第22話 親愛なるギルトン様へ
ステファンの言葉に会場となった領主邸は静まり返ったが、すぐに聴衆達は叫ぶように訴えた。
「望むところだっ! 帝国など返り討ちにしてやるっ!」
「そうだ、そうだっ! 俺達はウェイン様に付いていくぞ!! 」
聴衆の言葉を聞き、さらにステファンは質問をする。
「ウェイン様が敵に回した帝国は、この大陸の70%以上を支配する超軍事国家です! それでも戦いますか!?」
ステファンが聴衆の言葉を待つまでもなく、次々と領民から決起する訴えが返って来た。
「どうせ食糧難で死にかけたんだ! 恩人のウェイン様にこの命は預けるぞぉっ!!」
「「ブッコロ・スーダラ・ウンポーコ!!」」
「気合があれば、帝国すら倒せるっ!!」
「そうだ、倒せる、倒せるぞぉっ!!」
今度は嵐のような「倒せ!コール」が巻き起こった。
「倒(たーお)せっ!! 倒(たーお)せっ!! 倒(たーお)せっ!!」
今度は、壇上のステファンも一緒になって叫び続けたのだった。
◇◇◇
その頃、帝国領ヴラントではギルトンが怒りに身を震わせていた。
「何だ、このバルカスからの報告書は!? 一体どうなっておるのだ!?」
ギルトンは、バルカスから届いた報告書を持つ手も、怒りでプルプルと震えている。
バルカスからの報告書の内容はこうだった。
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親愛なるギルトン様へ
冬のひだまりがことのほか暖かく感じられる寒冷の候、
ギルトン様におかれましては、いよいよご壮健のこととお喜び申し上げます。
さて、この度、田舎ザルのウェインは、ゴルネオ様率いる帝国軍3000人に無謀にも攻撃をしかけようとしています。しかもたった6人で!
その6人のメンバーですが、ウェイン以外は農家のおじさん、農家の娘、などです。
一体、こんなヘッポコの6人に負ける軍隊など、どこにいるのでしょうか!?
もしこんな奴らに負けるヘナチョコ軍隊があるなら、見てみたいものですね!
とう訳で、ウェインはさらに頭がおかしくなって、落ちぶれて来ていますのでご安心ください。
それではギルトン様、お風邪など召されませんように、お体には十分お気をつけくださいませ。
実績と信頼の密偵 バルカスより
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「何なんだこれはっ! クソっ、季節の挨拶なんか入れやがって!!」
怒り心頭のギルトンにアデルが話しかける。
「こ、この内容って大分前の内容じゃないっ!? 」
実はバルカスが使っている連絡用の伝書鳥は、寄り道グセがあるダメダメな伝書鳥であった為、ギルトンの報告が大分遅れてしまったのだった。
「……ヘ、ヘナチョコ軍隊!? 我が軍はヘナチョコ軍隊なのかああぁぁああーっ!?」
ギルトンはバルカスからの報告書を、ビリビリと破き床に叩き付けた。
「おのれ~っ ウェインめっ!! ……おい、あの馬鹿(バルカス)に至急連絡しろっ! ウェインの領地が自滅するように裏工作しろとなっ!!」
「はっ!」
近くに待機していた側近の兵士が、すぐに連絡の準備に入る。
「どんな手を使っても構わん! 徹底的にウェインを痛め付けろとバルカスに伝えるのだっ! それが出来なければ前金の報酬料は全て没収だとも付け加えろっ!」
ギルトンは領内と帝国からの評判がガタ落ちで、毎日イライラして過ごしていた。
その為、全ての怒りをウェインにぶつけようとしていたのだった。
◇◇◇
翌日。
伝書鳥によって、バルカスの元にギルトンからの返信が届いた。
「まずい! まずい、まずい、まずいぞーっ! 大変な事になった!」
ギルトンのスパイであるバルカスは、ギルトンから報告書の返信が来た事でかなり焦っていた。
「前金なんて、飲み歩いたり借金返したりで全部使っちまったよ! くそっ、何とかするしかねえ!」
バルカスはとりあえず領主邸に向かった。
ウェインやドルヴァエゴの運営を任されているステファンの元に行けば、新たな情報が手に入るかもしれないと思ったからである。
しかし、領主邸にたどり着いたバルカスは、想像以上の大きな出来事を目の当たりにした。
「……ウェインさん、こ、これは!?」
「ああ、凄いキレイだろ、師匠?」
「ま、まさか、この輝きは……!!」
「そう、オリハルコンですよ。バルカス殿」
バルカスは「オリハルコン」という言葉を発したステファンの顔をマジマジと見つめた。
そして、応接室のテーブル一面に置かれたオリハルコンに視線を戻す。
「これはヤメーメ族が長年守り続けて来た、この地の宝なのですよ。バルカス殿」
「す、凄いっ! 私は初めて見ましたぞ!」
「今朝方、族長達がウェイン様に献上して来たのです。彼らには感謝せねば」
伝説級の希少価値の高い「オリハルコン」は、一欠けらでも豪邸が建つと言われる程の鉱石だ。
そして、それを原料にした武器や防具は、あらゆる敵の攻撃を跳ね返すとも言われている。
「このオリハルコンを売却すれば、我がドルヴァエゴは一気に繁栄しますぞ!」
「すげーな。立派なキャンプ場が作れるぞ、師匠」
バルカスは思った。
まずい、まずいぞっ!! まさかのオリハルコンっ!
一欠けらでも富豪になれると言われる、伝説の鉱石じゃねえか!?
そんなのがテーブルを覆い尽くすくらい大量にあるなんて!
ドルヴァエゴが繁栄しちまったら、俺が大変な目に合うじゃねえか!!
考えろバルカス!
この国を衰退させるんだ! ウェインを落ちぶれさせるんだ!
バルカスは必死で頭を回転させるのであった。
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