第13話 体育祭②

「なんかよくわかんないけどめちゃくちゃ疲れたわ」


「えいちゃんは外に出るだけで「疲れたぁ~」って言うもんね」


「今の俺の真似? それにしてはおじさん要素足されてなかった?」


「うふふ」


「何その笑いめっちゃ怖いんですけど」


 上品な笑いを浮かべて誤魔化そうとするみくる。

 最近俺のことを遂におもちゃとして扱い始めたか……幼馴染の威厳はどこへ。(んなもん最初からない)


 午前の部が終わり、昼休憩の時間。

 俺とみくるは教室に戻ってご飯を食べるために、教室に向かっていた。


 やけに校庭から帰る道が空いてるなと思って周りを見ると、ほとんどの奴らがセルフィー棒を片手に写真撮影をしていた。

 しっかり高校生してるなぁ、と高校生の俺は感心してしまう。


「……私たちも写真撮る?」


「えっ?」


 スマホをぎゅっと握りしめて、上目遣いで俺にアタック。

 俺はあくまでも「しょうがないなぁ。付き合ってやるよ」といかにも自発的に撮りに行ってない感を出すために、ため息をつく。


「しょうがないなぁ。いいぞ」


「ほんとに⁈ ありがとう! えいちゃん!」


「そんなに喜ぶもんなのかね」


「だって、何気に私とえいちゃんのツーショット写真ないんだもん」


「そうだっけか」


「そうだよ~」


 確かに普段から一緒にいるんだから、写真を撮るという発想がなかった。

 みくるだって女子高校生。写真を撮りたい時期なのだ。


「じゃあ撮るから近づいて~」


「あいよー」


 カメラの枠に入るように、できる限りみくるに近づく。

 カメラにぎりぎり入ったところで、申し訳程度にピースをする。


「もっと近づかないと綺麗に撮れないよ」


「……あいあい」


 さらに一歩近づく。

 もうほとんどくっついてません? と思う距離から、みくるがなぜかもう一歩俺に近づいてきた。

 おかげで色々と接触してしまっている。


「み、みくるさん近くない?」


「幼馴染なんだからこれくらいがちょうどいい」


「幼馴染ルールわかんないな」


 そもそも幼馴染の写真の距離感ってなんだよ。

 絶対ワールドワイドで決まってないだろ。


「この写真えいちゃんにも送っておくね~」


「おう、サンキュー」


 みくるから送られてきた写真を確認する。

 写真には穏やかな笑みを浮かべるみくると、なぜか引きつった不気味な笑みを浮かべて小さくピースしている俺が映っていた。


 なんだろうこの撮られ慣れてない感じ。ある意味味があっていいってことにしよう。


「いい写真だね」


「みくるがそう思うなら、よかったよ」


「うん!」


 もう一度写真を見る。

 やっぱり変な顔してんなぁと思いながら写真を見ていると、一つ気になるものが映っていた。


「これ……雅樹じゃない?」


「……あっ、ほんとだ。誰かと話しているような……」


 写真で見るよりも直接見た方が良いなと思った俺たちは、後ろに振り返った。

 やはり雅樹はいて、どうやら誰かと話しているようだった。


 もしや……? という期待が脳裏をよぎる。

 邪魔しちゃ悪いかなという気持ちもありつつ、それを押しのけて挨拶するべく、接近する。


 腕を伸ばせば雅樹に触れるくらいまでの距離に来たところで、俺の予想は確信に変わった。


「雅樹……そちらの女性は彼女さんか?」


「うわっ! ちょおい英二。突然背後から話かけてくんじゃねぇよー」


「すまんすまん。ついテンションが上がってな」


 そう言いながらも、雅樹と話していた女性に軽くお辞儀をする。

 隣にいたみくるも同様に、「初めまして」と言いながらお辞儀をした。


「雅樹、早く紹介してくれ」


 もはやこの人が誰なのかは、俺たちに見つかった時の雅樹の反応からしてわかっているのだが、ここはあえて自分の口から言わせる。

 雅樹は少しの間渋ったのだが、すぐに察して折れてくれた。


「この人は俺の彼女の皆瀬有海(みなせあみ)さん」


「どうも初めまして。雅樹の彼女です」


 遠目から見ても思ったのだが、この人相当綺麗な人だ。

 可愛い系というよりは美人系。それも今までに見たことがないくらいに美人で、黒髪ロングが似合っていた。


 なんというか……あまりに想像のドンピシャを行き過ぎていて正直びっくりしている。


「どうした? そんなに人の彼女をじろじろ見て」


「いや……なんというか……お似合いだなと思ってさ」


「そ、そうか?」


「あっ雅樹照れてる」


「ちょ有海さんからかわないでくださいよ」


「からかってないよ~?」


「その顔はからかってますって」


 目の前で美男美女カップルがイチャついている。

 でもなんだろう。めっちゃくちゃ目の保養になる。蒸気でホットなんちゃらよりも目の疲れ取れそう。


 それと、やっぱり尻に敷かれてるんですね、雅樹。


「それはそうと、英二君……だっけ?」


「はい。そうですけど……」


 どうやら俺のことを知ってくれているらしい。

 有海さんは背筋をピンと伸ばして、丁寧にお辞儀をした。


「これからも、雅樹のこと、よろしくね?」


 頭を起こして、スムーズに笑みを浮かべる。

 一挙一動が洗練されていて、神々しさを覚えてしまった。


「は、はい」


 あまりにオーラがすごくて、いつの間にかそう返事をしていた。

 

「ありがとう」


 有海さんは、また爽やかな笑みを浮かべた。




   ***




「いやぁすごかったな、雅樹の彼女」


「だねー。すごくきれいな人だったね」


「ほんとにな」


「……えいちゃんは、ああいう人がタイプなの?」


「……どうだろうか」


「否定しないんだ! むー」





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