第19話 決着
ウェインとステファンの芝居によって、人質の効果が無いと悟ったゴルネオ。
彼は僅かな兵士だけで、ヤメーメ族の女達を軍幕へと連行させた。
さらには、ウェイン達が銃撃隊と激しく戦った事によって、殆どの人間の注意を引き付ける事が出来た。
この最大のチャンスに、人質にされていた族長の娘エルサが動いた!
エルサの両手首には手枷が嵌められていたが、両足は自由に使える。
彼女は一瞬の隙を付いて、帝国兵士に強烈な回し蹴りを炸裂させたのだった。
グチャっと鈍い音がして、帝国兵士の鼻の骨と前歯が砕ける。
その兵士は、そのまま仰向けに倒れると意識を失った。
その様子を見たその他のヤメーメ族の女達は、エルサと同じように強烈な足技で、次々に帝国兵士を地面に倒していったのだった。
「しまった! 人質の女共が暴れているぞっ!!」
異変に気が付いた帝国兵は、瞬時にヤメーメ族の女達を捉えようとする。
しかし、彼らはもっと大きな異変に気が付いた。
何やら近くから獣の群れが走ってくるような地響きと、けたたましい叫び声を聞いたのだ。
「うおらああぁぁああーっ! この時を待っていたぞ! 帝国兵めっ!」
「「ブッコロ・スーダラ・ウンポーコっ!!」」
何と泥沼に身を沈めて潜んでいたヤメーメ族の男達600人が、エルサが作った好機を見逃さずに、物凄い勢いで突撃して来たのだった。
「あ、あれは、ヤ、ヤメーメ族っ!! ヤメーメ族が現れたぞっ!!」
「敵襲! 敵襲だああぁぁああーっ!!」
「ひ、ひいいいいいーっ!!」
完全に不意を付かれた帝国兵は、妻や子供を攫われて怒り狂うヤメーメ族に恐れおののき、次々と虐殺されていった。
「ゴ、ゴルネオ様! ヤメーメです! ヤメーメ族が現れましたっ!!」
「な、な、何だとおおぉぉおおーっ!?」
超人的な動きを見せるヤメーメの戦士達は、4倍の戦力差など物ともせずに、あっという間に殆どの帝国兵を殲滅させてしまったのだった。
「……な、な、なぜ、ここにヤメーメ達が!?」
「ああ、全てステファンの戦略なんだよ。師匠」
ウェイン達は地面に腰を下ろし、ヤメーメ族の戦いっぷりを観戦していた。
「ま、まさか帝国軍3000人に勝ってしまうとは……!?」
「ん? いやこんなの師匠の教えを実践すれば楽勝だろ。まさにキャンプの力だな!」
「……は、ははっ、はははは!」
バルカスはもう笑うしかなかった。
「あれ? ウェインさん、ステファンさんとリアナさんの姿が見えませんが?」
「ああ、何でも、逃げたゴルネオを仕留めるらしいぞ」
「そ、そうなんですか。 (うわ~、ゴルネオ死んだな)」
バルカスはゴルネオが、少しだけ不憫に思えた。
◇◇◇
「くそっ、くそっ!! なぜ、なぜ3000人の軍隊が壊滅するのだっ!!」
その頃、戦況が不利だと判断したゴルネオは、側近の兵士10名と共に必死で逃走していた。
ゴルネオは途中の獣道で何度も転んで、顔は泥にまみれ体中は打撲していた。
「ゴルネオ様、お怪我は大丈夫でありますかっ!?」
「大丈夫じゃないっ! くそっ! こんな所で死んでたまるかっ! 私は帝国陛下と同じ血筋の高貴なる人間 ……!?」
ゴルネオは、進行方向に人影を見た。
「だ、誰だっ!?」
すると、背後の側近の兵士が次々と地面に倒れていく。
「な、な、な、何事だっ!? 何が起きた!?」
ゴルネオは怯えながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
「おや、もうたった1人になってしまわれた様ですね。ゴルネオ様」
「そ、その声はまさか……!?」
ゴルネオが後ろを振り向くと、そこには燕尾服姿の紳士が立っていた。
「ス、ステファン!! 貴様、私の側近達を殺したのか!?」
「いえいえ、私だけではありません。ヤメーメ族の戦士達も毒針で殺害してくださったようです」
「な、何だと!? やはり貴様らはグルだったのか!」
「無論でございます。同じドルヴァエゴの領民ですからねぇ」
ステファンはゆっくりとゴルネオとの距離を詰めていく。
そして剣を中段に構えた。
それを見たゴルネオは、再び進行方向に慌てて視線を戻す。
しかし、その進行方向にはヤメーメ族の族長トシミテと、その娘のエルサが待ち構えていたのだった。
「ま、ま、待ってくれっ! 俺はギルトンという貴族に頼まれただけなんだ! 本当は女なんて攫いたくなかったんだよっ!」
言い逃れするゴルネオに、族長のトシミテが迫る。
「このブタ野郎がっ! 俺の大事な娘を痛め付けておいて、この地を生きて出られると……」
まだトシミテの言葉が終わらないうちに、ゴルネオの顔面にはエルサの強烈な回し蹴りが炸裂していた。
ゴルネオの口から、鮮血と共にポロポロと前歯が抜け落ちる。
「……あがっ」
「ブタは死ね」
エルサの捨て台詞を聞いた後に、ゴルネオは膝から崩れ落ちた。
だが、かろうじて意識は残っている。
「あ~あ、女の一撃で倒れるなんて、なっさけないわねっ!」
リアナはそう言うと、ゴルネオの頭を足で踏み付ける。
「ドルヴァエゴの領民は、あんたのせいで何人も餓死したのよ! まさか、こんな蹴り一発で済むとは思っていないわよねっ!?」
「いやいや、流石のゴルネオ様も、まさかそんな調子のいい事は思っていないはずですよ、リアナさん」
「そうよね。それを聞いて安心したわ」
「ドルヴァエゴの領民やヤメーメ族の前にも連れて行くのが、宜しいかと思います」
「それいいわね。そうしましょ!」
ゴルネオは意識が薄れていく中、リアナとステファンの言葉に恐怖を感じ、絶望しながら意識を失っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。