第15話 悪徳領主ゴルネオ
ウェインがドルヴァエゴの領主になる以前。
そこには「悪徳領主」という言葉がぴったりの男がいた。
ドルヴァエゴの前領主「ゴルネオ」は、極僅かしか無い領地の食糧をほぼ独り占めしていた。
どんなに領地が食糧難でも、自分が満腹になるだけの食糧は必ず確保し、さらに予備の為に領主邸には十分過ぎるほどの食糧を蓄えていたのだ。
もちろん、その蓄えた食糧を領民に分け与える事は、一度として無かった。
そのせいでドルヴァエゴの領民はやせ細り、栄養失調で寝たきりになる子供や大人、そして決して少なくない餓死者を作ってしまった。
帝国側もゴルネオの悪政には気が付いていたが、辺境の地という事もあり、皇帝の遠い親族に当たるゴルネオを罰する事はせずにいた。
その後、ヴラントの領主になる為に裏工作をしたギルトンは、そのゴルネオを自分の配下に置き、自分の主であるウェインをドルヴァエゴに追放したのだった。
そして今、再びそのゴルネオは動き出していた。
場所はドルヴァエゴ山脈、麓の平地。
ゴルネオはギルトンと共に、ヤメーメ族の女達を無理やり攫って来たのだった。
ギルトンは後の事をゴルネオに任せ、早々とヴラント領に引き返して行った。
そしてその場に残ったゴルネオは、兵士3000人と供に野営をして計画に備えている。
「ふはははっ、この人質があれば、あの凶暴な戦闘民族を連行して帝国軍の精鋭にする事が出来るぞ」
「ゴルネオ様のおっしゃる通りで。ヤメーメの戦士は狂戦士の様に戦いますから」
ヤメーメ族はこれまでにも徴兵されかけた事があるが、その度に帝国兵を返り討ちにして来た。
ヤメーメの戦士1人を倒すには、最低でも5名の兵士が必要とされていたのだ。
ゴルネオは側近の兵士との話を終えると、人質にされているヤメーメ族の女達を見て回った。
「ほう、山の野ザルにしては、いい女がいるのだな」
ゴルネオはドルヴァエゴの山岳地帯から攫って来た、ヤメーメ族の女達をまじまじと眺めていた。
「特にあの女は美しいではないか? 私が可愛がってやろうかの?」
「ゴルネオ様、あいつは族長の娘です。気性が荒く、手枷を付けたままでも近づくのは危険かと」
「なるほど。でも手を出さないのは、あまりに勿体無いではないか」
「し、しかし……!」
「ええい、うるさいっ! 貴様は私の行動を、黙って見ていれば良いのだ!」
肥満体のゴルネオは、その重い体を引きずるかのようにして、若い娘のいる鉄格子の中に入っていった。
ヤメーメ族、族長の娘「エルサ」は、手枷を嵌められ自由を奪われながらも、鉄格子の中に入って来た男を侮蔑し睨んだ。
「おお、怖い怖い、ずいぶんと鋭い目付きだな! しかし、その反抗的な女を痛め付けるのは、さぞかし快感であろうなぁ」
ゴルネオはエルサの顎を掴んで持ち上げると、これ以上ない歪んだ笑みを浮かべた。
エルサは鋭い目付きのまま、ゴルネオの顔に唾を吐きかけた。
「き、貴様~、野ザルのくせに、高貴なる私の顔にっ!!」
「……消えろブタ野郎!」
「わ、わ、私は皇帝陛下と同じ血筋を引く、選ばれた人間だぞ!!」
ゴルネオはすぐに、手に持っていた電流が流れる鉄棒をエルサに押し当てた。
「ぐあぁあぁああーっ!!」
エルサは電撃によって顔を歪める。
「エ、エルサ、エルサーっ!!」
そばにいたエルサの母親も絶叫する。
「ふふ、ふはははははーっ!! 野ザルの頭では、自分の身に何が起きたかも分かるまい!? さあ、苦痛に満ちたその顔をたっぷりと見せてくれよ!」
――――ゴルネオが再び鉄棒をエルサに押し当てようとした、その時だった。
「ゴルネオ様、敵襲ですっ!!」
敵襲を伝える兵士が血相を変えて、ゴルネオの元に走って来た。
「あん? まさかヤメーメ族か? こっちは人質がいるんだぞ」
