第186話 最後はカーシャさん

 新種の魔物は6日後に目覚める。けれど、完全な状態で現れる前に、新種の魔物を引きずり出す予定だ。しかしその前に、ハルカができる事、そしてみんなもやっておくべき事を試す為、偵察へ行く事になった。


 そして新種の魔物の詳細を話した翌日、宿でサンとアルーシャさんを含め、改めて今後の事を話し合った。この時にマキアスからのある忠告を伝え、ハルカは仲間達と揉める。しかしそれによって、今後のみんなの動きが決まった。


 話がまとまり、ハルカ達は外へ通じる門へと向かう。

 そこでハルカは、昨日会えなかった自分の真実を伝えたい人を見つける。


「あらぁ? 駆け出しの冒険者様はあちらに近付かないで下さいますか〜?」

「カーシャさん、相変わらずですね。お元気そうで何よりです」


 カイルを見つけたカーシャさんは、顎下までの長さの、黒っぽい桃色の髪をふわふわと揺らしながらこちらに走り寄ってきた。しかし、ハルカを見つけると鼻で笑い、前と変わらない態度を取ってくる。

 すると、ミアが半目になって呟いた。


「この、見た目だけしか取り柄のない門番はなんなの?」

「……こわぁい! ひ・が・み、ですかぁ? あなた、初対面の人に対して失礼すぎますよ〜? カイルさん、こんな人とは行動を共にしない方がいいと思うけどぉ」


 カイルに体を密着させるように近付きながら、カーシャさんは上目遣いで目をうるうるとさせている。

 そんなカーシャさんにカイルは距離を取り、冷めた顔で対応していた。


「俺の仲間に口出しするな」

「えぇ〜。でもぉ、こんなきっつい顔した子、性格もきつくて疲れないのぉ? 私みたいに愛らしい子の方が癒されるでしょっ?」


 この言葉に、ハルカはカチンときた。


「見た目なんて関係なく、ミアは癒し手です。だから、本当の意味で癒されます。それにミアは美人なんです。カーシャさんとはまっっったくの正反対なので、逆に疲れません」

「ハルカ、もっと言ってやって下さい!!」


 ハルカの言葉に、呆れ顔のミアに行手を阻まれていたリアンが激しく反応していた。


「さぁ、おふざけはここまでにして、カーシャさんが同行されるのですか?」

「そうですよぉ。私が同行者でよかったですねぇ。昨日、あの大群に近付かないようにギルドを通じて知らせを入れたので、無謀な人は減ったかなぁ? って感じです〜。だから今日は、アルーシャさん達が初めてあの場所へ向かう冒険者になりますよぉ」


 苦笑混じりにアルーシャさんが話を終わらせ、カーシャさんもけろっとした顔で返事をしていた。


「衛兵が同行しないといけなくなったのか?」

「そうですよぉ。ですからぁ、B級以下の方はここに置いていって下さいね?」


 カイルの質問に答えつつ、カーシャさんは小馬鹿にしたような顔をこちらに向けてくる。

 だからハルカは、カーシャさんの目の前まで近付き、冒険者の証を取り出した。


「なんで冒険者の証……って、昇級してるの!?」

「そうなんです。駆け出しは合ってますが、B級なんです。ですから私も一緒に行きます。というか、私が倒し方を知ってます」


 ハルカは冒険者の証をしまいながら、言い切った。すると、みんなの息を飲む音が聞こえたが、ハルカは構わずカーシャさんを見つめ直し、囁く。


「私、本当はカイルの親戚じゃないんです。異世界からの転生者で、新種の魔物の目覚めを早める要因になってしまったんです。だから何がなんでも、私にはやらなくちゃいけない事があるんです。ですからカーシャさんも、私に協力して下さい」

