第15話 体育祭④
「次はぁ~……男女二人三脚だぁ‼」
俺の出る競技が間もなく始まろうとしていた。
俺の隣でみくるが、少し緊張した表情を浮かべている。
「緊張してんのか?」
「ま、まぁね……」
そういえば、みくるは昔から人前に出るのが苦手だった。
小学生の頃とかは、よく俺の後ろに隠れてたっけ。
「まぁあれだ。もし緊張したら、頬でも抓ってやろうか?」
「暴力禁止だよ~。でも大丈夫。えいちゃんがいるから」
「お、おう……」
二人三脚は俺とみくるのペア。
ペアを決めるときに、幼馴染がクラスにいたことがどれだけ助かったか。
やはり持つべきは幼馴染だなぁとしみじみ思う。
「まぁ少し早いけど、結んどくか」
「うん」
ハチマキで足を結ぶ。
急にグッとみくるとの距離が近づいてしまって、なんだかこっちも緊張してきた。
みくるとは別の緊張な気がするけど。
「私転んじゃいそうだから、肩貸してくれる?」
「おう、いいぞ」
俺の肩に、みくるの手が回される。
みくるだけだと不格好なので、俺もみくるの肩に手を回した。
……体小さいな。
「そろそろ出番だからいこっか」
「おう」
息を合わせて待機場所に向かった。
「次だよえいちゃん」
「そうだな」
レーンに並ぶ。
現在白組は一位。一位でバトンが回ってくるのは正直言って辛い。
この責任感、重すぎる……
ここで転んだりしようものなら後でめちゃくちゃバッシングされるんだよなぁ……主にサッカー部の山田。(実名かよ)
なんとしてでも、この一位は死守しなければいけない。
「よしっ」
「……うぅ」
「緊張しすぎなんだよみくるは」
「だってぇ……」
今にも泣きそうなみくる。
まぁ普通に競技に出ること自体がそもそも緊張するのに、一位で回ってきたらなおさら緊張するか。
ここは幼馴染として、一肌脱ぎますか。
「まぁあれだ……全部の二人三脚の中で、間違いなく俺たちが一番付き合いが長いし息もあってる。だって俺たち幼馴染だろ? だから大丈夫だ」
「えいちゃん……」
「おっ、もう来るぞ。準備しろ、みくる」
「う、うん……」
依然として一位。
その状態で、俺たちはバトンを受け取った。
「「せーのっ」」
息を合わせて一歩を踏み出す。
そのまま練習通りに、レーンを走った。
***
「……ごめんね、えいちゃん」
「あんま気にすんな。俺も気にしてないし、みんなも気にしてないから」
「……ごめんね」
結果的に言えば、白組は最下位でゴールした。
その理由は……みくるの転倒。
これは俺の責任でもあるが、みくるがレース中に転んでしまったのだ。
転んだだけならよかった。
白組は一位を独走していて、二位との差も半分くらいあった。
だけど、転んだ拍子にみくるが足をひねってしまったのだ。
みくるが怪我を負った状態で、ほぼ俺に体重を預けたまま走った。
もはやそれは走りとは言えないほどのスピードで、俺たちの回で三位くらいに順位を落としてしまった。
それで現在、保健室で俺が手当てをしていた。
というのも、救護室は怪我人で満員で、ある程度応急処置ができるため保健室に来ていた。
「そんな落ち込むなよ……ってのは無理か」
「……」
さっきから「ごめん」か沈黙しかない。
責任感が人一倍強いみくるだ。こうなってしまうのも無理はない。
「あれはさ、ペアである俺の責任でもあるんだ。だからみくる一人で背負う必要はないよ」
「でも……私が焦ってリズム崩したから……」
「俺だって焦ってた。だから二人のミスだよ。一人で背負うな」
「でも……でも……」
包帯をみくるの足首に巻いていく。
俺の腕に、ぽつりと雫が零れ落ちた。
「う、うぅ……」
「泣くなよみくる」
「だって……だってぇ……!」
また昔のことを思い出す。
今では姉のようにしっかりしているが、昔はほんとに泣き虫だった。
買ったアイスクリームをその場で落としちゃったとき、めちゃくちゃ大泣きしてたっけ。
でも久しぶりに、みくるの泣き顔を見た。
やっぱりみくるも変わってないんだなぁと、どこか思う。
「笑えよ、みくる」
でも、昔も今でもみくるの笑顔が好きだった。
だからみくるには笑っていてほしいと思うから、俺はみくるの目から溢れる涙を拭う。
「えいちゃん……」
「俺と一緒に背負わせろよ。俺とお前は昔からそうだろ? ずっと一緒だっただろ?」
「う、うん……」
「だからこういうときも一緒だよ。一緒に背負って、そんで笑おうぜ。な?」
みくるの足首に包帯を巻き終えると、みくるの横に腰を掛けた。
みくるの言葉を待って、俺は何も言わない。
「……ありがとう、えいちゃん」
「おう。まぁあれだ、今だけは泣いても許してやる。なんなら俺も一緒に泣いてやるよ」
「えいちゃんの泣き姿は見たくないよ~」
「なんかそれひどいな」
「えへっ」
涙を流しながらも、みくるがニコッと笑う。
俺も又ニコッと笑った。
どれくらいたっただろうか。
窓の外からは閉会式の言葉が聞こえてきて、もう体育祭は終わったんだなと感じる。
ただ、保健室から悠々と迎える体育祭の終わりも、悪くないなと思った。
泣き止んだみくるが、俺の手をそっと握っていた。
寂しいときとか、悲しいときとか。決まってみくるは、俺の手を握る。
「えいちゃん」
「ん?」
みくるの方に顔を向けると、そこにはみくるの顔がすぐそばにあった。
いつも見てきた顔が、目と鼻の先にあった。
「ん」
——刹那、唇に柔らかな感触を感じた。
それを理解するまでに時間がかかって、でも理解するまで、その感触が俺の唇にはあった。
夕日に染まる保健室の、ベッドの上。
俺とみくるは、唇を重ねていた。
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