第33話 ウェイン VS ドラゴン!


 魔獣グリフォンはウェイン達をその背に乗せて、大空を羽ばたいている。


 ウェイン達は、グリフォンの背中から見える雄大な景色を見て、大きな感動に包まれていた。

 初めはリアナも大騒ぎしていたが、しばらくするとイビキを掻いて爆睡してしまったのだった。


 そんなリアナの姿を見たステファンが、ウェインに話しかけた。


「……リアナさんは、大分お疲れの様ですな」

「ああ、何でも師匠と2人で朝から剣の修行をしたらしいぞ?」

「ほほう、リアナさんはかなり張り切っておりますねぇ」

「そうだな。でも師匠もさっきから気合い入れまくりだけどな」


 ウェインの言葉で、後方を見たステファン。

 すると、そこにはグリフォンの体毛に必死でつかまって、何やら叫んでいるバルカスの姿があった。


「い、嫌ああああぁぁぁぁああああーっ!!」


 そんなバルカスの姿を見て、ステファンはウェインに尋ねる。


「ウェ、ウェイン様、あれは怖がっているのではないでしょうか?」

「ははっ! そんな訳ないだろ? 『いやあぁあーっ!!』って気合いを入れてるんだよ!」

「そうなのですか? 流石はキャンプの達人でございますな」



 帝国の密偵として、ドルヴァエゴに潜入したバルカスだったが、今では自分が何をしているのか、全く分からなくなってきていた。




◇◇◇




 

 グリフォンで大空を飛ぶ事、4時間。

 ついにウェイン達は帝都の上空までやって来た。


「……ん? どうしたエルサ?」


 ウェインはグリフォンの背中に立ち、遠くをずっと見つめているエルサに声をかけた。


「ウェイン、あっちにでがい竜がいる」


 エルサの言葉に一行は驚く。


「ほんとか? 何も見えないけどな」

「私も何も見えないわ。あんた嘘付いてんじゃないでしょうね!?」


 エルサはリアナの言葉に腹を立て、リアナの服の襟を掴んだ。


「ちょっと、何すんのよ! 凶暴女!」

「エルサ、ウソ付かない! ほんとに竜いる!!」


 そんな時、バルカスが前方を見ると、遠くに見えた黒い点がどんどん大きな黒い固りに見えて来た。

 

「な、何かこちらに近づいて来ますよ! ウェインさんっ!!」

「あ、ほんとだ。黒い鳥か?」



 黒い固りは、次第にその姿をくっきりと浮かび上がらせ、その正体を見せた。



――――グリフォンを大きく上回る体長。


 漆黒の巨大な翼は、瞬時に数百里を飛び、縦横無尽に大空を駆け巡る様が容易に想像出来る。


 そして、鋭い大爪はどんな固い鉱石も打ち砕き、獰猛な牙は全ての生物を噛み砕いてしまうだろう。

  

 さらにその表情は、我こそ生物最強だと言わんばかりの堂々たるものだ。


 その「生物最強の王」は、虫ケラでも相手にするかの様に、ウェイン達を睨んだ。



「……ド、ド、ド、ドラゴンっ、ドラゴンだああぁぁぁああーっ!!」


 バルカスは失禁して泣き叫び、体全体の震えがガタガタと止まらなくなる。

 自分の本能が逃げろと伝えているが、上空ではどうにもならない。



「ウェイン様! あれはおそらく帝都を守っている魔竜です!!」

「へえ……。初めて見たな」

「グリフォンといえど、驚異的な強さを誇るドラゴンには太刀打ち出来ませんっ!」

「そうか。……じゃあ俺がやるか!」


 ウェインは張り切って、両腕の袖を捲りあげた。


「いいか、みんな! 野生の動物ていうのは、素手で倒して自然界にそっと返してやる物なんだ」


 リアナとエルサは、ウェインの言葉を頷きながら真剣に聞いている。


「俺がお手本を見せるから、よく見ておくんだぞ!」


 そして、ウェインが身構えると、不思議な声が聞こえて来た。




《キャンプスキル・「火起こし」を使いますか? 》


「ん? 火か。そうだな、動物は火を怖がるし。よし、それを使おう!」



《 了解しました。火起こしは(小)(中)(大)とありますが、どれにしますか?》


「そうだな、(中)や(大)だと強力過ぎるからな。ここは(小)にしておくか」



《 了解しました。火起こし(小)を発動します!》




 すると、ウェインの右の手のひらに、小さな火の球体が出現した。


「おお、これを竜に投げ付ければ、怖がって逃げるかもな!」


 それを見ていたステファンがウェインに尋ねる。


「ウェイン様、ひょっとしてその火の球体を竜に投げるのですか?」

「ああ。こう見えてもコントロールと飛距離には自信があるんだぞ?」

「ほう、意外な特技をお持ちだったのですね」

「ああ、小さな頃、スラム街でよく父親とキャッチボールをしたもんだよ」

「そうでしたか……」




――――ウェインは昔を思い出していた。



 ウェインが生まれ育ったのは、帝都の近くの名も無きスラム街。

 大勢の貧民が暮らすその街では、1日1食は当たり前で誰もが痩せこけていた。


 だが貧民の子達は明るかった。

 何もない街だったので、不用品を集めて作ったボールで色々な球遊びをした。


 ウェインも痩せこけていて、ろくにボールを投げられなかったのだが、ウェインの父親が投げ方のコツを毎日のように教えてくれたのだ。


「そらウェイン、もっと体全体を使って投げてみろ!」

「うん、やってみるよ父ちゃんっ!」



――――ウェインは目を閉じて、懐かしい父親とのキャッチボールを思い出していた。





「その様な思い出があったのですね……」

「ああ。俺のオヤジはすごく優しかったんだ!」


 ステファンは少しだけ目を潤ませた。

 リアナやエルサも自分の幼少期を思い出して、温かい気持ちになった。


「ウェイン様が球投げが得意なのは、お父様のアドバイスが良かったのですね」

「ああ。オヤジは、体全体を捻ってその反動を使えって言ってたんだ」


 ウェインは目の前に迫る黒い魔竜に狙いを定める。


「よし、じゃあこの火球で、あの竜を自然界にそっと返してやろう! 動物にも優しかったオヤジもそう願ってるだろう」


 ウェインは、父親とのキャッチボールを思い出し、体全体を捻らせた。


 両足、腰、胸、肩、両腕、その全てをムチのようにしならせる。


 そしてウェインは、その全反動を使って火球を豪快に投げる!



「いけっ! コーク・スクリュー・ボールっ!!」



 そしてその大きな火球は、ウェインの叫び声と共に、まっすぐに黒い魔竜の胴体に向かって飛んで行く。


「さあ、魔竜よ、自然におかえり」


 しかし、火球はウェインの全パワーが乗っかり、どんどんその大きさを増して巨大なファイヤーボールとなった。



――――ズバアアアァァァアアーンっ!!!



 激しい轟音と共に、なんとその巨大な火球はドラゴンの胴体を完全に突き破ってしまったっ!!


 一瞬で胴体に大穴を開けられたドラゴンは、目を見開いて絶命している。



「……あっ、張り切り過ぎた」

「み、見事に突き抜けましたな……」


  

 ドラゴンの自然界へのリリースに、失敗したウェインであった。


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