第18話 最凶の悪徳領主
ドルヴァエゴの前領主ゴルネオと、新領主のウェインは、お互いの顔がギリギリ見える程の距離で対峙していた。
「貴様ら~! やはり新領主のウェインと執事のステファンだったか!」
「いかにも。俺がウェインだ」
「これはこれは、ゴルネオ様。ご無沙汰しております」
ゴルネオは2人の平然とした挨拶に苛立ちを覚えながら、さらに問いただす。
「我が軍は帝国の正規軍だぞっ!? それを分かって攻撃して来たのかっ!?」
「そうだけど?」
「なっ!? 貴様狂ってるのかっ!?」
「狂ってねえよ。俺の領地に無断で入って来た奴らに、注意を促がしていたところだ」
「ちゅ、注意を促がすってレベルか!? こっちは数百人も殺されているんだぞっ!?」
「うるせえな。お前も殺っちまうぞ?」
「……お、おのれ~!」
ウェインの言葉に怒り狂ったゴルネオは、配下の兵士達に人質の女達を前に出すように合図を送った。
「ウェイン、貴様の狙いはこいつらだろがっ!?」
ウェイン達の前には、ヤメーメ族の女達が姿を現した。
そして女達のすぐそばには、銃を構えた兵士が30名以上いる。
「一歩も動くんじゃねえぞっ! ちょっとでも怪しい動きをしたら、こいつらをすぐに射殺するぞっ!」
ゴルネオはそう言うと、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ん? 誰だこいつら? ステファン知ってるか?」
「……さあ、私は存じ上げませんが」
しかし、ゴルネオの予想に反し、ウェイン達は人質に何の反応もしめさない。
「何をとぼけていやがるっ!? こいつらはヤメーメ族の女共だろうが! こいつらを助けに来たんだろうっ!?」
ゴルネオがウェイン達に問い詰めるが、彼らは不思議そうな表情を浮かべた。
「ヤメーメ族って何だ、ステファン?」
「ああ、ヤメーメ族は山岳地帯に住む人食い部族です、ウェイン様」
「人を食うのか? まさに蛮族だな。……で? そいつら税は払っているのか?」
「……いえ。もう100年以上も交流は無いと聞いておりますので」
「何だ、税を払っていないのか?」
「そういう事になりますな」
ゴルネオは2人のやり取りを聞いて、不安な気持ちになって来ていた。
「き、貴様ら、一体何を話しているのだ!?」
ゴルネオの問い掛けに、ステファンが返答する。
「ゴルネオ様、あなたも相当な悪徳領主でしたが、ウェイン様はその上を行くお人でございます」
「ぶはははっ! おいおい、お前もはっきり言うな、ステファンよ」
「何しろ、かつて75%の重税でヴラントの民達を苦しめたお人です」
「いや、俺は85%にしろと言ったんだ。でもギルトンが勝手に75%にしたんだよ。あいつも手緩い奴だったなぁ」
ゴルネオは全身を冷汗で濡らし、記憶を思い返していた。
た、確かに何度も聞いた事があるぞ。
ヴラントの前領主は相当な悪徳領主だったと!
重税と過度な徴兵制で領民の怒りは爆発し、帝国から左遷させられたとも聞いた!
「まあとにかく、税を払っていない蛮族など知った事か」
「ウェイン様、蛮族は見殺しでも構いませんが、領民の払う税はもっと考えてやっては頂けないでしょうか?」
「ステファン、お前もしつこい奴だな! 税は決めた通りだ!」
「し、しかし……」
「うるさいっ! 領民の事など知った事か! ステファン、あまりしつこいと首にするぞ!?」
「……も、申し訳ありません」
「ええいっ! もう面倒なやりとりは終りだ! 俺の領地に侵入したバカ共を殲滅しろ!」
ウェインの言葉で、配下の5人は再び戦闘体制に入る。
ゴルネオは自分の思惑が根底から覆され、強烈な焦りを感じていた。
「くそがっ! 人質は軍幕に戻せ! 銃撃隊はそのまま、こいつらに発砲しろっ!!」
「「はっ!!」」
ゴルネオの指示に従い、銃撃隊はその場に残り、数名の帝国兵士が人質を軍幕へと連行する。
そしてすぐに銃撃隊がウェイン達に発砲するが、咄嗟にベアデビルが前に出てウェイン達を守った。
「くそっ、何て魔物だ! 銃が全く効かないとはっ!!」
「ええい、側面に回りこめ! 急げっ!!」
銃撃隊がベアデビルの側面に回り込むように走る。
「させるかよ!」
が、ウェイン達も瞬時に飛び出し、一斉に銃撃隊に斬りかかった。
銃は何度も発砲されるが、接近戦では全く役に立っていない。
ウェイン、ステファン、そしてバルカスの剣が、銃撃兵を次々に薙ぎ倒す。
さらに、ベアデビルと3匹の熊も本能剥き出しに暴れ回ったので、残りの銃撃隊は散り散りになって逃げていったのであった。
「……たくっ、何が近代化だ。戦いの原点を忘れた奴が、俺達に勝てる訳ないだろが」
「ウェイン様のおっしゃる通りですな」
「ああ。まあこれも師匠の教えの賜物だがな。なあ、師匠?」
バルカスは蒼白い顔で、ウェインに返答する。
「ハア、ハア、ハア……。そ、そうですね。げ、原点回帰です」
バルカスは思った。
か、勝った! どうにか銃撃隊に勝った!
ほ、本当に今回ばかりは死ぬと思った。
こいつら強え。
あり得ないくらい強え。
ていうか、それよりも……
帝国兵を何人も斬ってしまった!
お、俺は帝国に雇われている傭兵なんだよ!
一体俺は何をしてるんだ!?
味方の兵士を斬ってどうすんだよっ!?
ま、まずいぞっ!
こんな事がバレたら、間違いなく拷問されて処刑だ!
……何とかせねば!
バルカスは考えを巡らせ、ウェインに提案した。
「し、しかしウェインさん、相手はまだ2000人以上いますよ! 一旦ここは退却した方が……」
「いや、退却なんてしないよ」
「で、でも、皆さんもかなり疲弊していますし……」
ウェインは回りの仲間を見渡す。
農家の2人は農作業を終えた様な仕草で、腰をポンポンと叩いているくらいの状態。
リアナに限っては、もっと戦いたい! とばかりに鼻息を荒くしてる。
「……あまり疲れている様には見えないけど?」
「いえいえ、疲労というのは後から来ますからっ!」
「うん、まあでも、流石に俺も3000人を6人で倒そうとは思わないよ」
「そうでしょ、そうでしょ!?」
「そうだな、師匠の言う事は間違いないし。じゃあ、ここいらで休憩しよう!」
「へ!? ……休憩って!?」
ウェイン達の前には、未だに騎馬隊と歩兵隊の軍勢が立ちはだかっている。
しかし……!
何とウェインは、大きなあくびをすると、大の字になって地面に寝そべってしまうのだった。
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