第36話 宣戦布告する権利


 帝都一の服屋「バードランド」。

 ウェイン達はその店のVIPルームで、店員達から特別なもてなしを受けていた。


「さあ皆さん、どうぞ好きなお飲み物を、お召し上がりくださいませ!」


 ウェイン達はフカフカのソファーに身を沈め、店員の若い女性から酒をお酌をされていい気分になっていた。


「たまにはこういうのも悪くないな、ステファンよ?」

「そうでございますね、ウェイン様。私はお酌されるなど初めてでございます」


 ウェインとステファンの隣には、若くて綺麗な女性店員が付いている。


「もうお客様ったら素敵過ぎますわっ!」

「そうそう、あのマッテンていう貴族はいつも偉そうで態度悪かったんですよ!!」

「そうかそうか。人間謙虚さは大事だからな」


 店主のチャーリーも嬉しそうにしている。


「いやでも、このステファン、つい勝手な真似をしてしまいまして……」

「構わんさ。師匠を泥だらけのままにしておけないしな」

「そうでございますね」


 2人がバルカスの方を見ると、かなり太った熟年の女にお酌されている。


「さあ、どんどん飲んでくださいね! それにしてもお客様は私のタイプだわ~」

「あ、ああ、ありがとうございます。でも、ど、どうぞお構いなく!」



 リアナとエルサには、店主のチャーリーがお酌している。


「いやあ、それにしてもお2人共、お顔もスタイルも抜群でございますね! きっと当店の服がお似合いになるかと思いますよ!」

「ふふ、分かってるじゃないチャーリーさん!」


 すでに酒を大量に飲んだリアナはかなり出来上がっている。


「ウェイン、エルサも服買いたい!」


 エルサの申し出に笑顔でウェインは答えた。


「おう、じゃあみんなで服を新調しようじゃないか」


 ウェインの言葉に「待ってました!」と言わんばかりに、服屋の店員達が動き出す。


 若い女性店員達は、ウェインとステファンの腕を引っ張り店内を案内しようとする。

 そして太った熟年の女性店員は、力いっぱいバルカスの腕を引っ張り、バルカスは危うく脱臼しそうになる。


「あ、そうだ。せっかくだから皆で競争するか!」

「「……競争??」」


 ウェインの言葉に皆が注目する。


「ああ、一番すげえ服を選んで来た奴には褒美をやるぞ!」

「いいじゃないですか! やりましょ、やりましょ! 勿論優勝はこのリアナ様よ!!」

「違う! エルサが1番!」

「ふ、このステファン、スーツを着せたら右に出る者はおりませんぞ」


 バルカスは太った女性店員に、力強く店内を連れ回されて返答する余裕が無い。



「よ~し、優勝者には帝国に宣戦布告する権利をやろう!」

「本当ですか、ウェイン様! く~、俄然燃えて来たわ!!」

「ウェイン、せんせんふこくって食えるのか?」

「ふ、このステファン、宣戦布告をさせたら右に出る者はおりませんぞ」


 バルカスは太った女性店員に、力強く店内を連れ回されて返答する余裕が無い。



 

――――がしかし、バルカスは思った!


 おいおいおい、ウェインの奴!

 今さらっと、とんでもない事言ったぞ!


 優勝者に宣戦布告する権利を与えるだとっ!?


 そんなもん、貰って嬉しい訳ねえだろが!!

 帝都でそんな事宣言してみろ、すぐに射殺されるじゃねえか!!

 いちいち言う事が狂人過ぎるんだよっ!


 ……よし、ここは、徹底的に酷い服を選んで、ぶっちぎりの最下位を取るしかねえ!!



 そう決めたバルカス。

 そして彼は、太った女性店員に話しかけた。



「あ、あの悪いんだけど、この店で一番酷い服を教えてくれないかな?」

「あらやだ、一番酷い服だなんて何を言ってるのよ!」

「頼む、俺は真剣なんだ! 協力してくれたら何でもするからっ!!」

「え、本当に!?」

「ほ、本当だとも……!!」

「ふふ。そういう事ならお姉さんに任せなさいっ!!」


 太った熟年女性の言葉と鋭い眼光に、背筋が凍りそうなバルカスであった。

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