「………………は、はぁ!? ハルカちゃん、どこかに頭でもぶつけたの!?」


 いきなり真実を告げた事により、カイルが急いで防音の魔法を掛けているのが聞こえる。

 けれど、他の門番の人と距離があったので、ハルカはあえて伝えていた。


「どう思ってくれても構いません。でも、カーシャさんは私にとって恩人でもあります。あなたがいなければ、私はもっと色々な人に甘えたままでした」


 ハルカはカーシャさんに頬を叩かれた時を思い出しながら、その時に意識が切り替わった事に対しての感謝を込めて、言葉を紡ぐ。


「ちょっと! 何言ってるのかわかんないわよ!!」

「わからなくていいです。私が異世界からの転生者で、新種の魔物の倒し方を知っている。これだけ覚えていて下さい」


 カーシャさんはぶりっ子口調をやめ、本気で動揺しているようだった。だからハルカは、簡潔に伝えたい事だけを繰り返す。

 すると、カーシャさんは一瞬、怒りが滲むような顔つきになった。


「こんな馬鹿げた話を誰が…………って、ここにいる皆さんは、知ってる事……なの?」


 話しはじめてふと、その馬鹿げた話に誰も驚いていない事に気づいたようなカーシャさんの声が、小さくなっていった。


「全員、知っている。それに異世界から転生してきたハルカを最初に見つけたのは、俺だ」

「…………うそ」

 

 カイルの言葉に、カーシャさんの目は大きく見開かれた。


「詳しい話は、サブスホーネットの大群に向かいながら話します。あ、コルトのお土産があるんです。受け取って下さい」

「……何が何だか、わかんないんだけど」


 カーシャさんは反射的にキルシュミーレを受け取りながら、ぽつりと呟いていた。


 ***


 それぞれの精霊獣の背に乗り、ハルカは空を飛びながら説明をした。

 そして黒い柱の近くに降り立ったあと、近付いて呪いをかけられるのを防ぐため、リアンが全員を守れる大きさの守護壁を展開した。念の為、ミアも毒耐性の魔法を掛けてくれる。


「さっきの説明通りなら、サブスホーネットが隠れ蓑になっている、のよね?」

「そうです。同種は操れるようで、サブスホーネットを呼び寄せているんだそうです」


 普通の話し方のカーシャさんに違和感を覚えながらも、ハルカは説明を続けていた。


「でもその大半は、幻術で作られている、のね?」

「目覚めの時までに分身の姿を隠す為だそうです。でも、早く目覚めるには魔力が欲しい。だから人を引きよせる方法を学んで、この黒い柱に見えるほどの大群に見せかけているそうなんです」


 カーシャさんに説明をしつつ、ハルカはそこまで詳しく話していなかったアルーシャさんにも視線を送る。


「幻術でこれを作り出すのなら……、紛れている新種の分身も結構な数がいそうですね」

「それでも倒しきらないように注意が必要なんです。全て倒してしまうと、『激怒した新種の魔物が現れ、悪夢に連れ込む幻術を掛けてくる』そうなんです。それに囚われたら最後、そのまま悪夢の中で息絶える事もあるんです」


 ハルカと目を合わせたアルーシャさんに、さらに詳しい説明を告げる。

 そしてハルカは、黒い柱へ視線をずらし、意識を集中した。


「なので、幻術で自身の姿も隠している分身の発見は、私に任せて下さい」


 意識して見てみれば、姿が透けて見えるサブスホーネットがいる。

 マキアスが言っていたように、私が全てを正しく知りたいと思う気持ちが、『嘘を見抜く力』に繋がってるんだ。

 今までよくわかっていなかったけど、カイルが何かを隠しているって言葉が浮かんだのも、クロムが姿を消していたはずなのに見えたのも、全部それのおかげだったんだ。


 そしてこの力は、私だけの魔法に繋がる力だから無意識に使えていた事も教えてもらえた。


 マキアスの言葉を思い出しなが、ハルカは自分ができる事への自信を持つ。

 そして腰元のチェーンを引きちぎり、武器を手にする。そのままゆっくりと、新たに考えていた魔法の言葉を口にした。


真実しんじつを」


 自分の力を信じ、杖を突き立て、握る。

 すると、目の前の黒い柱がまだらになり、その奥に輝く白が見えた。


 いた! 動きを止めて、音も止める!

 みんなにも見えるように、その姿を現せ!


影縛かげしばり!」


 今までは影縫いで動きだけを止めていたが、ハルカはクロムから教えてもらった事を思い出しながら、更に新しい魔法を掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る