第23話 バエるキャンプ
「……ウェインさん、ステファンさん」
「ん? 何だ師匠、水虫にでもなったのか?」
「い、いえ、そうではありません。このオリハルコンの事なのですが……」
「オリハルコンがどうしたんだ!?」
ウェインはバルカスの顔を、険しい顔で覗きこんだ。
バルカスはその凄まじい圧に、体中に脂汗がにじみ出る。
「いや、その、オ、オリハルコンは売却してはなりません」
「え? 何でだ? 金持ちになれるんだぞ?」
ステファンも驚いてバルカスの方を見る。
「た、確かにオリハルコンを売れば大金が手に入ります。し、しかし、オリハルコンで作った武器が量産されればどうなると思いますか!? 簡単に国1つが滅びる事に成り兼ねないのです!!」
バルカスの主張に、ステファンが返答する。
「確かにバルカス殿の言われるように、その危険性はあります」
「……そ、そうでしょステファンさん?」
「ですが、オリハルコンを武器に加工出来る職人は、今ではマゼラン王国に数名いる程度です。マゼランにさえ売却しなければ問題ないかと思われますが」
「いやしかし、廻り廻ってマゼランに渡るとも限りません! とにかくオリハルコンとは危険な物なのです!!」
またもウェインが、至近距離でバルカスの顔を覗き込む。
バルカスは脂汗が大量に流れ落ちて行くのを感じた。
「そうか。師匠がそこまで言うなら、オリハルコンの売却は止めておこう」
「ほ、本当ですかウェインさん!?」
「ああ。師匠の言う事は間違いないからな。ステファンもそれでいいな?」
「……残念ですが、私はウェイン様に従うまでです」
バルカスはウェインの言葉に、胸を撫で下ろしたのだった。
◇◇◇
――翌日。
ウェインが作った森のキャンプ場に、初めて領地外から観光客が来ていた。
接客する事になったのは、領主のウェインとリアナだ。
ウェインは初めての客に喜び、自分から進んで接客する事にしたのだ。
「いいかリアナ。この地は大自然で田舎というのが売りだ。俺達もそれなりのキャラ設定でいくからな」
「キャ、キャラ設定ですか?」
「そうだ。例えば喋り方だ。とりあえず俺の真似をしてみろ」
「はあ……」
「ここはドルヴァエゴのキャンプ場だっぺさ~」
「……こ、ここはドルヴァエゴのキャンプ場だっぺさ~」
「よし、その調子だぞリアナ! じゃあ続けていくぞ」
「はあ……」
「どんぞ、ゆっくりすて行っておくんなましっ!」
「ど、どんぞ、ゆっくりすて行っておくんなましっ!」
「よし完璧だ!」
ウェインとリアナがキャラ設定の練習をしていると、やがて4人の貴族風の男女がやって来た。1人が青年で残りの3人が貴族令嬢のようだ。
「やあ、キャンプ場のおじさん! 今日は宜しく頼むよ!」
爽やかイケメン風の青年が、ウェインに挨拶して来た。
「こんにつは~。ここはドルヴァエゴのキャンプ場だっぺさ~」
ウェインの言葉に3人の令嬢達が爆笑する。
「アハハハハっ! 何それ、超ウケんだけど!?」
「だっぺ!だって」
「どんだけ田舎なのよっ!!」
それを聞いたリアナの眉間に大きなシワが出来る。
しかし、彼女はウェインの気持ちを考えてぐっと堪えたのだった。
すると、貴族の青年エバンスが令嬢達を注意した。
「こらこら、そんな事言ったらキャンプ場のおじさんに失礼じゃないか」
「うるさいわねエバンスは。そんな事よりもお腹減ったわよ!」
「そうよそうよ! 早く用意してよ!」
「……あ、ああ、分かったよ。じゃあさっそく昼食にしようか」
そう言うとエバンスはお抱えのシェフを呼び付け、料理を作らせたのだった。
「何かこの料理、今の気分と合わないかも~」
「言えてる~。 捨てちゃえば?」
「そこら辺に捨てれば、鳥とかが食べるわよ」
何と貴族令嬢達は、シェフが作った高級料理を次々に地面に投げ捨ててしまった。
それを見たリアナは鬼の形相となり、数秒後には猛ダッシュでその場から離れてしまうのだった。
――そして彼女は森の奥までやって来た。
「あんのクソ女共がああぁぁああ~っ! ウェイン様をバカにしたばかりでなく、食料難で苦しんだこの地でふざけた真似しやがってええぇぇええーっ!!」
そう叫んだリアナは、落ちていた巨大な倒木を振り回して、それをはるかかなたに放り投げたのだった。
「ハアっ、ハアっ、あいつら今度ふざけた真似したら、ぶっ殺す!!」
リアナから滲み出る怒りの感情で、近くの鳥や獣達はたちまち逃げ出すのであった。
◇◇◇
「超絶田舎だけど、逆にバエるかも~」
「そうね、こんな田舎誰も来ないし」
「てゆーか、超バエるよ~!」
今度は彼女達はお抱えの写真家を呼び付け、自分達のキャンプ姿を写真に撮らせたのだった。
それを見ていた貴族青年エバンスは、大きなため息をついた。
彼のそばにいたウェインは彼に話しかける。
「何だか、変わった事をされとりますな?」
「そうなんだよ。何でもああやって珍しい場所にいって写真を撮るのが、貴族令嬢の間で流行っているらしんだ」
「ほほう」
「まったく何が楽しいんだか。僕にはさっぱり分からないよ。……でも僕は伯爵家の五男坊だからね。こうやって有力貴族の令嬢達とコネクションを作る必要があるのさ」
「何やら大変ですな」
「分かってくれるかい、キャンプ場のおじさん?」
「分かりますとも」
「おお、あなたはいい人だ。……おじさん、僕はね、大自然を前にしてキャンプをすれば、自分の荒んだ心が癒されるかと思ったんだよ。でもそうでもなかったみたいだ」
「それは誤解だっぺ」
ウェインは腕組みをして何やら考え出した。
するとそこに、森の奥から猛ダッシュでリアナが戻って来た。
「おいリアナ、俺はこの青年に『本当のキャンプ』を教えてやろうと思う」
「はい?」
「だからお前は、貴族令嬢達に『本当のキャンプ』を教えてやれ」
「……え、いいんですか!?」
「ああ。せっかくドルヴァエゴまで来てくれたんだからな。ぜひキャンプの真髄を体験してもらえ」
「お任せください! ウェイン様!!」
こうして、1人の青年と3人の令嬢達は『本当のキャンプ』を知る事になるのだった。
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