第6話 一人映画の猛者
休日に一人映画。
それが最近の俺のブームだ。
いや一人映画さっびしー! と思ったそこのお前。
一人映画めっちゃ楽しいからな。寂しさどころか多幸感ありまくりだからな。
もはや映画というのは、一人で来るのがベストであると俺は思う。一人映画推奨。
この宣伝によって、これから映画館に一人で訪れる人が増えて上映前にギャーギャー騒いでる輩がいなくなることを祈ります。ほんと、切実に。
ってなわけで休日の日曜日の夕方。
最近公開したばかりの超有名監督が手掛けたオリジナル劇場アニメを見に俺は映画館を訪れていた。
人が少ないこの時間をあえて選んだのだが、公開したばかりということもあってほぼ満席。
人の多さに圧倒されながらも人の前をすごく申し訳なさそうに通って、自分の席に到着。
ポップコーンを椅子のところに掛けて、すぐさまスマホをマナーモードにセット。
あとは始まるのを待つだけ。この時間が至極最高である。
「ふぅー間に合ったぁ」
間もなく上映開始という時間に滑り込みで、俺のお隣さんがやってきた。
急いで来たのか息が荒い。
余裕をもってこようぜお嬢さ……あれ?
「朝日……?」
「あっ、お兄さん」
目が合った瞬間、辺りが暗くなり、上映が開始された。
***
「——いやぁ面白かったですね」
「そうだな。ほんと面白かった」
映画が終わった後、俺と朝日は近くのファストフード店にて夕食を食べていた。
というのも、映画が終わったあとお互いに映画の感想を語りたくなってしまい、現在に至る。
もうたまたま隣の席だったという「どんな確率だよ」とマジトーンでツッコみたくなるような出来事は、映画によって忘れ去られた。
今はあの映画の話である。
「前作の期待も大きかったはずなのに、それに応える……いや、それ以上のものを出してきてほんとにびっくりしました」
「確かにな。音楽も前よりもパワーアップしてて、そして監督の真骨頂であるリアルな情景も最高だった。もちろんストーリーもよかったし、俺久々に泣いちゃったよ」
「私も泣いちゃいました。やっぱり主人公は走るに限りますね」
「確かに」
盛り上がる。とにかく盛り上がる。
一人映画がベストだと先ほど言ったが、実は一人映画には唯一の弱点がある。
それこそがまさに——感想の共有。
やはり自分の好きなものをあったかいうちに他人と語り合うのはいいものだ。
改めて、そう感じる。
「それにしても朝日がこの時間に一人映画って、なんか意外だな」
「それは私に失礼なのでは?」
「すまん勝手なイメージで、女子高校生は大勢でわいわい映画を見るもんだと思ってた」
「お兄さんって、なんか女子高校生に対するイメージがちょっとおかしいですよね」
「あまりよく知らないからな」
女子高校生が結構な頻度でうちに遊びにくるとはいえ、その実態を知れるわけではない。
そしてもちろん「知りてぇ」と思っているわけでもない。
それゆえ、たくさん関わっているけどよく知らないのだ。
「私は昔から映画は遅い時間に一人で、って決めてるんです」
「お前も一人映画族だったのか……なんか急に親近感」
なんか他の人とは違うことをしてる自分の類を見つけると、やけに嬉しかったりするよね。
若干の高揚感を覚えつつ、もう覚めてしまったポテトを口に運ぶ。
ちなみにポテトは冷ましてしなしなになったものを食べる派。
ちっ……みんな揚げたて派かよ。
「みんなでわいわいするのももちろん好きなんですけど、私は一人の時間も好きなので」
「じゃあ俺とごはん食べてるのはまずかったかな」
「いえそんなことはないですよ。お兄さんと感想言うの、なんだか新鮮で面白いですし」
照れているのか頬がぽっと赤くなる朝日。
それを隠すように、俯きながらドリンクに口をつけた。
「まぁ確かに、こうして二人で話すのは珍しいかもな」
「ですね。でもほんと、楽しかったです。ありがとうございます」
律儀にぺこりと頭を下げる。
なんてしっかりした子なんだ……
うちの妹にも見習ってもらいたいものだ。
「こちらこそありがとう。そろそろ遅くなっちゃうし、帰ろうか」
「はい」
トレーを持って、席を立った。
「家まで送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。こう見えて、護身術を幼いころに習っていたので」
「そ、それはそれは……」
ほんと出来過ぎじゃない? この子。
ほんとさっきから感心してばかりで、なんか俺も「しっかりしよう」と思い始めちゃったよ。とりあえず、深夜にアイスを食うことをやめよう。明日から。
「じゃあまた」
「おう」
こうして、俺の日曜日は幕を閉じた。
***
「お兄さんと席隣とか、すごい確率だなぁ~」
「でも、楽しかった。またお兄さんと映画の感想、言い合ってみたいな」
——ラブコメが起こるのか。
それはまだ、分からない。
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