第24話 キャンプ仲間


「いや~、あなたがこの地の領主様だったなんて、とんだ失礼をしてしまいました」

「いやいや、俺の方こそ騙して悪かったな」


 エバンスとウェインは、森の奥にある湖畔に来ていた。


「そろそろ熊が魚を持って来てくれると思うけど、びっくりしないでくれ」

「え? 熊ですか……!?」

「ああ、でも俺に懐いてるから何の心配もないぞ?」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。かわいい奴らなんだ」



 しばらくすると、ウェインの言う通りに3匹の熊達が魚を咥えてやって来た。

 熊達はエバンスに気を使ったのか、魚を地面に置くとすぐに森の奥へと帰っていった。



「す、凄いっ! ウェインさん、僕は初めて野生の熊を見ましたよっ!!」

「そうか?」

「それに野生の熊が魚をくれるなんて!! ウェインさんとの間で素晴らしい友情があるんですね!」


 エバンスは野生の熊に会えた事に感激し、目を潤ませるほどだった。


 やがてウェインが焚き火して、慣れた手付きで魚を焼いていく。


 エバンスは焚き火の揺れる炎を見ていると、荒んだ心が癒されるように感じていた。



「よし、そろそろ食べ頃だ。食ってみろエバンス君」

「うわ~、すっごくいい匂いしますよ、ウェインさん!!」


 エバンスは焼き魚を一口頬張り、その味に驚いてウェインの方を見た。

 ウェインは黙って頷く。


 エバンスは魚を食べるのが止まらなくなり、あっという間に1匹たいらげてしまった。


「大自然を前にして食う魚は美味いだろ?」

「はいっ、もう最高ですよ! 僕はこんなに美味い焼き魚を食べたのは、生まれて初めてです!!」



 しばらくすると、エバンスは大粒の涙を流していた。


「どうしたんだエバンス君、切れ痔が痛むのか!?」

「いえ、そうではないんですよウェインさん。僕はキャンプという物を誤解していました。まさかこんなに素晴らしい物だったとは!!」

「ほう、分かってくれたか?」

「ええ、これが本当のキャンプなんですね!! 何だかとても荒んだ心が癒されていくようですよ!」


 エバンスは目を閉じて深呼吸をした。

 その姿を見ていたウェインは、かつての自分を思い出していた。



「僕は小国『ペルセ』の王族の五男坊です。最近はあんな接待的なパーティーやらイベントばかりで、疲れていたのかもしれません」

「君も苦労してるんだな」

「いえいえ。領主様のお仕事に比べたら大した事はありませんよ。でも……」


 エバンスはウェインに自分の悩みを打ち明けた。


 弱小国は国を存続させる為に、大国と血縁関係を結ばなければならない事。

 しかし、流行り物好きの大国令嬢は性格が悪く、自分とは合わない事。

 でもそんな彼女らに気に入られる為に、無理な接待をしなければならない事。



 エバンスは話を続けた。


「でもねウェインさん、大国の令嬢でも1人だけ心優しい素敵な女性がいるんです」

「ほほう」

「それに、その彼女も僕の事を気に入ってくれてるんですよ」

「それなら、その女とイチャイチャすればいいだろ?」

「そうしたいんですが、彼女の父上がそれを認めてくれないんです」

「何!? それじゃイチャイチャ出来ないじゃないかっ!?」

「そ、そうなんですよ。だから仕方なく他の国の令嬢を……」


 

 エバンスが言うには、小国の貴族が大国の令嬢と結婚するには、大国の方に大きなメリットが無いとダメらしいという事だった。


「う~んメリットか」

「そうなんですよ。小国の婿に凄い武勇があるとか、大金を持っているとか」

「どちらも無いのか?」

「はい。お恥ずかしい話ですが……」

「じゃあ、ちょっと待ってろ」

「え?」


 そう言うとウェインは猛ダッシュで、領主邸に帰っていったのだった。




◇◇◇




「ウェインさん、こ、これは……!?」

「オリハルコンだ。凄いだろ?」

「ぼ、僕は小さな欠けらしか見た事がありません! それがこんなに大量にあるなんて!!」


 ウェインは領主邸にあったオリハルコンを、荷車で森の奥まで運んで来たのだった。


「俺の師匠がそれは売ったらダメだって言うから、エバンス君にあげるぞ?」

「はああぁぁああーっ!? だ、だ、ダメですよ!! そんな国宝級の鉱石は頂けませんよ!!」

「いいんだよ。まだ沢山あるって族長が言ってたし」


 エバンスは開いた口が閉まらなかった。


「そんだけオリハルコンがあれば、その大国の王様も結婚を認めてくれるだろ?」

「そ、そ、そ、そうですが!!」

「そうだ、貴重な鉱石だからな。護衛にヤメーメの戦士も付けてやるぞ」



 その後、しばらくオリハルコンの話を断り続けたエバンスだったが、ウェインの強い押しに負けてあり難くオリハルコンを貰う事にしたのだった。


「ううっ……ウェインさん、このご恩は、このご恩は!!」

「いいんだよエバンス君。俺たちキャンプ仲間だろ?」

「キャンプ仲間? こんな僕を仲間にしてくれるんですか!?」

「当たり前だろ? 俺たちはキャンプで分かり合ったんだからな」

「……ウェインさん!!」

「またキャンプしに来てくれよ? 待ってるからな!」


 エバンスはウェインに抱き付き、号泣するのだった。


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