第7話 すいぼつ

 水曜日。


 それは一週間の中で小学生から社会人にかけて、月曜日の次に嫌われている曜日である。 

 その理由は……一週間の中で中途半端な位置にいるから。


 木曜とかなら、「あともう少しで土日じゃんひゃっほい」と思えるし、火曜日なら「まだあるけどとりあえず月曜脱した。一週間がんばひゃっほい」と思える。

 つまり、どちらかに割り切ることができるのだ。


 それに比べて水曜日は中途半端。

 「あともう少しで休日だ」とも思えるし、「まだ土日まで遠いじゃん」とも思える。

 つまりは気持ちに踏ん切りがつかない。


 よって古来より水曜日は嫌われてきた。


 俺も又、水曜日アンチなので水曜日は嫌いだとデモ活動をしてもいいと思っている一人である。


 ほんと水曜なんてやってられねぇ。

 勉強をする気にもなれずに、ただひたすらソファーに寝転がりながらクイズ番組を見る。


 ちなみに場所はリビング。

 今日も俺の部屋にて女子会が行われているのだ。


 ちなみに、女子会が行われる頻度が高い曜日は水曜と金曜。

 そして本日は水曜。


 なぜ水曜日にやるかと言うと、大っ嫌いな水曜日をノリで吹き飛ばすためらしい。


 今日も水曜を吹き飛ばすために、俺の部屋……リピートアフターミー。『俺の部屋』にて女子会が開かれていた。


「女子高校生、若いな……」




   ***




「『水曜を撲滅しよう女子会』に~……かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 始まってまいりました『水曜を撲滅しよう女子会』、通称『すいぼつ』。

 若干別の意味に捉えられそうな通称なのは置いといて、今日も私たちは最高に盛り上がっております。

 

 私、芹沢加奈でございます。(ビシッ!)


「ぷはぁー! 水おいしいなぁ」


 そう言うのは健康志向高めの舞。舞は大の水好きで、飲み物はほとんど水しか飲んでいない。

 そのためこれからの夏のことを考えると「塩分濃度大丈夫?」と心配になるのだけど、舞はそれも計算のうちで、塩分を補給するものを常に持ち歩いている。


 そんなことするくらいならスポドリとか飲めばいいのにな、と思うけど、それは野暮ってものだと思うから、言わないでおく。


「いやーなんだかんだで水曜はもう終わりみたいなもんだから、水曜に対する憎悪の感情消えちゃってるよね」


「……花、それを言ったらこの会を開く意味がなくなっちゃうよ」


「おっとっと。そうだったそうだった。じゃあ……水曜●ねー‼」


「ちょっと花口悪いよ。花も一応女子なんだから、キレイな言葉使おうよ」


「一応ってなんだ海‼ 私に失礼だゾ!」


「まぁまぁ落ち着いてって。深呼吸ー、深呼吸だよ~?」


 興奮状態にある花を落ち着かせる。

 花はぷくーっと頬を膨らませて、やや怒っている様子だ。

 

 そんな花の姿を見ていると、なんだか笑えて来ちゃって、思わず三人吹き出してしまった。

 だって花の怒ってる姿、ほんとに小学生にしか見えないんだもん。


「むか~‼ みんな私のことそうやっていじめるんだ! きっとそうなんだ!」


 ぷいっとそっぽを向いてしまう花。

 こういう時にはどうすればいいのか、私たちはもう知っている。


「(作戦、花の機嫌をお菓子で。小学生プラン、開始!)」


「「(ラジャー)」」


 視線で意思疎通をして、作戦を実行する。


「花さーん。ここにビレッジマームあるよ~? バニラにチョコ、そしていちごもあるよ~?」


「ぴくっ」


「(好感触好感触。続行せよ)」


「「(ラジャー)」」


 また視線で会話をして、畳み掛ける。

 ビレッジマームを袋から解放だっ!


「花さんこれ食べて機嫌直しましょうよ~?」


「……」


 先ほどから本能が「食べたい」と言っているのか、ちらちらとこちらの様子を伺っている。

 しかし理性がそれを抑えて、現在花は欲望と戦闘中。

 あと一押しすれば、ミッションコンプリートだ。


「花さん、あーん」


 舞がゆっくりと花が一番好きな味であるいちごを、口元に寄せていく。

 ビレッジマームが近づきにつれて花の欲望が押し始め、顔がゆっくりとビレッジマームの方を向き始めた。


「くくくく……」


「ほら、あーん?」


「あ、あーん……」


 打ち取ったり。


「ぱくり。……うまぁ」


 本当にとろけてしまいそうなくらいに、幸せそうな表情を浮かべる花。

 そんな花の姿を見て、ほっと胸を撫でおろした私たちは、ひそかにお互いをたたえ合った。


 グッジョブ私たち。


「もう水曜なんてどうでもいいやぁ」


「「「ほんとそれな」」」


 私たちは今日も又、水曜という巨悪な敵に勝利したのであった。




   ***




 ——帰宅後の花さん。


「ふんふんふーん♪ あれ? こんなところに体重計……」


「ごくり。……あっ」





「三キロ太ってる……」





「……」


「ビレッジマームって三キロもあるのかな」



 現実から目を背けた花さんであった。

 



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