第35話 ステファンと札束


 マッテン達の前に立ったステファン。


「何だ貴様! 俺は帝国領、領主モンヴァイの長男、マッテン様だぞ!?」

「ほう、これはこれは領主様のご子息でしたか」

「そうだ! 貴様ら平民であろうが! すぐに平伏しやがれっ!」


 マッテンの言葉に、大きな溜息をつくステファン。


「この野郎っ! 何だその態度は!?」

「そうだそうだ! すぐにマッテン様に平伏しろっ!」


 マッテンの付き人達は怒り出し、ステファンの胸座を掴んだ。


 するとステファンは、胸座を掴んでいた付き人の腕を捻り上げてしまった。


「ぐあっ、痛ええっ、や、やめろおおぉぉおおーっ!!」


 ステファンはすぐに手を離し、低い声で話し出した。


「これは大変失礼致しました」

「き、貴様ああぁぁああーっ! 貴族に対して何たる暴挙っ!」

「いやいや、貴方は確かに領主様のご子息かもしれませんが、あちらにおられるのはドルヴァエゴの領主様でございますよ」

「……な、何だと!?」


 マッテン達はウェインの方を見た。


「ん? ああ、俺がウェインだ」


 ウェインはボロボロになった平民の服を着ている為、とても貴族には見えない。


「ぶ、ぶはははははーっ!! あんなのが領主だと言うのかよ!?」


 マッテンの付き人はウェインを見て大笑いするが、マッテン本人はウェインの顔をマジマジと覗き込んだ。



「お、お前はヴラントの領主だったウェインか!? 数年前に父上に連れていかれた領主会議で見た事があるぞ!?」

「そうなのか? 俺はお前を知らんが」

「……くっ、くそ! でもドルヴァエゴなど大田舎の領地じゃないか! 偉そうにするなっ!!」

「偉そうにしてるのはお前だろが」


 怒りが収まらないマッテンは、店主のチャーリーに怒鳴る。


「おい店主! 同じ貴族でも、俺はこの店のゴールド会員だ! 俺を優先するのが道理だろうがっ!」

「し、しかし……」


 チャーリーは困惑する。

 

 そこでステファンがチャーリーに話しかけた。


「店主、この店の会員の階級はどんな仕組みになっているのですかな?」

「は、はあ、会員様は、シルバー、ゴールド、プラチナとなっておりますが……」

「ではプラチナが最高ですか?」

「いえ、さらにその上に最上級のブラック会員というのがありまして……」

「ほう、ではウェイン様には、ブラック会員になってもらいます」


 ステファンと店主の会話を聞いていたマッテンが、大声で笑い出した。


「おいおいおい、バカを言うな爺さん!」

「バカ? 私は真剣に話しておりますが?」

「おい、いいか爺さん、この店は貴族御用達の店で最高品質の服を揃えているんだ!」

「それがどうかしましたか?」


 ステファンの返答にイラつきながら、マッテンは話を続ける。


「無知とは罪だな爺さんよ。いいか、この店のゴールド会員は年間50万Gもかかるんだぞ!」

「ほう、それは高額ですね」

「当たり前だっ! さらにプラチナ会員は100万Gで、最上級のブラックは500万Gだっ!」

「……なるほど」

「な、なるほどじゃねえだろがっ! お前らの様な辺境の住人に出せる金額じゃねえんだよっ!」


 するとステファンはマッテンに背を向けると、店主のチャーリーに話しかけた。


「店主、ブラック会員の年会費500万Gを、一括で支払わせて頂きます」

「な、な、な、何ですとおおぉぉおおーっ!!」

「それと店主には、お騒がせした迷惑料として50万Gを支払わせて頂きましょう」


 ステファンは懐から分厚い札束を取り出し、店内のカウンターの上に乗せるのだった。


「う、う、う、嘘だろおおおぉぉぉおおおーっ!!」

「ご、500万Gを一括だとおおぉぉおおーっ!?」


 マッテンとその付き人達は、目を見開いて叫んでいた


 それを見ていたリアナは、マッテン達に言い放った。


「あんたらね、たかがゴールド会員くらいで偉そうにしてんじゃないわよっ!」

「……くっ!!」


 大金を受け取ったチャーリーは、大声で店の奥にいる従業員を呼んだ。


「お、お前ら昼休憩はあとだっ!! 3年ぶりのブラック会員様の誕生だぞおおぉぉおおーっ!!」


 チャーリーの声で慌てて店の奥から従業員が走って来る。


「ブ、ブラック会員入会、誠にありがとうございますっ!!」

「大切なブラック会員様にはVIPルームがございますので、どうぞこちらへっ!!」


 ウェイン達は従業員に誘導されて、店の奥のVIPルームへと歩いて行く。


「じゃあね~、クソガキ君達~!」


 最後尾のリアナがマッテン達に別れの挨拶をして、VIPルームに消えて行った。



「く、く、くそがあああぁぁぁあああーっ!!」


 マッテンは、店の壁を何度も殴り付けて悔しがった。


 そして店内では店主も従業員もいなくなり、マッテン達は取り残されてしまったのだった。

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