第31話 刺客の少女エルサ
いきなりエルサがウェインに斬りかかった事で、その場は騒然となった。
「ちょっとあんた! いきなりウェン様に斬りかかるなんて、気でも狂ったの!?」
「うるさい、女、邪魔するな!」
ウェインが襲われた事で、怒りが爆発寸前のリアナ。
エルサもそれに一歩も引かず、リアナを睨み返している。
「どうしたんだエルサ? 暇なのか?」
「……エルサ、暇、違う!」
ウェインの問いかけにも、エルサは腹を立てている。
「ウェイン、お前を倒すっ!!」
「なんだ? そんなに俺と勝負したいのか?」
「勝負、したい!!」
「よし、じゃあ勝負してやろう」
ウェインはエルサの前で身構えた。
「こんな女、ウェイン様がわざわざ相手する必要ありませんよっ!」
リアナがウェインの前に出るが、ウェインはそれを制して再びエルサの前に立った。
エルサは槍をリアナに壊されたので、素手でウェインに襲いかかっていった。
「はあっ!!」
「……うおっ、速いな!」
エルサは人間離れした素早い動きで、手刀と蹴りの連続技をしかける。
ウェインはギリギリの所で見極めて、それをかわしていく。
エルサはさらにスピードを上げ、獣のような動きになっていった。
そして、ついに彼女の右ストレートがウェインの頬をかすめた。
「くっ!」
エルサはその僅かな隙を狙って、強烈な回し蹴りをウェインに浴びせる。
ウェインの顔面に、エルサの右足が叩き込まれた。
……様に見えたが、ウェインは間一髪それをかわしてエルサの右足を掴んだ。
「捕まえたぞ。エルサ」
ウェインはエルサの足を強引に引っ張り彼女の体を引き寄せると、そのまま素早くチョークスリーパーに入った。
「どうだエルサ、苦しいか? 参ったするか?」
「エルサ、苦しくない! 参ったしない!!」
「我慢するなって。野生の熊も耐えられなかった技だぞ?」
「……エ、エルサ、ウェインと……戦う」
ウェインはエルサが可哀想になり、チョークスリーパーを解いた。
「ウェイン! どうしてエルサと戦わない!?」
「エルサ、男はな、女と全力では戦えないんだぞ?」
「……どうして!?」
「う~ん、じゃあ、逆にお前はどうして俺と戦いたいんだ?」
エルサは黙り込んでしまった。
「まったく訳の分からない女ね。ウェイン様、この女の処分はどうしますか?」
「まあ待て、リアナ」
すると今度は、ステファンが優しくエルサに話しかけた。
「エルサさん、私達は同じドルヴァエゴの領民ではありませんか。何か困った事があるなら、何でも話してくれていいんですよ。何か理由があるのでしょう?」
エルサはステファンの言葉を聞いて、ようやくその理由を話し始めた。
「エルサ、ウェインの事考えると、胸苦しい」
「「……え?」」
「エルサの胸、ずっとドキドキしてる」
「あんた、それって……」
リアナがエルサとウェインの顔を交互に覗きこむ。
そして、エルサが再び話しだした。
「胸がドキドキする、昔一度あった。強敵と戦った時」
「……はあ!?」
その場にいた人間は、エルサの言葉に唖然とする。
「エルサ、強い奴と戦う前、ドキドキ、ワクワクする」
「あんた、それとは違うんじゃないの!?」
「同じ。だからエルサ、ウェインに勝たないと、胸治らない!」
リアナ、ステファン、バルカス、の3人は、エルサの言葉に口を開けてポカンとしている。
だがウェインは違った。
「ああ、それ分かるな。俺も格上の奴と戦う前はドキドキするからな」
「ウェイン、分かるか?」
「まあな。お前もヤメーメの戦士だもんな」
ウブな少女と、鈍感過ぎる領主に、3人は言葉を失ってしまったのだった。
――――ヤメーメ族、族長の娘エルサは生まれながらの戦士だった。
戦闘種族として古来より生きて来たヤメーメ族。
第36代族長トシミテは、10代の頃から一族最強の男として君臨し、自分の息子も最強の男として育てる決意をしていた。
だが彼と妻に、とうとう男子は授からなかった。
3姉妹の長女として生まれたエルサは、族長トシミテから息子のように扱われ、戦いの奥義を徹底的に叩き込まれたのだった。
そんなエルサは、次第にヤメーメ族の男達よりも強くなり、族長以外では彼女に誰も勝てなくなってしまった。
しかし、そんなエルサにも心から怖いと思う物があった。
――――それは「銃」である。
あの日、ヤメーメの集落に姿を見せた帝国兵達。
彼らは強引に女子供を攫っていこうとした。
だが、ヤメーメ族の女達も1人1人が立派な戦士でもある。
それぞれが武器を手にして、理不尽な帝国兵に斬りかかっていったのだ。
だが彼女達は、すぐに倒れてしまった。
帝国兵が銃を乱射したのだ。
エルサも足がすくんだ。
今まで剣や槍、肉弾戦の格闘術、などの英才教育を受けた彼女だったが、銃声と共に血だらけになって倒れた女達を見て、心から恐怖したのだ。
銃は怖い。
いくら肉体を鍛えても、剣や槍の修行に励んでも、到底勝てない。
銃は一瞬で命を奪う。
彼女は銃が怖かった。
だが、あの戦いでそんな銃を恐れず、剣1本で戦いを挑み、それに勝利した男がいた。
そう、それがウェインだったのだ。
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