第34話 ウェイン、服屋に行く


 ドラゴンを瞬殺してしまったウェインとその一行。

 彼らはようやく帝都にある城下町にたどり着いていた。


 

――――バルカスは思った。


 やばい!

 まさかのドラゴンに遭遇して、思わず失禁してしまったっ!!


 男バルカス、46歳にしてこれは恥ずかし過ぎるぞ!?

 何とかして他の奴等にバレないようにしなければっ!!


 ……あ! あそこにいい感じの水たまりがあるじゃないか!

 水たまりで転んで、ズボンを泥水で汚してしまえば、この失禁を誤魔化せるぞっ!!




 バルカスはそんな作戦を思い付き、そして実行した。


「……う、うわああっ!」


 バルカスはすかさず、水たまりで派手に転ぼうとする。


「あっ! 危ないっ!!」


 しかし、バルカスはギリギリの所でリアナに体を支えられてしまう。


「ふっ、私がついている限り、総司令官殿に怪我はさせませんよっ!」

「……あ、あ、ありがとうございます。リアナさん」



 バルカスは悔しさで打ち震えながら、リアナの顔を見た。

 するとリアナはにっこりしながら片目を閉じて、親指を立てている。


(こ、この娘は……!!)


 言葉を失うバルカス。


 彼はもう開き直って、水たまりにゆっくりと尻を付いた。


「おっと、私とした事がバランスを崩してしまったっ!」

「……あ!」

 

 残念がるリアナ。

 勝ち誇った表情になるバルカス。


「皆さん、すみません。下の服が汚れてしまったので、服屋に寄ってもらっていいでしょうか?」

 

 ウェイン達はバルカスの方を見た。


「お? 大丈夫か師匠? 何か疲れてるんじゃないのか?」

「あ、いえいえ大丈夫ですよ、ウェインさん。ちょっと服屋に寄ってもらえれば問題ないので!」

「そうか。じゃあ服屋に行くか?」


 ウェイン一行は、バルカスの為に城下町の服屋へと向かったのだった。




◇◇◇




 「いらっしゃいましーっ!」


 帝都の城下町にある服屋「バードランド」の主人チャーリーは、ウェイン一行を笑顔で出迎えてくれた。


「おうオヤジ、俺の師匠に合う服を見繕ってくれ」

「へい、喜んで!」


 チャーリーはバルカスに歩み寄り、服のサイズや好みを聞き始めた。


「わあ、素敵な服が沢山あるじゃない!」

「ウェイン、エルサも服欲しい」


 リアナとエルサも今まで見た事のない衣服の数々を見て、目が輝いている。


「おいステファン、みんなに服を買ってやりたいんだが予算は大丈夫か?」

「ええ、勿論大丈夫ですとも。ウェイン様が仕留めた魔竜から取れた素材が、かなりの金額で売れましたので」

「ほほう、そうか。よし、じゃあお前ら、好きな服を買っていいぞ?」


 ウェインの言葉に一行から歓喜の声が上がる。



「ステファンも好きなの買っていいからな!」

「何と! 執事の私にも服を買ってくださるのですか!?」

「当たり前だろ、いつも世話になってるんだから」

「なんと勿体無いお言葉……!!」


 ステファンは感極まって涙を流した。


「良かったわねステファンさん!」

「はい。リアナさん、私は本当に理想の主に巡り会えましたっ!!」

「おいおい、大袈裟過ぎるぞ」




 一行が温かい雰囲気になっていると、服屋の入口から大きな声が聞こえて来た。


「おい、店主! ゴールド会員のマッテン・ロイヤー様が来てやったぞっ!!」


 ウェイン達が店の入口を見ると、貴族風の若い男とその付き人達がゾロゾロとこちらに歩いて来るのが見えた。


「こ、これはこれはマッテン様、ようこそいらっしゃいました!」

「おう。今日も最高にイカした服を用意してくれや」

「はい、ありがとうございます! ですが、今そちらのお客様の服を見繕っていますので……」


 店主のチャーリーの言葉を聞いたマッテンは、たちまち険しい顔付きになった。


「はあっ!? おいおい店主、俺はこの店のゴールド会員だぞ!?」

「で、ですが……、そちらのお客様は急用でございまして」

 

 チャーリーの言葉に反応したマッテンとその付き人達は、ウェイン一行を見た。


「おいおい、お前ら見たか? こいつら一体どこの田舎者だよ!?」

「まったくですね、マッテン様!」

「ボロボロのだせえ服着やがって! 原始人みたいな女もいるぞ!?」


 マッテンと付き人達は、ウェイン達を見ながら腹を抱えて笑い出した。



「クソガキ共がっ! ウェイン様を侮辱するとは万死に値するぞ!!」


 リアナは懐にあるオリハルコンの剣に手をかける。

 だが、ウェインがそれを手で制した。


「まあ待てリアナ。ここで暴れたら店主に迷惑がかかるぞ」

「……しかしっ!!」

「ウェイン様、リアナさん、ここはこのステファンにお任せください」

「ん? そうか、じゃあ頼むよステファン」

「はい。ありがとうございます」


 ウェインに一礼したステファンは、マッテン達と店主チャーリーの元に、ゆっくりと歩み寄った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る