第10話 気合があれば、熊すら倒せる!


 ウェインが辺境の地ドルヴァエゴに追放されてから、2ヶ月が過ぎた。


 ウェインはこの地にやって来て「キャンプ」にすっかり魅了され、なんと最近では森の中でキャンプ場を作っていた。


「師匠、俺はキャンプ場作れば絶対流行って、観光地になるかと思ったんだが」

「キャンプ場と言っても、ネームプレートを作って木にぶら下げただけですからね……」



 ウェインはキャンプの師匠であるバルカスと森の中でキャンプ場を作り、そこでキャンプをしていた。

 しかし、そこには2人だけでなく、ウェインを慕ってくる領民達が沢山集まってみんなでキャンプをしていたのだ。


 ウェインは領地の税金を当分の間無しにしたり、畑を荒らしていた熊を懲らしめたり、さらには躾けた熊にもらう魚を領民に配ったりして、あっという間に領民の心を掴んでしまったのだった。

 

 さらにウェインは、貴族の高価な衣服と結婚指輪を売却したところ、結婚指輪が希少価値の高い鉱石で作られていた為、かなりの高額で売却する事が出来た。

 そこでウェインは、農家の為に新しい農耕具や設備を作った為に、農家の人間達から熱狂的に支持されるようになっていた。



「ウェイン様! ぜひうちの畑で採れた野菜を食べて下さいっ!」

「いや、うちの小麦で作ったパンをウェイン様は好まれるはずですよ!」


 農家達は競うようにウェインに収穫物を献上してきた。

 熊が畑を荒らさなくなって、収穫量が増えたおかげだ。



「おう、悪いな。ありがたく頂くよ。でもまだまだ食糧は不足しているからな。食糧は大事に確保しておいてくれよ?」

「もちろんです!これからも領主様の為に一生懸命働きます!」

「いや別に、自分らの為に働けばいいんだよ。……よし、じゃあそろそろトレーニングに入るか!」


 

 ウェインは領民達にせがまれ、「キャンプ道」を教えていた。


「いいかお前ら、本当のキャンプは素手で熊と戦えなくてはならないのだ!」

「「はいっ!!」」

「よし! 気合いを入れろ! 気合いがあれば熊すら倒せる!!」

「「気合いがあれば熊すら倒せる!!」」


 領民の男達はウェインに陶酔して、ウェインの言葉を復唱するのだった。


「よしっ! 今日はいよいよ実戦に入る! 俺の友である熊達が相手だ!」


 何とそこにはウェインを主と認めた、3匹の熊達の姿があった。


 熊達は低い唸り声を上げ、すでに戦闘態勢になっている。


「熊達には手加減するなと伝えてある。どうだ? 戦ってみたいか?」

「「はいっ!!」」



 その一部始終を見ていたバルカスは思った。


 こ、こいつら全員イカれてやがるっ!!

 人間が熊に勝てるわけねえだろが!!


 一体どういう考えで素手で熊と戦おうとするんだよ!?



 そんなバルカスの前に、1人の少女が声を張り上げた。


「まずは私から行かせてもらうわっ! 強くなって帝国に復讐してやるんだから!」

「いいぞリアナっ! 俺達も同じ気持ちだぞっ!!」


 リアナは熊めがけて突進すると、熊の鋭い爪をかわしてその懐に潜り込んだ。


「よし、行けリアナ!」

「はい、ウェイン様!」


 リアナはウェインの声に従い、熊のみぞおちに強烈なアッパーカットを叩き込む。


 熊は何とか痛みに耐えて、リアナの体を掴みにいった。

 しかしリアナも負けてはいない。


「うおおぉぉおおーっ!!」


 何とリアナは、自分の身長の2倍以上ある熊を投げ飛ばしてしまったのだった。


「よし、いいぞリアナ! ……次っ!!」


 他の男達もリアナ程ではないが、誰もが熊と互角に戦っている。




――――バルカスは目を見開いて驚愕した。



 い、一体、何がどうなっていやがる!?

 しょ、少女が熊を投げ飛ばすだと!?

 

 何を教えれば、何を練習すればそうなるんだよ!?

 有り得ないだろ、こんな事!?




「よし、みんな大分力が付いて来たな。あとは各自トレーニングを続けてくれ!」

「「オスっ!! ありがとうございました!!」」


 

 熊とのトレーニングを終え、ウェインはバルカスの元に戻って来た。


「あ、師匠、遠慮なく色々食べてくれよ!」

「あ、ああ、ありがとうございます。それにしてもウェインさん、皆さん強くなりましたね」

「まあな。でもまだまだ師匠の足元にも及ばないだろ?」

「いえいえ、決してそんな事は……」

「ははっ、師匠は謙虚だな。俺も見習わないと。……俺はずっと師匠に付いていくぞ!」


 

 バルカスは思った。


 まったく何なんだよ! どうしてこの男は俺にまとわり付くんだよ!

 洞窟や木の上に身を隠しても、執念で俺を見つけて来るし!

 ギルトン様への報告もままならないではないかっ!


 つーか、ギルトン様はこの男が落ちぶれていく状況を知りたいのだ。

 それなのに、この男はこの地の食糧難を改善しつつあるじゃねえかっ!


 ギルトン様の機嫌を損ねてしまったら、報酬額は下がるに決まってる!

 それに、下手したら俺の命だって危ねんだ!



 バルカスはどうにかウェインを落ちぶれさせようと、考えを巡らせていた。



「ああ、そうだウェインさん、上級のキャンプについてお教えしましょうか?」

「え? まだ上があったのか……!?」

「もちろんですよ」

「し、知らなかった。俺は何てバカなんだっ! 熊と友達になって有頂天になっていた!」

「ま、まあウェインさんはかなりハイレベルですから、そんなに落ち込まないで下さい」

「し、師匠、ぜひその上級のキャンプについて教えてくれ!」

「もちろん、お教えしますよ」

「頼む!」


 ウェインはまるで求道者のような眼差しで、バルカスを見つめている。

 バルカスは彼から凄まじいまでの圧を感じ、背筋が凍るようだった。


「そ、それはですね、ズバリ『山』ですよ」

「山!?」

「そうです。山なんです。山には断崖絶壁もあり、土砂崩れもあり、未知の魔物もいます。さらには人を喰うと言われている部族もいるのです。そこを制してこそ真のキャンパーになれると言えるでしょう」

「そ、そうだったのか……!!」



 バルカスはある計画が思い浮かんだ。


 ドルヴァエゴの地は、その大部分が山岳地帯となっている。

 山には凶暴な魔物も多く生息すると聞いている。


 さらには、好戦的な山の部族『ヤメーメ』も太古から生活しているらしい。

 彼らは昆虫や爬虫類までも食し、時には人間の肉すら食らうと言われている。


 1000人を超える山の部族『ヤメーメ』をウェインにぶつける!

 あの人外的な強さを誇るウェインでも、ヤメーメ族相手では必ず命を落とすはず。


 バルカスは今度こそ上手くいくと確信していた。


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