第3話 美少女四天王ってなんだよ

「まぁ結論としては、お前はめちゃくちゃ羨ましがられる立場にあるってことだ」


「そういうもんかね……」


 隣の席に座る俺の数少ない友人、菱沼雅樹(ひしぬままさき)は「そうだよそうだよ」と繰り返した。

 俺にとっては全くそうは思わないので、共感する気にはなれずに「わからん」と呟く。


「お前ってやっぱりラブコメの主人公だったのかもな。可愛い幼馴染だっているしさ」


「それは俺もちょっと思ったけど……ってか可愛い幼馴染がいたらラブコメの主人公の条件クリアしちゃうのかよ。そこの比重大きいなおい」


「可愛い幼馴染がいれば大体物語として面白くなるだろ? それに早々可愛い幼馴染なんていないんだよ、現実では」


 そんな会話をしながら、可愛い幼馴染と遠くでしれっと絶賛されているみくるの方に、二人して視線を向けた。


 席は俺から結構遠く、廊下側の席。

 その席を中心として、数人の女子とみくるが話に花を咲かせているようだ。


 ほんと、ラブコメの主人公って言われてもおかしくないくらいに、うちの幼馴染はスペック高いんだよなあ。みんなから親しまれてる人気者だし。

 だから、自分のことじゃないのにドヤ顔してしまいたくなる。


「でもそれを言うなら、サッカー部のエースでイケメンで、みんなの人気者なお前の方が、よっぽどラブコメの主人公だと思うけどな」


「そんな物語誰も見たくないだろ? なにせエンターテイメント性に欠ける」


「お前はいつから見る側の気持ちを考え始めたんだよ。別に自分の恋なんて、自分のためだけにあっていいだろうが」


「ラブコメの主人公の恋は、他人が見てもきっと面白いと思うんだよ」


「そうかね」


「少なくとも、俺は英二の話を聞いて面白いなと思っているよ」


 そう言って無邪気に笑う。

 なるほど、この笑顔が数々の女子を落としてきたんですね。


 試しに俺もやってみるか。


「……」


「……急に変顔して、どうしたんだよ」


「イケメンの笑顔のつもりだったんだが……」


 そうか。

 イケメンが笑うから笑顔が魅力的に見えるわけで、別にイケメンでもない奴がイケメンの笑顔を屋ってもそりゃ魅力的に見えないわけだ。


 もう一生イケメンの笑顔なんてするのやめよう。ただ自爆するだけだ。

 身をわきまえろとはこのこと。


「それにしても、ほんとにお前の家は日々すごいことになってるよな。なにせもうすでにこの高校のヒエラルキートップに君臨してる『美少女四天王』が家に遊びに来てんだからさ。しかも英二の部屋で女子会って……ほんとにハチャメチャだな」


「ハチャメチャになってることは置いといて、なんだその『美少女四天王』って。ネーミングセンス疑うぞマジで」


 もうちょい粋なネーミングあっただろうが。


「『美少女四天王』は高校一年生で人気も地位も総ナメした、いわゆる学内アイドルってやつだよ。もうすでに入学して二か月弱くらいは経ったけど、今だにその四人の話してるくらいだし」


 その後思い出したように、「サッカー部の先輩なんか、毎日そのことばっかり話してる」と付け足した。

 

 しかしながら、俺にはその話が回ってきていないようだ。

 度々「どっかで見たことあるような名前と特徴だな」と思うような会話をクラスメイトがしているのを聞いたことがあるが、詳しくは知らないし。


 別にさほど興味があるわけでもなかったけど。


「やっぱりあいつらすごいんだな」


「そうだよ? だから羨ましがられる立場だって言ったんだよ」


「自分の部屋を女子会会場にされる立場がかあ」


「一部の人にとってはご褒美じゃないかな」


 確かにそうかもしれない。

 俺にとっては妹の友達、ということもあって恋愛感情を抱いてないだけで、あいつらに好意を持ってる人にとっては死ぬほど羨ましいだろう。


 むしろ「俺の部屋女子会会場に使ってくれよ」と自ら言ってしまうレベルである。

 

「なるほどよくわかった。改めてとんでもないなと思いつつも、まぁ俺は変わらずいつも通りでいこうと思う」


「さすが、できる男は違うなあ」


「お前に言われると皮肉にしか聞こえねーよ」


 俺のツッコみが模範解答だと言わんばかりに、雅樹が腹を抱えて笑い始めた。

 俺はそんな雅樹の姿を横目に、窓の外を眺める。


 

 実は内心、


「(俺の妹の友達、とんでもない奴らだったんだな。ってか『美少女四天王』ってなんだよ。

 その四天王が俺の部屋でくつろいでるとかほんとなんだよ。


 ここ現実世界じゃないなさては)」


 

 と思い、取り乱していた俺だった。

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