願いの空
――どうして。私は白の
ちらちらと輝きながら地面に降りてくる真っ白な粉雪。どうして、どうして、としか思えないクイの身体の上から、そんなもの
だってあなたがわたしを呼ぶ
心を読んで返事をしてくる。
涙がこぼれた。
――本当にいるのなら、どうして。
――どうして私の里には来てくれなかった。
すると
「わたしたち神は、人間に操作されたりはしないの。
クイはそれでなぜか、心の重荷がするするととろけていくような気がする。
初めから叶うはずもない作り事をみんなして大真面目に信じていたのか。何もかも無駄で、人間の群れが何をしようと、神々とこの世界に対しては影響力を持たないのか。
すべて何の意味もない?
クイが
里に雪をもたらさなくとも、
クイが悪いわけではない?
「そうよ、あなたは悪くない。善くも悪くもない。価値など、見る者によって変わる――わたしの雪を
いいこと、わたしはこれからあなたを友だちに預ける。岩拾いの娘、
クイの身体はもう浮き上がっている。否、以前のような身体というものがすでにないのだった。
「歩きながら、祈りながら、あなたは人ではなくなった。自分がどれだけ長い間歩いたか知らないでしょう。自分がいつから足跡だけになったか知らないでしょう? あなたはひとりでに人の縁を離れ、世界に身を捧げたの。わたしたち、そういう子どもをよく仲間にするのよ」
狼たちが次々と遠吠えを始めると、遠くで雷鳴が応えた。
「わたしじゃ焦げてしまうから、
何頭かの白い狼が、空中を歩いていく脚が見えた。辺りには粉雪が陽の光を受けて舞い散り、去っていく狼の一頭が振り返ると口元の毛皮を少し焦がしているのが見える。
自分はどうなったのだろう。
これからどうなってしまうのだろう。
何も分からないのに不思議に
「おや、目が見えてきたのだね。わたしは
心のうちより出で来ることを、訊かれたらすぐに答えなさい。それが
おまえの望みはなにか?」
クイは
「私は、岩地にかえりたい。よい
美しい
「では、おまえの名はなにか?」
私は。
頬に、手のひらに、足の裏に、肩に、懐かしい岩地の独特の熱と凸凹が触れたような気がする。
熱気。火の気配。産地によって異なる
私の愛するものたち。
還るべきところ。
私は。
私の名前は。
そうして、神さまの子は
歩き始めるまでの日々はまるで前世の淡い夢のように遠ざかる。
今や、人間ではない。
何故ならば、
その胸の中にはもうずっと遠い昔から、
名が刻まれているのだから。
「――私は、
「そのとおりよ」
「おまえの魂が
さあ、天を駆けよう! 光と
生まれたての
黒い雲が襲い掛かってきて足元をすくい、
天を切り裂く光、雷光の神。火花。火のなかま。
火よ、熱よ、輝いて地に隠れよ。時に
ああ、私は。
私は、自由だ。
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