第16話 突撃!農家のおじさん!


 ギルトンに雇われた中年の傭兵、バルカス。


 彼はギルトンから、こう命令された。

「ドルヴァエゴの領主となったウェインが、落ちぶれていく様子を報告せよ!」と。


 がしかし!

 どういう訳か、彼はウェインから「キャンプの師匠」としてリスペクトされるようになってしまった。


 さらには、共にキャンプをする間柄になったばかりか、人食い部族と呼ばれる「ヤメーメ族」の集落まで、3時間超えの超ハードな登山を一緒に成し遂げてしまったりしていた。


 そして今。

 バルカスは、帝国兵3000人に対し、たった6人で戦争をしかける立場になっていた。



 バルカスは思った。


 ……おいおいおいっ

 何で俺の雇われ主である帝国と戦う事になったんだ?


 しかも帝国兵士3000人。

 もうそりゃ、かなりの人数だよ。


 場合によっては、100人だって「うわ~凄い人数だなっ」て思うわけだよ。実際ね。それの30倍も人がいるんだよ!


 で、その3000人の兵士が駐屯している所に、俺達は戦争をしかけたわけだ。


 そう、6人でね!



 ……バカなの?

 ねえ、ねえ、バカなの!?


 どういう育ち方したら、6人で3000人に戦争しかけようと思うの!?

 どういう理論で、それを実行しようと思ったの?


 で、その6人なんだけど、

 実戦の経験あるのは、何とウェインと俺の2人のみ!


 で、その残りの4人ていうのが……

 

 まず、執事をやっている爺さん1人。

 農家の娘1人。

 農家のおじさんが2人。


 ……な訳よ。


 農家の娘とかって何!?

 収穫のお手伝いすんの!?


 て感じだよ。何なんだよこれっ!?

 



 傭兵バルカスは、ウェイン達と共に3000人の帝国兵に戦争をしかけた。

 そして彼はウェインの師匠という事から、リアナから総司令官になって欲しいと懇願されたのだった。



 バルカスは思った。

 


 あの娘……


「バルカスさんはウェイン様の師匠でしょ!? だから総司令官なんていいんじゃない!?」


 なんて言ってたけど、そもそもたった6人で「総司令官」とか言ってんじゃねーよ!

 せいぜい「小隊長」だろが! かぶれてんじゃねぇよ!


 いや、論点はそこじゃない。

 とにかく俺を巻き込むなっていう話なんだ!

 俺はギルトン様に報告活動だけして、平和に暮らしたいんだよっ!


 


 バルカスはそんな愚痴を頭の中で繰り返していたが、ついに目の前には3000人の帝国兵士が現れ、背筋が凍って震えが止まらなくなって来ていた。


 しかし、そんなバルカスなどまったく気に留めず、ウェインは何の躊躇もなく3000人の兵士に真正面から突っ込んで行くのだった。


「うおらああぁぁああーっ! 帝国はぶっ潰す!!」


 そしてウェインに続いて、ゴードンとトーマスも叫んだ。


「うおおぉぉおおーっ! ウェイン様に続けええーっ!!」

「今こそ、ウェイン様の恩に報いるんだっ!!」


 

 バルカスは思った。


 うわ、この2人、凄い気合入っているな!

 でもこの人達、兵士じゃなくて……


 農家のおじさんだからね!


 しかも剣も槍も持ってないし。

 

 そうこいつら『素手』。

 凄いよね。


 相手は軍事訓練や実戦をくぐり抜けてきた兵士だよ。

 そいつらが3000人いて、剣やら槍やら銃を持っている奴もいるわけだよ。


 なのに『素手』。

 別の言い方をすれば『丸腰』。

 

 もう死んだよ。

 俺ははもう死んだ。


 はあ、冴えない人生だったなぁ。

 嫁さん、欲しかったなぁ……。




 しかし!

 バルカスの思いとは裏腹に、この農家のおじさん2人は戦場で大活躍する!


 2人は、迫り来る帝国騎馬兵の剣や槍を素手で掴んでは、それを強引に引っ張って騎馬兵を落馬させると、すぐさま急所に正拳突きを叩き込むのだ。


 ウェインやベアデビル達のような派手さは無いが、無駄の無い動きで確実に帝国兵を仕留めている。


 例えるなら、それはまさに農作業だった!


 豊かに実った麦や野菜を、無駄の無い動きで確実に1つ1つ収穫する、あの動きだ。


 長年培ってきた農業のスキルがここに来て最大限に発揮されていたのである。


 まさに、帝国兵達は彼ら2人に『流れ作業』のように淡々と片付けられてしまっているのだ。


 その動きは、あまりに淡々としている為、

「さぁて、ここいらで休憩いれるっぺかぁ?」と言わんばりの雰囲気があった。



「おのれ~! 後列の男2人も只者ではないぞっ!」

「奴等は、きっと名の通った戦士に違いあるまい! 気を付けろ!!」


 帝国軍の兵士達は、その2人を警戒するのだか……


「いや、農家のおじさんだから!」


 とバルカスは思うのだった。


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