第27話 音痴系アイドル、始動
打ち上げが始まった。
クラスのおよそ三十人ほどがこの打ち上げに参加しており、十人一グループで各部屋でカラオケを楽しんでいた。
私たち妹一行は同じ部屋で、現在国家を静聴中。
絶対カラオケ言ったら国家歌う人いるよね。それである程度のところまで来たら、すごい気まずい雰囲気になるよね。
「ふぅーいい歌だったぜ」
そう自分で言いながら、気持ちよさそうに汗を拭う……名前がぱっと出てこない人。
とにかく一曲目が歌い終わり、その軌道に乗って次々と順番で歌っていく。
私的にカラオケは別に嫌いじゃないので別にいいのだが、舞がすごく嫌そうな顔をしていた。
この打ち上げに来たからには一人一回は必ず歌おうという謎のルールがあるので、歌うということは免れない。
「……やだぁ」
「舞は恥ずかしがり屋だなぁ」
「そうじゃないんだよ加奈。私……音痴なの」
「あらぁ」
舞が好きすぎるせいなのか、むしろ音痴で恥ずかしがっている舞を見たいと思ってしまった。いや、たぶん読者さんもみんな舞の恥じらいライブショーをきっと見たいはず!
想像しただけで頬が緩んでしまう。可愛いなぁ舞は。
「でも大丈夫! このカラオケにうまい下手とかないから! それに、私も下手だからね?」
「ほ、ほんとに? じゃ、じゃあ頑張ってみようかな」
「うんうん!」
私が満面の笑みを浮かべている横で、舞が「よしっ」と小さく気合を入れている。
なんだこの可愛い生き物は。普段は学級委員で真面目なのに、こういうギャップはずるい。
もう私舞と付き合いたい。(切実)
「じゃあ次芹沢さんよろしく!」
「あいよ!」
順番で回ってきたので、私はマイクを取ってモニターの前に立った。
久しぶりに歌うので緊張はするけど、楽しんで歌おう。
私はアイドル芹沢加奈。オンステージ!
「♪~」
気持ちよく歌う。私はアイドルだと自分に錯覚させて。
それに周りの一部の男子がペンライト持って本気でヲタ芸をしてくるもんだから、私の気分は絶好調。今なら武道館に行ける気がする。
勢いでそのまま一曲を歌いきった。
湧き上がる拍手。あれ? 心なしかこの部屋以外からも拍手が聞こえる気がするぞ?
「ありがとう~」
さながらアイドルのように手を振って持ち場に戻る。
するとそこには「裏切者」という目で私のことを見てくる舞の姿があった。
「裏切り者ぉ……」
っていうか実際に言われた。
「えっどういうこと⁈」
「下手って言ったくせに……」
「えっそんなに上手くなかったでしょ?」
「じゃあ何なのあの点数!」
舞が差したモニターに表示されていた点数、100点。
……やった♪
「じゃあ次舞の番ねー」
「えっ加奈⁈ この雰囲気で私を出陣させるの⁈ ってイントロ始まってる⁈ そして気体の眼差しを向けられてるの私⁈ えっ、いや、あぁ~」
押し出されるような形で前に立たされた舞。
私のことジト目で見つつも腹をくくったのか、マイクを両手に握って歌い始めた。
「♪~」
全員息をすることを忘れたように、舞の歌声に魅了される。
いや、その表現は正しくない。正確には、舞本体に魅了されていた。
「可愛すぎる……」
「もう俺死んでもいい」
「解脱した……」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
もう男子たちがバグるほどに。
予想通り……というか舞の言う通り、確かにお世辞にもうまいとは言えなかった。
けど、恥じらいながらも一生懸命に歌う姿が、ものすごく可愛かった。
きっと私たちは、新しいアイドルの形を見ているのだろう。
音痴系アイドル、新ジャンル開拓。
その後、ニュースターの歌声にカラオケの館内中がスタンディングオベーションプラス拍手をしたという。
——彼女の歌声を聞いて
「はい、もう死んでもいいと思いました。というか、きっと可愛いの究極形はこれなんだと確信しましたね。きっとアイドル業界、動きます」
打ち上げは、まだまだ盛り上がる。
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