の協力者に合図を送る。

 数人ほどが俺にサムズアップしてきたのでまさに「舞台は整った……!」状態となった。

 

 丸山は息を飲んで、グループに開始の合図を送る。

 そしてマイクを持ち、立ち上がった。


「みんな! 突然なんだが俺の話を聞いてくれ!」


 先ほどまで散乱していた視線が、丸山に一点集中する。

 それを確認してから、話を続けた。


「もうこのクラスで過ごして三か月になるけど、やっぱりまだ男女間にぎこちなさがあると思うんだ。それはきっと、話す機会がなかったからだと思うんだ」


「うんうん」


 協力者はあからさまに頷く。

 ちょっとそれあからさますぎない? と思う丸山だったが、誤魔化すように声量を上げる。


「でも俺はこのクラスで過ごせる一年間を、いいものにしたい! だから今から——男女親睦会をしよう!」




   ***




 な、なんか丸山君が熱く語ってる……。

  

 突然始まった丸山演説会。私と舞と海、花の四人はぽかんと口を開けながら「なんのこっちゃ」と思っていた。

 っていうか、丸山君そんなキャラだったんだ。びっくり仰天。


「まぁ具体的に言えば、くじでペアを決めて適当に話そうって感じなんだけど……どうかな?」


「あるある! それやろやろ!」


「いいね! それ楽しそう!」


 ……っていうか女子も結構乗り気なんですけど……このクラス、こんなにノリよかったっけ。

 あれか、カラオケドーピングか。もはや雰囲気酔いか。すごいな、カラオケ。


「じゃあやろうか! ちなみにくじは……実はもう作ってありますぅ!」


 ノリノリでポケットから割り箸を取り出す丸山君。

 私はこんなにもノリノリで割り箸を取り出す人を始めて見た。感動はない。


「さすが丸山日本一!」

「雑用はお前の専売特許だ!」

「割り箸の丸山!」

「わ、割り箸!」


 ボディビルの大会並みに観客席からの声援が響く。

 っていうか、最後の人無理やり言った感がすごい……ナニコレやらせ?

 ちなみに女子も拍手をしていた。


 ……人ってカラオケでこんなにも変わるものなんだ。


「じゃあみんな、じゃんじゃん割り箸引いちゃってくれ!」


 その言葉を皮切りに、みんなが割り箸を引いていく。

 どうやら割り箸の先端部分には番号が書いてあるようで、同じ番号の人と話そうというシステムらしい。


「引きにいこっか」


「う、うん」


 舞は少し緊張した様子。普段学級委員をやっていて人前に立つのは慣れているものの、男子と話すのは慣れておらず、緊張しているようだ。

 何この可愛い生き物。私舞と話したい。


 そんな感じでぞろぞろと四人で引きに行った。

 残念ながら男女ペアじゃないとダメらしく、私の要望は却下された。むぅ。


「じゃあ同じ番号の人見つけて、適当に話しよう!」


 ってなわけで、真面目に親睦会がスタートした。




   ***




「(だ、男女親睦会かぁ……)」


 薄々そんなことをやるだろうなと思っていた蒼井将だが、いざこうしてやるとなると緊張してしょうがなかった。

 恋人が欲しい……という願望はなくはないけど、別に丸山達ほどではなく。


 ただ将自身も男女同士仲良くなったらよりクラスが良くなるなと思っていたので、下心を抜きにすれば丸山の提案はよかった。

 けど、学級委員ではあるけどそういうのは緊張する。


 何せ学級委員もクラスの奴らに投票で票をたくさん入れられて仕方なくやっているのであって、本来将はこういうのは苦手だった。


「おい将引きに行こうぜー」


「お、おう」


 ここはクラスのために(下心に満ちた奴らのためじゃない)腹をくくることにする。


「……一番か」


 番号は特に関係ないので、一番の割り箸を持って席に腰を掛ける。

 なぜだろう。女子から異様な視線を感じる。


 まさに獲物を狙うような目つきで、将はさらに委縮した。


「ほら舞早く引いちゃいなよぉ~」


「わ、分かってるから。花背中押さないで」


「ほれほれ~」


「や、やめてって……」


 急かされて一気に割り箸を引く舞。


「一番だ……」


 舞がポツリと呟く。

 それを聞いていた将は、もう一度自分の割り箸に視線を向けた。


「一番……」


 そう呟いた瞬間、舞と将の視線が合う。


「……」


「……」


 お互いに知らない人ではなかったので安堵すると同時に、無性に気恥ずかしくなって視線をぷいとそらした二人だった。



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これから毎週土曜19時更新となります。

理由としては、この物語をじっくりと書いていきたいという思いがあるのと、新作をジャンジャン書いていきたいという気持ちがあるからです。


これからもあそいもをよろしくお願いします!


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