第20話 ギルトンの悲劇2
ゴルネオ率いる帝国軍3000人が、ウェイン達に完全敗北してから2日が経った。
「ねえギルトン。そのヤメーメとかいう蛮族の徴兵はうまくいってるのかしら?」
アデルはギルトンに尋ねた。
「ふっ、そろそろゴルネオがヤメーメの屈強な戦士を連行して、この城に戻ってくる頃だ」
「流石ギルトンね! 自分の領地からは徴兵せずに、無法地帯から徴兵するなんてね」
「当然さアデル。ヴラントから徴兵したのでは領民の信頼が落ちるからね!」
「私は頭のいい男が好きよ」
「ふははははっ! アデル、軍事計画とはここでやるものだよ!」
ギルトンは自分の頭を指差し、高らかに笑うのだった。
アデルはそんなギルトンに、口付けしようとする。
――――とその時だった。
「ギルトン様、大変でございます!!」
騎士団長ボルトが、血相を変えて走って来た。
「……何だ何だ、騒々しいぞ、ボルト!」
「ギルトン様、ヤメーメ族の徴兵に向かった我が軍3000人が、ほぼ壊滅しました!!」
「あ、そう。 ……へ!?」
「ウェイン率いる6人の戦士とヤメーメ族の反乱があったとの事です!」
「……はぁ!? ウェインだと!?」
「命からがら逃げ延びた兵士が僅か2名。彼らの情報によると、銃撃隊も歯が立たなかったとの事!」
「バ、バカを言うな! 近代兵器も持った兵士3000人だぞっ!? 」
「昨日、現地に確認に行った部隊が帰還しました。情報は間違いありません」
ギルトンとアデルは、騎士団長ボルトから発せられる言葉を、なかなか受け入れられなかった。
「ギルトン様、ウェインの反乱はすぐさま帝都に報告すべきかと思いますが!?」
「ば、馬鹿を言うな! 先の防衛戦での失態に加え、3000人の兵士を失ったなどと言えるかっ!」
「確かに。戦地はドルヴァエゴ。こちらが侵攻した事実を誤魔化す事も不可能に近い……」
「くそっ、くそっ! あの田舎ザルめが~っ!」
ギルトンは頭髪を掻きむしり、ワイングラスの置かれたテーブルをひっくり返した。
「ど、どうするのよギルトンっ!? またマゼランが攻め込んで来るわよ!」
「う、うるさい! そんな事は言われなくても分かっている!」
「もう領地内から徴兵するしかないわよっ!」
「……くそっ! せっかくの名声が~!」
その後ギルトンは、苦渋の決断でヴラントの領地内から6000人規模の徴兵を行った。
これは、マゼランとの防衛戦で兵士約5000人以上の死傷者が出たのに加え、今回のヤメーメ族の強制連行計画でも、さらに兵士約3000人を失ったからだ。
民間人6000人の徴兵では、まだまだその穴は埋められない。
だが、ヴラントの成人男性の人数や経済への影響を考えると、これくらいがギリギリのラインだったのだ。
「ギルトン様、民間人6000人の徴兵だけでは、マゼランの侵攻軍に対応出来ません!」
「徴兵制が復活して、兵士となった民間人の士気も上がりません!」
騎士団長ボルトと大臣達がギルトンに訴えた。
「こ、これ以上は徴兵出来ぬであろうが! これ以上は暴動が起きるぞ」
「しかし、宰相様の信頼を損なったら、今のお立場が危ういかと……」
ボルトの言う事はもっともだった。
ギルトンは帝都の宰相に多額の賄賂を送って、ウェインを追放して自分は領主の座に付く事が出来た。
しかしそれは4年もの間、他国との戦争がなかった背景が大きい。
隣国に攻め込まれて簡単に敗北するようでは、帝国にとって被害は甚大となる。
領主の軍事能力が低いと判断されれば、たちまち左遷させられるのは目に見えていた。
「くそっ、仕方ない! 雨でも影響のない、最新式の銃を量産するぞ!」
「それは、領内の徴税率を引き上げるという事でしょうか!?」
大臣達が驚き、ギルトンに尋ねた。
「くっ、そういう事だ! 領主の座を奪われるくらいなら、領民の信頼などいらぬわ!」
「宜しいのですか!? 最新式の銃を量産となると、最低でも税率65%は必要ですが」
「ふんっ、以前の75%より大分低いではないか。それで構わん、すぐに布告しろ!」
こうして、ヴラントの徴兵制は復活し税率も65%にまで引き上げられた。
もちろんヴラントの領民は酷く憤慨し、瞬く間にギルトンへの評価は急落してしまったのだった。
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