「いえ、違います! ヤメーメ族ではありません!」
「だったら何者だ? どれくらいの数なんだ?」
「そ、そ、それが敵は6人と……」
「6人? 貴様ふざけてるのか!? ふざけてるのなら殺すぞっ!!」
ゴルネオは伝令の兵士に歩み寄り、首根っこを掴んでたぐり寄せた。
「ほ、本当です! 敵は6人と獣が4匹です!」
「獣だと!? 一体どういう事なんだっ!?」
ゴルネオが兵士に問い詰めると、さらに伝令の兵士が1人走って来た。
「ゴルネオ様! 1番隊が壊滅状態です! 2番隊、3番隊も今にも突破されそうです!!」
ゴルネオとそばにいた側近の兵士達は、未だにその伝令の内容が理解出来ない。
「ええいっ、どうなっておるのだっ!? 」
ゴルネオと側近の兵士達は軍幕から外に出て、双眼鏡をかけて戦況を見た。
「な、な、な、何だ、何なんだぁ!? あの魔物はああぁぁああーっ!?」
ゴルネオが双眼鏡で見た景色は壮絶だった。
全長7メートルはありそうな、熊の魔物が先頭に立って暴れまくっているのだ!
帝国兵士による剣や槍、弓などの攻撃は一切効かず、多くの兵士達がその魔物の爪や牙の餌食になり、辺りは流血に染まっている。
しかも、その熊の魔獣のすぐ隣で、同等に暴れまくっている1人の人間がいた。
その人間は「戦場の悪魔」という言葉がぴったりと当てはまる様な、凄まじい戦いっぷりだった。
複数の兵士が彼に同時に斬りかかっていくが、全員が瞬く間に跳ね返され地面に倒れていくのだった。
さらには、「魔獣」と「戦場の悪魔」の斜め後方には、巨大な熊3匹が同じくらいの勢いで暴れている為に、側面や背後に回り込む事も出来ずに大苦戦していた。
「うーん、まさか母親熊まで来てくれるとはな。しかも以前より身体が引き締まって、なかなな鋭い動きをするじゃないか」
斬りかかってくる帝国兵達を難なく切り伏せながら、ウェインはそう言った。
ウェインはあれから山を下山し、自分が愛用していた剣を取りに領主邸に帰った。
怒り心頭のウェインを見たステファンは、彼から全ての事情を聞いたのだ。
ウェインを裏切ったギルトンが、ゴルネオという配下を使ってヤメーメ族の女を攫った。
そして無理やりヤメーメ族を帝国の兵士にしようとしている。
ステファンはゴルネオという名前を聞いて、さらに大きな怒りが込み上げて来た。
「ギルトン」は、主ウェインを裏切った極悪人
そして「ゴルネオ」は、ドルヴァエゴを苦しめた悪徳領主。
ステファンは、今こそ決起すべき時だと決断した。
そしてウェインの様子を見ていたのは、ステファンだけではなかった。
たまたま領主邸に魚を持って来ていた熊達も、ウェインの異変に気が付いた。
熊とステファンは、お互いにアイコンタクトを取り、両者共に頷いた。
そして、それぞれが走り出したのだ。
ステファンは、領民達に全てを伝える為に!
熊達は、森に帰って「ベアデビル」に救援を求める為に!
そして、前領主のゴルネオに深い恨みを持つ領民は立ち上がった。
当初、領民の全員が帝国兵と戦うと言い出して聞かなかったが、そこはリアナがどうにか説得して、ウェインの厳しい指導に耐え抜いた精鋭が出撃する事となった。
ウェインの弟子の中からは次の3人が選ばれた。
長老の孫、リアナ。
野菜農家、ゴードン。
小麦農家、トーマス。
そして、ゴルネオと因縁のあるステファンが付いて行く事になった。
ウェインの身が心配だったリアナは、嫌がるバルカスも説得して、半ば強引に彼も連れて来ていた。
「待ってろよヤメーメの女達! すぐに旦那とイチャイチャさせてやるからな!」
ウェインはかつてない程の闘志を漲らせていたのだった。
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