第14話 ヤメーメ族の悲劇


 ウェインの予期せぬ行動に、ヤメーメ族の歓迎ムードは一転して、不穏な空気が漂い始めた。


「お、お、落ち着いて下さい、族長殿!! 彼に悪気は無かったのです!!」


 バルカスは必死に、族長のトシミテを宥めようとする。



「我がヤメーメ族の最高のもてなしを返すとは……!!」


 族長を初め、ヤメーメ族の全員がその場に立ち上がった。


「……あわわわわっ!!」


 バルカスは死を覚悟した。

 しかし、ウェインはオオトカゲの丸焼きを夢中で食べている。


 それを見た族長が再び口を開く。


「ヤメーメ族の最高のもてなしを分け与える、それすなわち究極の友情の証っ!! この者は我の最高の友だっ!!」

「ウンポコ・ダチンコ!!」

「チンカ・スーダラ・ウンポーコ!!」



なぜかウェインはヤメーメ族達に囲まれて、やがて胴上げされてしまった。


「なんだっ? なんかいい事でもあったのか?」


 訳の分からないウェインだったが、胴上げされた気分は悪くなかった。



「お、驚かせやがって~! カブトムシ食わなくていいなら、早く言えよ、くそっ!」


 バルカスは死の恐怖からは解放されたが、カブトムシを食わされた事に腹を立てるのだった。




 そして長く続いた宴も終盤に入り、皆で焚き火を囲って酒をしんみりと飲み出した。


「いや~、山の大自然も堪能して、酒をのんで山の幸も食べて、最高のキャンプだなぁ。……んん?」


 ウェインは何だか元気の無い族長に気が付いた。


「どうした族長? もしかしてイボ痔か?」

「いや、友よ、そうではないのだ」

「何だ? 何でも相談に乗るぞ? 友達だろ?」

「ふっ、ありがとよ。……実はな、5日前にこのヤメーメ族に事件が起こったんだ」

「事件?」

「ああ、ヤメーメ族の多くの女達が、帝国に拐われてしまったのだよ」

「な、なんだと……!?」


 言われてみれば、この集落には女の姿が少数しかいない。


「男達が帝国兵士におびき出され、その留守中にまんまと女達を攫われたのだ」

「……な!? それは本当かっ!?」

「ああ、本当だとも。我らは明日の昼までに、奴らに投降せねばならないのだ」

「一体どういう事なんだ!? 帝国の狙いはなんだ!?」

「おそらく徴兵だろう。少し前に隣国と戦争があったという話だからな。我らを帝国の兵士にしたいのだよ。それとこの山にはオリハルコンという希少価値の高い鉱石がある。それも奪いたいのだろうな」

「くそ~っ! 帝国の奴ら! どこまで汚いんだ!」

「我らも女を人質に取られていなければ、帝国と戦いたい!」


 立ち上がった族長は、近くの大木の方まで歩いて行くと、それを思い切り殴り付けた。


「くそっ! くそおぉぉおーっ! あのギルトンとかいう領主めっ!」

「……ギ、ギルトンだと!?」

「ん? なんだ友も知っているのか!?」

「知ってるも何も、俺から全てを奪ったのがギルトンだ! 奴は俺の敵だっ!」

「な、何と……!!」



 それからウェインは、族長にこれまでのいきさつを全て話した。


「ギルトン、我が友ウェインを裏切り、その妻までも我が物にするとはっ! 許せん、許せんぞーっ!!」


 族長トシミテは、再び大木を殴り付けた。

 すると大木はミシミシと音を立て始めた。


 それを見たバルカスは震え上がる。(こ、ここにも化物がいやがった!)



「ギルトン、俺までもかヤメーメ達の妻を奪うとは!! ヤメーメ達が妻とイチャイチャ出来ねえじゃねえかっ!! お前ばかりイチャイチャしやがって! イチャイチャ出来ねえのがどれだけ辛いかっ!!」


 そう、ウェインの欲求不満は今でも続いていたのだ!


 ウェインも大木まで走って行き、強烈な回し蹴りを大木に炸裂させた。

 するとその大木は、木端微塵になって大破したのだった。


 それを見ていた族長もヤメーメも驚愕する。


「ヤメーメ達よ! お前らのイチャイチャ出来ない怒りと悲しみは俺が一番良く分かる! ギルトンがお前らにした仕打ちを俺はどうしても許せない! 許せないんだああぁぁああーっ!!」



 ウェインの叫びを聞いたヤメーメ族達は、全員涙した。


 友の悲しみを我が事のように悲しむ。

 友の怒りを我が事のように怒る。


 それすなわち、至高の友情の証。


 ヤメーメ族の男達は、ウェインを至高の友と認めたのだった。




 ……でも、「イチャイチャ」って何だ?

 と疑問に思うヤメーメ族達であった。


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