第32話 クルックポー!


 銃をまったく恐れず、銃撃隊を蹴散らした男。

 そして、ヤメーメ族の最大の危機を救ってくれた英雄。


 エルサはいつの間にか、心の中でウェインの事をずっと考えるようになった。

 そして極めつけは、2人で楽しんだ「キャンプ」だった。


 平地の野菜を気にったエルサに、ウェインは自分の分まで野菜を分け与えてくれた。肉も沢山くれた。


 何だか良く分からなかったが、彼は「キャンプ」の魅力についても沢山話してくれた。

 ウェインは圧倒的な強さを誇るのに、情に厚く、誰に対しても優しい。


 エルサはいつの間にかウェインに大きく惹かれていたのだ。



  

◇◇◇




「まあエルサの気持ちも分かるさ。じゃあ、お前の好きな時に勝負してやるぞ」

「本当か、ウェイン?」

「ああ。いつでもかかってこい」


 ウェインの言葉にエルサは瞳を輝かせた。

 だが、それを見ていたリアナがウェインに尋ねる。


「ちょっとウェイン様、いいんですか!?」

「ああ。構わないさ」

「こういう女は調子に乗って、真夜中でも平気で襲って来ますよ!?」


――――お前がそれを言うんじゃねえっ!!


 深夜2時に俺を襲いに来たイカレポンチは、お前だろうがっ!


 と思うバルカスだった。



 そして、一部始終を見守っていたステファンが、優しい笑みを浮かべ口を開いた。


「さて、予定の時間も過ぎてますので、そろそろ出発されますかな?」

「ああ、そうだなステファン。今日は楽しい遠そ…… じゃなくて宣戦布告だったな」


――――今、遠足って言いかけなかったかっ!?


 とバルカスは驚愕した。



「ウェイン、どこかいくのか?」

「ああ、帝都まで行くんだよ。お前も来るかエルサ?」

「行く! エルサもウェインと一緒!」

「そうか。ゴードンとトーマスが来れないから、ちょうどいいかもな」


 こうして一行にエルサも加わり、共に帝都に宣戦布告に行く事になった。


「ところでウェインさん、馬車が見えないようですが?」

「ああ、師匠、馬車は使わないぞ」

「……へ? でもこの地は鉄道も無いし。どうするんです?」

「ああ。グリフォンに乗って行こうかと思って」

「グリフォン? あの伝説の魔獣ですか?」

「ああ。ちょっとあいつと交渉してみてもいいか?」

「……はあ?」


 そう言うとウェインは『キャンプ』スキルを発動させた。


「スキル発動!」


 すると不思議な声が聞こえてきた。



《野生動物(大)をこの場に呼びますか?》


「……ああ、グリフォンを呼んでくれ!」



《了解しました。では野生動物(大)を呼びます》



「ウェインさん、さっきから何を1人で言ってるんです?」

「グリフォンが来るぞ師匠。帝都まで運んでくれるか交渉するんだ」


 バルカスとウェインが喋っていると、突然2人の姿が大きな影で覆われた。


 不思議に思ったバルカスは真上を見た。


 何とそこには、伝説級の巨大魔獣「グリフォン」が、大きな翼を羽ばたかせていたのだった。

 その羽ばたきの風圧によって、辺りの木々が大きく揺らいでいる。


「……ひ、ひ、、ひいいいぃぃぃいいいーっ!」

「おっ、来たな」


 魔獣グリフォンは地上に降り立ち、獰猛なくちばしを開けるとおぞましく嘶(いなな)いた。


「グガガアアァァァアアアァァァアアアーっっ!!」


 その凄まじい鳴き声に、バルカスは尻餅を付き、全身をガクガクと振るわせた。


「た、た、助けて……!! ば、ば、ば、化物、化物おおぉぉおおーっ!!」



 すると、ウェインが何やらグリフォンに話しかけようとしていた。


「鳥の言葉はこんな感じかな? ……ポッポー、ポッポポポーっ?」

「グガガアアァァァアアアーっ!?」

「ポッポー、クルックポー!」

「グガアアァアアーっ!」


 グリフォンと話し終わったウェインは、他のメンバーの方に歩いて行った。


「……いいってよ!」

「おお、魔獣と話せるとは流石でございますな、ウェイン様!」

「やったー! 伝説の魔獣に乗れるなんて、最高じゃない!」

「エルサも、グリフォン乗る!」



 ウェインを先頭に一同は、次々にグリフォンの背中に乗って行った。


「……ん? 師匠も早く乗ったらどうだ?」

「い、いや、その、私は高い所は苦手でして……!」

「またまた! 総司令官殿は冗談が好きなんだから! キャンプの達人が何言ってんですか!」


 リアナはバルカスの腕を掴むと、力一杯引っ張る。


「や、やめて! 本当にやめてリアナさんっ!! 無理っ、無理いいいぃぃぃいいいーっ!!」

「あはははっ! もうふざけてないで、早くいきましょうよ!」


 リアナはそう言うと、あっという間にバルカスをグリフォンの背中に乗せてしまったのだった。



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