第30話 ちょっと早かったんだけど!


 帝都に宣戦布告しに行く前日の夜。

 バルカスは深夜になるまでひっそりと待ち、ドルヴァエゴを逃げ出そうとしていた。


「これ以上、あんな命知らずのバカ共と付き合ってられん!」


 バルカスは荷物をまとめると、長い間野営していた森の奥のキャンプ場を後にした。



 森の夜道を足早に歩いていくバルカス。

 すると、数メートル先の暗闇から、うっすら人影が見えて来た。


「だ、誰か来る……!?」


 すぐに木陰に隠れようとしてバルカスだったが、一足遅かった。


「おーいっ、総司令官殿ーっ!!」

「……!!」

「あ、やっぱり総司令官殿でしたか!」

「リ、リ、リアナさん……!? い、一体こんな時間にどうしたんですか!?」


 バルカスの目の前には、満面の笑みを浮かべたリアナがいた。



「いやぁ~、もうワクワクして眠れなくて!」

「わ、ワクワク……!?」

「そうそう、で、ちょっと早かったんだけど、総司令官殿を迎えに来たんですよ!」

「……そ、そうなんですか!?」



――――バルカスは思った。


 この娘、どこまでイカれてるんだよっ!?


 この大陸の覇者である帝国に、宣戦布告しに行くんだぞ!?

 それもまた、たった6人で!!


 それに、「ちょっと早かったんだけど」とか言ってんじゃねーよっ!

 約束の集合時間は、明日の午前9時だぞ!


 今は夜中の2時!!

 何しに来たんだよ、この農家の娘は!?



 リアナは嬉しそうにバルカスの顔を見た。


「あ、ひょっとして総司令官殿も、ワクワクして眠れなかったんじゃないですか!?」

「え? いや、その……」

「もう、言わなくても分かりますよ~! あ、そうだ、まだ時間あるし剣の相手でもしてもらおうかな」

「は、はい……!?」


 リアナはそう言うと、懐からオリハルコンの剣を抜くとすぐに戦闘体制に入った。


「リ、リ、リアナさんっ! オリハルコンの剣はまずいですって!」

「ふっ、今宵の魔剣は一味違いますぞ、総司令官殿っ!」


 リアナは問答無用とばかりに、バルカスに斬りかかった。


 必死で逃げるバルカス。

 そんなバルカスを追いかけ、オリハルコンの剣を振り回すリアナ。


 走り回って大木の裏に隠れるバルカス。


 すると、その大木がリアナの太刀で一瞬で粉々になる。


「……ひ、ひいいぃぃいいーっ!!」

「うおおぉぉおおーっ! 魔剣よ、全てを破壊しろおおぉぉおおーっ!!」



 そんなリアナの剣の修行は、明け方まで続いたのだった。




♨♨♨




 翌朝。

 ドルヴァエゴの領主邸前には、ウェインに選ばれたメンバーが揃いつつあった。


「ん? どうした師匠? かなりやつれた様に見えるが?」

「…………」


 バルカスはリアナから全力で逃げ続けたので、体力は極限まで消耗していた。

 その為、ウェインの問いかけにも返答出来ずにいる。


 そこで、リアナがバルカスに代わって返答した。


「ウェイン様、実は総司令官殿と私は剣の修行をしていたんです!」

「何? 朝っぱらから元気だな」

「ええ、私も総司令官殿も、ワクワクして眠れなかったんですよ!」

「ほほう。まあ気持ちは分かるがな」


――――分かるのかよっ!


 と思うバルカスであった。



「そういや、ゴードンとトーマスの姿が見えないが?」


 ウェインは2人の事をステファンに尋ねた。


「ウェイン様、ゴードンは何やら子供が熱を出したそうでして」

「そうなのか、それは大変だな。で、トーマスは?」

「トーマスは畑仕事が忙しいからって、連絡がありました」

「そうか。畑も大変だよな」



――――バルカスは思った。


 子供が熱を出した!?

 畑が忙しい!?


 そんな理由で休めるのかよっ!!

 帝国に戦争しかけるような日だぞ!?


 俺はあのイカれた娘のせいで!

 ぶっ倒れる寸前なんだぞおおぉぉおおーっ!!



 バルカスは怒りに身を震わせていた。



――――とその時、物凄い速さでこちらに走ってくる1人の少女がいた。


「ウェイン、覚悟っ!!」


 少女は高く跳躍すると、持っていた長槍でウェインに斬りかかった。

 がしかし、間一髪の所でリアナがオリハルコンの剣でそれを防いだ。


 少女の槍はその衝撃で粉々になって砕けてしまった。


「……ん? お前はエルサ」

「ウェイン、お前を倒すっ!!」


 

 何とウェインに斬りかかったのは、ヤメーメ族族長の娘エルサだった。


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