第14話 体育祭③

「午後の部を開始します」


 放送部のアナウンスが会場に響く。

 体育祭の午後の部が始まった。


 午後の部最初の種目は借り物競争。

 各クラスで数名ずつが出ることになっており、まぁリレーとあまり変わりない。


「今年もあるんだろうな、例のやつ」


「例のやつ……か」


 例のやつ。

 もはや直接言ってしまうのを避けてしまうほどに、ある意味危険なもの。

 ヴォル●モート的な? うん違うか。


 うちの高校の借り物競争で、例のやつと言えば大体の人に通じるほど、有名なものである。


「あれ引いた奴ほんと可哀そうだよな」


「ほんとな」


「数年前の伝説なんだが、例のやつを引いた人がパニクってお母さんを連れて行ったらしい。その後のその人のあだ名はマザコンになったらしいけど」


「それはひでぇ話だな」


 拗らせラブコメのように焦らさずに言ってしまおう。

 例のやつとは、借り物競争のお題として出される『好きな人』というお題だ。

 この高校では昔からの伝統らしく、一枚だけ入ってるらしい。


 そのため毎年借り物競争は、やる側にとっては最悪な競技なのだ。

 まぁある者はそれを利用して告白してアオハルわっしょいしようと、自発的に参加するらしいが……そんなリア充はごく稀である。


 しかし見る側としては一番人気で、毎年異常なくらいに盛り上がりを見せている。


「さて、今年はどんなドラマが生まれるのかな。クックックッ……楽しみだ」


「お前はマッドサイエンティストみたいな笑い方をいつからし始めたんだよ。あと、テンション高すぎ。有海さんにエネルギーでももらったのか?」


「べ、別にそういうのじゃねーから。体育祭も本格的に盛り上がってきたなぁと」


「ふーん」


「つまらなそうな反応すんなこら!」


 勢いよくツッコむ雅樹をスルーして、グラウンドに目を向ける。

 もうすでに何人かレーンに立っていて、各々準備体操やら駄弁りやら自撮りやらをしていた。

 

 ……どこで自撮りしてんの? 自撮りにTPOとかないの?


「そういえば、妹一行出るって言ってたな、借り物競争」


 こないだ俺の部屋でまた……もう一度、『また』女子会をしているときに、言っていたのを思い出した。

 選手じゃんけんで負けてしまったとか。


「へぇーそうなんだ。じゃあ誰かが『好きな人』のお題出したら、お前のとこ来るかもな」


「俺のところに来るわけねーだろ? 俺はただの加奈の兄だからな」


 そんな会話をしている間に、いつの間にか借り物競争が始まっていた。


 四人の走者が、少し走ったところにある白いボックスを拾い上げて、中からお題カードを出す。


「うわぁー」

「はぁー?」

「おぉー」

「ほへぇー」


 そのお題をクリアするために、観覧席に向かう走者。

 そしてジャージやハンカチ、カツラなんかを持って、次の走者にバトンタッチ。

 

 ……あのカツラ、校長からとってきたよね? 校長カツラだったの? ってかよく貸してくれたなおい。ノリノリじゃねーか。


 そんなこんなで借り物競争は大盛り上がりを見せていた。


 白組の次の走者は寿。

 あれなんだろう? 盛り上がり方にすごくデジャブを感じるんだけど。

 それに嫌な予感がする……


 その予感は的中して、寿は俺の方に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん靴をください!」


「……あいよ」


「ありがとう!」


 寿が俺の靴を持って駆けていく。

 隣で雅樹が「ほらな?」と言いたげな表情を浮かべていた。


 いや、きっとたまたま俺が目に入っただけだろ……。


 次の走者、朝日。


「お兄さん、ハチマキくれませんか?」


「あ、あぁ……どうぞ」


「ありがとうございます!」


 丁寧にぺこりとお辞儀をして、すぐに走り出す。

 隣で雅樹が吹き出していた。


 ……この調子で言ったら俺、裸になりそう。


 次の走者、三ツ谷。


「……英二さん、靴下くれませんか?」


「く、靴下⁈ ま、まぁいいけど……」


「あ、ありがとうございます! 大事に使わせていただきます!」


「借り物競争だけに使おうな」


 ってかさっきからなんだよこのお題たち。

 俺の片足だけ今裸足なんですけど。結構恥ずかしいんですけど。


 隣の雅樹は、腹を抱えて笑っていた。ついでに片足だけ裸足の俺をパシャリ。

 こいつに天罰下れ。


 三人も俺のところに来たので、色々と注目を浴びて疲れてしまった。 

 しかし、妹一行はまだメンバーが一人いるわけで。

 この調子で行くなら、そいつが俺に何かを借りることは決定事項であった。

 

 案の定、お題カードを持った加奈が、俺のところにやってきた。


「お兄ちゃん」


「なんだ? 俺はお前に何を渡せばいい?」


 聞かれる前に、こちらが聞いておく。

 加奈は何も言わずに、俺に手を差し伸べてきた。


「お兄ちゃん、私と一緒に来て」


「は?」


「とにかく来て! 急いでるの!」


「お、おう……」


 なんのお題かはわからないけど、とりあえず妹の手を取ってグラウンドに駆け出す。

 加奈に手を引かれるままゴールして、次の走者にバトンタッチ。


 少し息が切れる中、当然のようにお題を聞く。


「お題? それはね……」


「……」




「ひ・み・つ」




 小悪魔的な笑みを浮かべる加奈。

 もうめんどくさいなと思った俺はその後は何も追求せずに、白組が一位になるところを見届けた。


 


 そういえば、いつ『好きな人』のお題出たんだろ。





   ***





「雅樹笑いすぎじゃない?」


「だって……めっちゃおもろいんだもん」


「えいちゃん何か面白いことでもした?」


「もはや息をしてるだけで面白いと言っても過言じゃねーよ」


「……んんん???」





———————————————————


どうも本町かまくらデス!


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一万文字完結の、僕の作品では珍しい恋愛ものなので、ぜひ気軽な気持ちで読んでください!


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