第11話 始動

 金曜日。

 私たちはいつものようにお兄ちゃんの部屋で女子会を開催していた。

 今回の話のテーマは女子高校生らしく……恋。


 それも私たち自身のことだけではなく、主にお兄ちゃんとみくちゃんペアのことを中心に議論を繰り広げる。

 議論っていいのかわからないほどに、すっごく緩いんだけど。

 まぁその緩さが、女子高校生の本領なのであります!


「絶対あの二人両想いだよね」


「「「それな」」」


 今日その言葉を何度聞いたことだろうか。

 おまけにそのことが常に頭のどこかにあるからか、もうそのことでいっぱいだ。

 

 ひとまず頭を整理しようという表向……正当な理由の元、チョコ菓子を口に運ぶ。


 ……ふ、太らないかな、私。


「ほんとなんであれで付き合ってないんだろうね。不思議でしかないよ」


「ほんとにねー」


 舞が「むぅー」と頭を抱える。

 わかる。自分のことじゃないのに無性に悩んじゃうの、わかる。


「幼馴染だからこそ、告白するタイミングとかないんじゃない?」


「確かに、距離が近すぎるのが原因の一つかもね」


「でも距離が近いところが二人の見ていて微笑ましいところだし、あれはあれで幸せそうだから……むぅー」


「ほんと恋人になっちゃえばいいのになぁ。両想いなんだし」


「そうなんだけどねぇ……」


 恋ってこんなに難しいものなのかな。

 ……いや、あの二人が特殊なだけか。


「やっぱりきっかけが欲しいよね、改めてお互いに意識できるようなさ」


「きっかけ……かぁ」


「……ないなぁ」


 自分の恋ではないのに、このままでは何事もなく高校生活終わりそうだなぁという焦りが出てくる。

 ほんと拗らせラブコメは胸のざわつきがすごい。特に身内は半端じゃない。

 心の底から、「早く結ばれて!」と思う。


「私たちさ、なんでこんなに自分のことじゃない恋のことで悩んでるんだろうね」


「「「ほんとそれな」」」


 前からずっと思ってたけど、「それな」の汎用性高すぎない? 

 そのうち「それな」しか言わなくなりそう。無性に愛着湧いちゃった。


「私たち女子高校生なのに、恋ほとんどしてないよね」


 そう独り言のように呟いたのは海。

 どこか悲しそうな表情をしている。


「誰か気になる人とかできてないの皆様方~」


「できてませんっ!」


「できてないね」


「い、いない……」


「全滅かよ……」


 ダメだ。私たち全然女子高校生してない。

 もう入学して一か月が過ぎようとしてるのに、私たちは一体何をしてたんだか。


 ……お兄ちゃんの部屋で女子会しかしてないじゃん、私たち。

 女子高校生って、何だろう。


「まぁそういうわけだからさ、お兄ちゃんの恋で青春しちゃおうよ!」


「花、人の恋を私利私欲のために使わないの」


「花ひどいぞー」


「よくないぞ、花」


「みんな私をバッシングしないで~! 撤回、撤回するからぁ~!」


 私の腕に泣きついてくる花。

 妙に母性本能をくすぐられて、私は加害者側なのに「よしよし」と花をあやした。


 何この子。可愛いんですけど。


「でも私たちの目標として、お兄ちゃんたちの恋を実らせるっていうのはアリだと思わない?」


「それ、さっき私が言ってたこととそんなに変わんなくない?」


「花のは言い方がひどい」


「ご、ごめんなしゃい……」


「よろしい」


 しゅんとする花を再びあやす。

 頭撫でると、水を得た魚のようにシャキッとするもんだから、何度でも頭を撫でてあげたくなっちゃう。

 私のヒロイン花で決定。


「そうしよっか」


「そうだね。私たちの力があれば、きっとあの二人を結ぶことができるよ」


「そうだね」


 満場一致。

 どうやら私たちの目標は決まったらしい。


「じゃあできるだけ早く、お兄ちゃんとみくちゃんをくっつけるぞ~!」


「「「おぉー!」」」


 と言ってもなに一つ具体的なことはわからず、結局は何も具体的なことは決まらないままお菓子を食べるただの女子会になった。

 

 緩く女子高校生たちの活動が、始まる。





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