第10話 頑張る子の味方
放課後。
俺とみくるは部活に所属していないので、真っすぐ帰宅するというのがいつものことなのだが、今日はたんまりと出た課題を終わらせるために図書室を訪れていた。
俺の成績は大体中の下。おまけに怠け癖があるので課題を提出期限ギリギリまで引っ張るタイプ。計画性なんてものはない。
よって明日までに提出の課題を貯めすぎてしまったのだ。
でもみくる大先生の成績は常にトップ。
ゴマをすりすりして、フォローしてもらっている。
「ここはこの公式を使うんだよ?」
「そ、そうなのか?」
「授業で何回も言ってたよ? えいちゃんはいつも授業中に寝てるからー」
「す、すみません……」
「はい、続きやっちゃって?」
「お、おう……」
その後、最終下校の時間になるまで、図書室で課題に打ち込んだ。
***
「家に帰ってご飯食べたら、また課題ね? まだあと半分くらい残ってるんだから」
「あ、あいぃ……」
さすがに数時間と勉強をしていたら脳が疲れてきてしまって、返答も雑になってしまう。
俺は集中力がないのでなおさらキツイ。
みくるって案外甘そうに見えて、こういう時は厳しんだよなぁ……
ふと、みくるはいいお母さんになるだろうなと思った。
特に意味はなく。
「チョコでも食べる?」
「も、もらうよ……」
みくるからもらったチョコを口に入れ、糖分を補給。
心なしか頭がクリアになった気がした。
並んで通学路を歩く。
もうすでに19時を回っていて、この季節と言えど辺りは暗くなっていた。
ふと、少し大きな公園の街灯が目に入る。
タン、タンというボールをつく音が聞こえてきて、かすかに荒い呼吸音も聞こえてきた。
「あれ……花ちゃんじゃない?」
「……確かにそうだな」
よくよく見れば、花がバスケをしているではないか。
しかもこんな時間に……
明らかに真剣そうな表情。
きっと部活終わりで疲れているだろうに、こうして練習終わりに自主練もしていたなんて知りもしなかった。
そこには花なりの苦悩が見えて、胸を締め付けられる。
「ちょっと寄り道してもいいか?」
「ん? いいけど……」
前も言っただろ? 俺は小さい子の味方なのだ。
「ふぅー」
ひとまずベンチに座って休憩している寿に、恐る恐る近づく。
ちなみに決して変なことをしようとしているわけではない。
あ、あれだ。俺は青春のあれをやってみたいのだ。
右手には超有名なスポーツドリンク。それを寿の首筋にそっと当てた。
「ひゃん⁈」
いい反応をありがとう。
俺、その反応待ってた。
……へ、変態じゃないからな!(ツンデレ風)
「おつかれ、寿」
「お、お兄ちゃん……?」
「はい、スポドリ」
「あ、ありがとう……」
別に危ないものとか入ってないから、そんなに恐る恐る受け取んなくてもいいよ?
……、いや、ほんとに未開封だから。
「部活終わりに自主練習……頑張ってんだな」
「へっ⁈ きゅ、急に何⁈ も、もしかして私のこと落とそうとしてる⁈」
「違うっつーの」
「そこはそんなに否定しなくてもいいと思うけどなぁ」
「俺はきっぱり言う男だからな」
「いいか悪いのかわからない……」
そう言いながら、俺があげたスポドリを開け、くいっと喉に流し込む寿。
見るからに相当汗をかいていたので、やはりスポドリの差し入れは正解だったようだ。
「(今ならいけるぞ)」
「(う、うん)」
後方に隠れているみくるに視線で合図を送り、「ぷはぁ」と気持ちのいい声を出している寿に近寄る。
そして俺と同じように、キンキンに冷えたスポドリを首筋にあてた。
「ひゃい⁈」
「ドッキリ大成功! みたいな?」
「み、みくるちゃん……もぉー二人して私をいじめないでよ~!」
「いじめじゃないよ。むしろご褒美だよご褒美。これ飲んで脱水症状にはならんでくれっていう気づかいだ」
「えいちゃんにしては優しいドッキリだったなぁ」
「おいみくる。今すぐ前言撤回したら許してやる」
「私は何も言ってませーん」
適当にあしらわれた気がするが、まぁいい。
俺の寛容さに感謝するんだな、みくるよ。
……こんなこと、心の中でしか言えないけどね。
「まぁ俺たちなりのエールだ。受け取ってくれ」
「……ありがとう。ほんと、ありがとう」
大切なくまのぬいぐるみを抱きしめるように、寿は俺たちが手渡したスポドリを胸に抱く。
俺は小さい子の味方であると同時に、頑張る子の味方でもあるのだ。
「お兄ちゃん。これから私と、バスケでもしない? 練習付き合ってくれたら、嬉しいな」
「俺でもいいなら、いくらでもやってやるよ」
運動なんて久しくしてないけど、こんなのやるしかないだろ。
意気込んでポロシャツを肩までめくって、鞄をみくるに預ける。
さてと、俺の華麗なボールさばきを見せてやるとするか。(大妄言)
「怪我しない程度にね~」
「あいよ~」
ベンチに座って観戦態勢をとっているみくるに手を振られる。
俺は手を振り返して、ボールをつくバスケ少女の元に向かった。
「……えいちゃんは、ほんとにかっこいいんだから」
結局手も足も出ず、ガス欠で早々にリタイヤしました。
***
「えいちゃん課題やんないと!」
「ほんと無理です。今日は無理です」
「えいちゃん高校生でしょ? ちょっと運動したくらいで疲れないの」
「今日は、今日はほんと無理です!」
早速の筋肉痛で、徹夜で課題を終わらす羽目になった俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます