第25話 おしどり兄妹
何時だったかは覚えていないが、あまり遅くない時間にみんなは帰った。
みくるも「晩御飯作ってない!」と慌てた様子で家に帰っていったので、今はこの家にいるのは加奈と俺だけ。
簡単に炒飯でも作って晩御飯を済ませ、風呂に入る。
今日はじゃんけんで勝ったので一番風呂をいただいた。
でもさ、二番風呂そんな嫌がらなくてもいいと思うんだよね。それ、俺傷ついちゃうやつだからさ。お兄ちゃんショックだからさ。
なんだろう。思春期の子を持つ親父さんが、「パパの洗濯物別にして!」と言われる感覚に多分似てる。いや、その感覚知らないんだけどね。
「さてと、勉強しとくか」
今日はがっつりとみくるに絞られたので、明日はそうならないためにも勉強しておこう。
まぁ途中からみくるさん完全に寝たんですけどね。
勉強に集中することニ十分。
湿った髪をタオルで拭きながら加奈が風呂場から出てきた。
「ふぅ~よき湯」
「そりゃよかったな」
「お兄ちゃんが先に入ってなきゃもっと最高だったのになぁ」
「いやいや、むしろ俺が入ったから最高になったんだよ。多分お兄ちゃん汁は保湿効果あるぞ」
「お兄ちゃん汁って……さすがにそれは引く」
「ですよねー」
いや、分かって言ってたところありました。ほんと、無自覚に言ってたとかじゃないから。むしろこれが狙い通り? うん間違いないね。
「それにしても、あいつらいなくなるとこうも静かになるもんだな。勉強はかどったわ」
「そうだね。でも私はわいわいしてた方が好きだけどなぁ」
「……そうだな」
こいつは昔からそうだった。
親が仕事で忙しくていつも家に帰っても賑やかな家庭音はなくて、孤独感が気体となって家に蔓延していた。
でもあのことがきっかけで、こいつも明るくなったんだよな……懐かし。
思い出がふと蘇った。
「で、お前はテスト大丈夫なのか?」
「私、こう見えても勉強はなぜかできるんです。勉強しなくても」
「なぜこうも妹と兄でスペックに差が出てしまったんだ……お兄ちゃん悲しいです」
「お兄ちゃんにだっていいところはたくさんあるよ。ほんとに」
妹に頭をよしよしされる兄。
俺たちはご近所では有名なほど仲がいい兄弟。だが世間体を考えれば、兄が妹に頭を撫でられるのはどうかと思った。
だが、この妹の厚意を無下にするわけもなく、恥ずかしい気持ちを抑えて頭を撫でられておいた。
「だけど、まぁ高を括ってると点数取れないぞ?」
「……そうだね。じゃあ私も勉強しよっと」
脱衣所に消える加奈。
その後ドライヤーの音が十分ほど響いた。髪が長い女子は大変だなぁと思いながら問題を解き進めていく。
「ドライヤーおっわり~!」
「おつかれい」
ルンルンな加奈が勉強道具を取りに自室に戻っていく。
なるほど。テンションが高いということは、髪がいい感じに乾かせたってことだろうなと、長年の経験が発動。
少ししたら、加奈が俺の隣の椅子に座って、勉強道具を机に広げた。
「さてと、やりますか!」
「もう俺はやってる」
「一言余計じゃいぼけい!」
ツッコみを軽く受け流して、二人してペンを走らせる。
それは何気に深夜まで続いた。
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