第19話 寿が……

【ちょっとした妹一行会議の様子】


「というわけで、キスの一件は収束したわけなんですけど……」


「私たちの中では、むしろ膨らんだ感じだよね」


「「「それなぁ」」」


 全員項垂れてしまう。

 なにせあんなにも衝撃的なラブコメイベントがあったのにも関わらず、結局は振り出しに戻ってしまったから。

 

 あの二人の関係、形状記憶合金と同じなの? 戻るの早すぎない?

 

 そんな風に悪態をついても、きっと神様は許してくれると思う。


「今回の被害者は間違いなく私たちだなぁ」


「なんかもうあの二人に振り回されてるカンジ。別に嫌ってわけじゃないんだけど……」


「もやもやが止まらないね」


「ほんとそれ」


 私の言いたいことを、舞が代弁してくれる。

 花も海もすごい勢いで頷いてるから、きっと満場一致でみんな同じ気持ちなんだろう。


「もう正直このまま時が過ぎて、結婚も……付き合ってすらもいないのに二人で戸建てに住んで楽しく暮らしてる様子しか想像できないよ~」


「「「わかりみが深い」」」


 花の的確な想像に全力で賛同。

 もはやあの二人、付き合うとかそういう次元超えてるな。

 もうお手上げ。


「そしてその姿を見ている、独身の私たちまで想像できる……」


「「た、確かに……」」


 海の言葉にも、全力で賛同する私たち……ってあれ? 鍵カッコが一つ足りないような……

 

 舞も海もそれには疑問を抱いたようで(なんで鍵カッコ見えてるの?)、もはや消去法で確定された人物のところに視線を向けていた。

 視線を向けられたとうの本人は、


「あはは~、確かにね~」


 と遅れて共感する。

 も、私たち三人にはその花の姿が妙に頭に残ってしまった。


「「「(何かがおかしい)」」」


 そう思う私たちだったが、終始何かを誤魔化すように、花は笑っていた。




   ***




 もはや恒例となってきた図書室で勉強会を終えた俺とみくるは、夜に溶け込んだ通学路を歩いていた。

 しかしながらキスの一件が収束した後、なぜかみくるは距離を詰めてきていて、たまに手を繋いでくるようになった。


 不思議に思って聞いてみれば、「キスが嫌じゃないなら、手を繋ぐのはもはや義務だよぉ~」と笑顔で答えるばかり。

 もう意味が分からず、俺は身を任せることにした。


 正直な心境を言えば、


「付き合ってもないのに、こんなことしていいのかな俺たち」


 と明らかに動揺しているのだが、保健室の時に「幼馴染でキスをするのは自然」的なことを言ってしまったので何も言えない。

 いや、冷静に考えたら明らかにおかしいこと言ってんだって俺もわかってんだよ?


 でもみくるがこんなにも幸せそうな顔してたら、もうどうでもよくなるじゃん。

 つまり……平和が一番。


「えへへ~」


「……」


「えへへ~」


「……」


 現在ちょうど俺とみくるは手を繋いでいた。

 それでいてみくるの顔は緩みっぱなしで、最近おかしいと思う。


「テンション高いな、みくる」


「えぇ~そう? 普通じゃえへへ~」


「普通だったらしゃっくりみたいに「えへへ~」って言わないんだよ」


「えへへ~」


「ダメだ。もう別世界にいってやがる……」


 まぁどこかの街灯インタビューで言っていたけど、極論幸せならおっけいなのだ。

 ただ……いつかは異世界から目覚めてほしいなとは思うけどな。


 まるで子供を連れた保護者のような気分になりながら、下校道を歩く。

 前に寿を見た公園の前を通る。


 今日も相変わらずバスケットボールの音は響いていて、なんだか温かい気持ちになった。

 

 また差し入れでもしてやるか。


 そう思って公園に入ろうとしたとき、あることに気が付く。

 

 よくよく見れば、公園でバスケをしていたのは寿だけではなかった。

 寿よりも少し身長が高いくらいで……制服で……って、あれ男子用の制服じゃねーか。


 ってことは……寿と一緒にバスケしてるのは……男?

 顔はよく見えなかったけど、体格とか髪型とか、服装からして間違いなく男だと思う。

 

「寿に彼氏いたんだ」


 あの寿に彼氏……


 まぁ、意外じゃないか。




 ——この日見たことがきっかけで、新たなラブコメが巻き起こるなんて誰も知る由もなかった。


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