第2話 幼馴染の正妻感がすごい

 俺の家は現実では珍しく、両親が海外に転勤したので現在妹と二人で暮らしている。


 昔から両親は共働きで家を空けることが多かったため、家事に関しては問題なしなのでほとんど不自由ない生活を送っている。

 まぁ、加奈は何一つ家事できないけど。ほんとしてください。


 妹は超絶美少女だがポンコツなので、我が家の家事はほとんど俺が行っている。

 料理に掃除、洗濯にかけてほんとに色々と。


 でも一番めんどくさいのは——わが妹を起こすことである。


「起きろー」


 スマホでベルの音だけを鳴らすアプリを起動し、それを鳴らしながら加奈の部屋に入る。

 当然のごとく加奈は眠っていて、起きる気配が全く見られない。


 ……それにしても気持ちよさそうに寝る奴だな。

 寝具のCMがあればもってこいの人材だろうな。


「起きろー」


 二度目のコンタクト。


「すぴー、すぴー」


 相変わらず起きる気配は見られない。

 ひとまず加奈の枕元に、音量マックスのスマホを配置し様子を伺う。


 ちなみに俺はエプロンを着用して仁王立ち。

 自分で言うのもあれだが、数々の修羅場を潜り抜けた強者感があるな。


 妹起こしなら間違いなく強者。

 ってか成長しろよこいつ。小さいころからずっとこれだよ。


「んーうるさいにゃー……むにゃむにゃ」


「⁈ ブラインド電源オフだと⁈ 今までこれで起きてたのに、なんでくだらないところで成長してんだよこいつは……」


 その成長を寝起きの良さに生かして欲しかった(切)。


 数分後。

 渋々起きてくれた。




   ***




「鍵閉めておけよー」


「あいあいー」


 ぼさぼさの髪をそのままにして、だらしない格好で歯を磨く加奈に見送られながらドアを開ける。

 

 外に出てすぐに、家の前に立っている幼馴染の姿が目に入った。


「おはよ、えいちゃん」


「おはよ」


 朝から笑顔の花を満開に咲かせている幼馴染の名前は、汐入(しおいり)みくる。

 茶髪のさらさらした、長くて綺麗な髪に小さな顔。それに対して目はぱっちりしていて、キラキラと輝いている。

 

 文句なしの美少女であり、加奈とは正反対にいつも落ち着いている。

 清楚系美少女と言えば、俺の中ではみくるが筆頭者だ。


 みくるは俺の家から徒歩二十秒ほどのところに住んでいて、小学校に入る前からよく一緒に遊んでいた幼馴染。

 家族を含めなければ、一番付き合いが長い奴だ。


「えいちゃん大丈夫? なんか顔疲れてない?」


「実は先週の金曜日も女子会を俺の部屋で開催されてな」


「それで疲れちゃったんだね」


「ってのは嘘で、実はただドラマに見入って徹夜しただけ」


「ちょっとえいちゃん⁈ それは健康に悪いからやめなよ~」


「善処はする」


「善処じゃなくて、もうしちゃダメだよ~」


「相変わらずお厳しいこと」


「えいちゃんのことを思って言ってるんだからね?」


「はいはい」


 雑にそう返すと、みくるはため息をついて「もーえいちゃんってば」と愚痴をこぼした。

 

 みくるはいつもこうして母親のように事細かく言ってくる。

 別にそれが嫌というわけもなく、むしろ気遣ってくれてありがとうと言いたいレベルに感謝してる。


 でも、恥ずかしいから絶対そんなこと言わないけどね。

 俺ってば何気にシャイボーイだから。


 家の前で立ち話もあれなので、あくびをしながら学校に向かって歩き始める。

 何も言わずにみくるは俺の横に並んだ。


 少し目が合えば、みくるはニコッと微笑む。


 ……ほんと、よくできた女子高校生だなあ。

 感心する毎日である。


「そういえば今日ご飯作る日でしょ? あと洗濯とかも」


「あぁーそうだったな」


 俺だけではさすがにすべての家事をこなすのはきついところがあるので、週に三日とかの頻度でみくるにも家事を手伝ってもらっているのだ。

 それ以外にもふらっとみくるが家に来ることもあるし、逆にみくるの家に行くこともあるのだが……まぁ今はそれはいいか。


「じゃあいつも通りよろしく頼むな」


「うん、任せて! あと、ごはん食べた後土曜ドラマみたいなあ」


「あっ、俺もう見ちゃったよそれ」


 土曜日とかよくわかんないけど、無意識にドラマ見ちゃうことってあるよね。

 ……ないのかよ。


「えぇー一緒に見ようってメールしたよね私」


「あーすまん、スマホあんまり見てないんだよね俺」


「……毎朝加奈ちゃん起こすときにスマホ使ってるじゃん」


「っ……」


 そこを突かれたら痛い。

 ほんと何もかも知りすぎてる幼馴染、怖い。


「まっ、別に私のメールくらい見なくてもいいですけどねー」


 そう言うみくるだが、唇を尖らせて明らかに拗ねている。

 

 別にみくるのメールを返信したくないというわけではない。ただデジタルに慣れていないだけだ。

 それで自然とスマホを使うことを避けてしまっている。

 もうここまでくれば文通の方が良いレベルだ。俺、現代に追いつけません。


「……これからはこまめに確認するようにするよ」


「……ぷっ。別にいいよそんな反省しなくてもー」


 笑いながら俺の肩を叩く。

 そう言われても実はメールを全然返さないことに対して罪悪感があったりするわけで。

 

 俺に気を使ってみくるがフォローしているんじゃないかとも思えてきて、今更ながら申し訳ないなと思った。


「まぁほんとに大切なことは、ちゃんと面と向かって話すからさ」


「……そっか。わかった。まあ些細なことでも、俺の家に来てじゃんじゃん話してくれ。いくらでも聞く」


「それは遠回しに私に会いたいって言ってるのかな?」


「……ノーコメントで」


「もーえいちゃんは意気地なしだなあ。でも、ありがと。いっぱい話しかけに行くね」


「おう」


 そんなたわいもない会話をしながら、通学路を歩いた。



 

 



 まだ、この二人はただの幼馴染である。


 そう、まだ。



 

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