第25話 リアナズ・ブートキャンプ
貴族の青年エバンスが森の奥で癒されている頃、貴族の令嬢達の前にはリアナが姿を現した。
「ちょっとキャンプ場のお姉さん、そこ立ってると邪魔なんだけど?」
「そうよ、写真撮ってるんだから、少しは気を使いなさいよね!」
リアナは動かず、黙って彼女らの話を聞いている。
「ちょっとあんた、聞こえないの?」
「あ、田舎者に写真って言っても理解出来ないんじゃない!?」
「アハハっ! 言えてる!!」
リアナは黙って、彼女達お抱えの写真家の方へ歩いて行く。
するとリアナは写真家から、強引にカメラを奪い取ってしまった。
「ちょ、ちょっと、あんた勝手に何すんのよっ!」
「ふざけないでよっ! 今かなりバエってたんだから!」
騒ぎ立てる貴族令嬢達とは逆に、写真家の男はリアナの怒りのオーラを感じ取って、何も言えずに身を震わせていた。
するとリアナは、手にとったカメラを両手で力強く握り締めた。
「うおらああぁぁああーっ!!」
何とリアナは、手の中カメラを粉々にぶっ壊してしまったのだった。
「……ちょ、ちょ、ちょっとおおぉぉおおーっ!!」
「な、な、な、何してんのよーっ!!」
「そ、そのカメラ一台いくらすると思ってんのよっ!!」
カメラをぶっ壊したリアナが静かに、令嬢達の前に歩み寄った。
リアナが彼女達に近づく度に、怒りのオーラがどんどん増していく!
貴族令嬢達は思った。
な、な、な、何者なのよ、この女っ!?
もう、目付きが完全にイっちゃってるんだけど!?
ち、近づいて来た! やばい、私達殺られる!?
リアナは令嬢達の前に立ちはだかると、大声を張り上げた。
「このクソ女どもがっ! お前らの人生、それでいいのかーっ!!」
「……え!?」
「お前らは、そんな人生で悔しくないのかーっ!?」
「……え? 悔しいって!?」
「うるせえーっ! 口答えするなっ! 素直に悔しいって言え!!」
鬼の形相のリアナを前に、令嬢達は言われた通りにするしかなかった。
「……く、悔しいですっ!!」
「そうだろ、悔しいだろが! だから、私はこれからお前らを殴る!」
「……え!?」
「うるせえーっ! 歯を食いしばれえぇぇえーっ!!」
するとリアナは、貴族令嬢一人一人に往復ビンタを食らわしていったのだった。
「うおらああぁぁああーっ! 悔しいかーっ!?」
「悔しいですっ! ……ぐ、ぐはあーっ!!」
「うおらああぁぁああーっ! 悔しいかーっ!?」
「悔しいですっ! ……ぷべらっ!!」
「うおらああぁぁああーっ! 悔しいかーっ!?」
「悔しいですっ! ……ひ、ひでぶっ!!」
3人の貴族令嬢達は、たちまちその頬をパンパンに膨らませてしまった。
もう、もはや原型は留めていない。
「よしっ! 大分いい顔になったじゃないの! それがキャンパーの顔付きってものよ!」
しばらくの間、貴族令嬢達は大号泣していたが、リアナは嫌がる彼女達を連れて森の奥にある大きな滝の前にやって来た。
「よし、本当のキャンパーになるには、何と言っても滝修行よ!」
「え!? ま、まさかこれに飛込めなんて、言いませんよねっ!?」
「アホか! 滝まで来といて飛び込まないわけないだろがっ!!」
リアナは貴族令嬢達の背中を蹴飛ばし、激しい流れの滝の中に突き落としたのだった。
「ひ、ひいいいぃぃぃいいいーっ! し、死ぬ~っ!!」
「……た、た、助けてええぇぇええーっ!!」
「ブクブクブク……」
滝の中で何も出来ない令嬢達を見て、リアナはため息を付いた。
「まったく、あんな偽物のキャンプなんてしてるから、本物に付い来れないのよ!」
リアナは滝に飛び込むと、3人の令嬢達を助けに泳いでいった。
♨♨♨
「は、は、はくしゅんっ!!」
「ほら、しっかり焚き火に当たりなさい」
「す、すみませんリアナ様」
「風邪引かないように、しっかり髪も乾かすのよ」
「あ、ありがとうございます」
本当のキャンプ体験を終えた3人は、リアナの用意した焚き火を囲い体を温めていた。
そして彼女らの体が温まると、夕飯の食材探しに4人で森を散策するのだった。
彼女達は2時間ほど歩き回って、やっと山菜やキノコを見つけた。
「さあ、これで夕飯作るわよ!」
「「はい、リアナ様!」」
3人の貴族令嬢達は、やっとの思いで火を再度起こし、その炎を少しづつ大きく育てていった。
そしてお湯を沸かすと、旬の山菜やキノコを切ってその中に入れていった。
次第にスープは芳醇な香りを辺りに漂わせた。
「さあ、食べるわよ! 沢山あるから遠慮しないでいいからね!」
「「はいっ! 頂きます、リアナ様!!」」
令嬢達は自分達の力で作ったスープを口に入れると、誰もが涙を流した。
「うう……、お、美味しい!! こんな美味しいスープは初めてだわ!」
「本当に美味しい。 ……でも料理を作るのがこんなに大変だったなんて」
「私達、本当に最低だった。 食べ物を粗末にするなんて人間のクズよ!」
その様子を見たリアナは、優しく微笑んだ。
「分かればいいのよ。……でも食べ物って大事よね。このドルヴァエゴはね、半年前まで食糧難で餓死者が出るほどだったのよ」
「「……え!?」」
リアナは悲しそうな瞳で、3人に話した。
「食べ物が無いって本当に辛いのよ。可愛い子供達が栄養失調で倒れて死んでいくのを、私は何度も見たわ。……もうあんな悲劇は繰り返してはいけない」
リアナの言葉に3人は号泣してしまった。
「ご、ご、ごめんなさいいいいっ! 私達は生きる資格がありませえええんっ!」
「ゆ、許して、許してくださいいぃぃいいっ!」
「うわあああーんっ! 子供達、子供達がああぁぁああーっ!!」
リアナは苦笑いを浮かべる。
「もういいのよ、泣かないで。これからは食べ物と作ってくれる人に感謝するのよ」
「「はいいぃぃいいっ!! 感謝します! 絶対感謝しますうううっ!!」」
こうして3人の貴族令嬢達は改心し、リアナから教えてもらった本当のキャンプを心から楽しむのだった。
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