第185話 信じてもらう為に告げる想いとクロムの思惑
ハルカが話しを終え、みんなで役割分担を手短にまとめる。そしてカイルがクロムに簡単な説明と、至急、宿に戻ってほしいと通信を残し、みんなでサンの自宅を後にした。
そしてハルカ達は、クロムが戻るのを男性陣の部屋で待ちながら、今後の話を煮つめる。そこへ急いで戻ってきたクロムに、ハルカが早々に説明を始めた。
「今朝、ルチルさんからも新たに体調がおかしくなった人の話を聞いた。けどさ、新種の魔物の情報なんて、カイル達はどうやって掴んだの?」
「私がいた前の世界で、今回の特徴が一致する魔物が出てくるゲームがあったのを思い出したの。今回体調を崩した人は、その魔物の呪いが掛かってる。その人達を助ける為には、倒し方も少しだけ工夫しないといけないんだ」
ハルカの説明を聞き、クロムが険しい表情になる。
「へぇ、そうなんだ。でも、それだけじゃないよね?」
「うん。それだけじゃない。私が、この姿のままこの世界に転生してきた結果、新種の魔物の目覚めが早まってしまった。だから私は、私にできる事をして呪いを掛けられた人を助けたい!」
ハルカが言い終わった瞬間、クロムの眼光が鋭くなる。
「君の尻拭いを、ぼくらがやるの?」
「クロ——」
「黙ってくれる? ぼくは今、ハルカちゃんと話してる」
カイルが口を挟もうとしたが、クロムがすぐに言葉を遮り、強い圧を感じる眼差しをこちらへ向ける。
だからハルカは、身構えた。
「君の説明は何かがおかしい。全てを話せないような相手に、命を預ける事はできない。ぼくは他のみんなみたく、甘くはないよ?」
さっきみんなに話した時、そう言われると思ってた。
だからクロムが言う事は、もっともだ。
クロムの言葉を、ハルカは辛くも受け入れた。
「クロムの言う通りだよ。それでも話せない約束が私にはある。みんなを信じていないわけじゃない。でも、話せないの。ごめんなさい」
ハルカの言葉に、クロム以外のみんなの顔が曇る。
クロムだけは射るような視線を、ハルカに向け続けていた。
「約束、ね。それならぼくらはいったい、君の何を信じたらいい?」
何を、信じたら……。
ハルカはしばし沈黙した。
そして出た答えを口にする。
「私の事は信じなくてもいい。でも、新種の魔物の倒し方や呪いの解き方だけは信じて。これに間違いがあれば、私を切り捨てていい」
言っている事はめちゃくちゃだったが、ハルカはとにかく魔物の話を信じてほしくて、思ったままを口にした。
「必死なのはわかったよ。それなら、この質問だけは答えてくれる? どうしてまだ姿を現してもいない新種の魔物に対して、急にそこまでの詳細を思い出したの?」
確かに予測だけなら言い切るのは変だ。
でも私は知ってるから、言い切るしかない。私には違う言い回しができないから……。
それなら、少しでも真実を伝えるべきだ。
本当なら、言うべじゃないのかもしれないけど……、私の事として伝えれば……、みんなになら、大丈夫。
マキアスの事ではなく、事実だけを伝える為に、ハルカは口を開いた。
「私の身体は、神様がこの世界に対応するように創ってくれた。そして私は私の、全ての疑問の答えが浮かぶようにもなっているんだ」
マキアスの存在を隠しながら説明するのにはこれが精一杯だったが、嘘は言っていない。だからハルカは、真っ直ぐクロムを見つめる。
そして視線を受けたクロムは、暗緑色の左目を見開いた。
「やっぱり、異世界の力は想像もつかないようなものだったね」
「今回初めて教えてもらった事ばかりだから、その力についてはあんまり詳しく話せないけど……」
「そっか。それならさ、よく考えてごらんよ。全ての疑問の答えが浮かぶなら、『この世界の壊し方』だってわかるんだよ?」
「え……。そっ、そんな事、考えるわけないよ!!」
クロムから告げられた言葉に、ハルカは愕然とする。
しかしクロムは、冷たい笑みを浮かべていた。
「だろうね。ハルカちゃんはそういう事、考えないだろうし。でもさ、その事は仲間以外に言わない方がいいよ? 君みたいな女の子は、騙されて消費されるだろうから」
そう言い切ったクロムは、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「さて、いじめすぎちゃったね。けれど、新種の魔物を倒すならぼくらも無事じゃ済まない。だからね、ハルカちゃんの覚悟を知りたかった。それとさ、疑問の答えが浮かぶなら、ハルカちゃんだけの魔法、今すぐわかるんじゃない?」
この言葉に、みんなの視線がハルカに集まる。
「それは聞かない。自分でどうにかできる事は聞きたくない。それに、本当に必要な時しか質問はしないって、約束してる」
「……そうなんだ。ハルカちゃん、嘘をつけないのも大変だね」
「えっ?」
「聞くって、誰にさ?」
クロムに問われ、ハルカは反射的に口を押さえた。
「もしかしてだけどさ、神様と話してるの?」
「そういうわけじゃない、けど……」
戸惑いつつも口元を覆っていた手をどけて話すハルカに、クロムは軽く笑うと話を切り替えた。
「そこはさ、神様って言っておけばいいのに。それじゃ、有り難いお告げを聞かせてくれるかな?」
冗談まじりに話すクロムは、いつもよりも優しい笑みを浮かべていた。
「なるほどね。倒すだけならそこまで面倒じゃない相手だけど、弱点がサブスホーネットとは真逆の『水属性』か。それに『幻術』を使う、か。どうりで数が減らないわけだ」
ハルカの話を聞き終え、クロムは壁にもたれ、腕を組んだ。
「水ならアルーシャがいる。新種の魔物はアルーシャに任せるしかない」
「あとレジーナ・サブスホーネットの方はサンが対応すると言っていました。そして本来なら、黄の魔法使いの方にお任せするのが1番なのですが、おりません。なので僭越ながら私が、同時に現れるはずのレジーナと新種の魔物を分断します」
「幻術は私に任せて。やり遂げてみせるから!」
カイルとリアンが必要な情報を口にし、そしてハルカも自分ができる事を伝える。それを聞いていたクロムは顎に手を当てた。
「あとは、新種の魔物を引っ張り出す為の条件だね。サブスホーネットと新種の魔物の分身を一掃できないのが面倒だね……」
「大変なのはわかってる。でも、一掃するのは本当に最後の手段にしてほしいんだ。みんなをさらに危険な状況にしたくないから……」
本当に無茶な要望だとは、ハルカも感じている。
けれど、少しでも恐ろしい状況を作り出すのを避ける為、頼み込むしかなかった。
「それは俺に任せろ。あの大群の半数が幻術で作られたサブスホーネットなら問題ない。警告音が聞こえたらいったん距離を取る。それにキルシュミーレもあるしな。紛れ込んでいる新種の分身の発見は、ハルカに任せる」
「あとは私が、みんなに毒耐性の魔法を掛ける。新種の魔物に対して意味はないかもしれないけど、やらないよりはマシなはず。それとね、誰の怪我も私が治す。無茶はさせない」
クロムは難しい顔をしていたが、カイルは迷いなく言葉を口にしていた。そしてミアも、自分にできる事を掲示し、真っ直ぐクロムを見つめていた。
だからハルカも、真剣に言葉を紡いだ。
「本番で私の力を試すのは危険だと思う。だからサンの自宅でも話したように、明日、それを証明してみせる」
みんなの命を守り切る為には、絶対に失敗できない!
心の中で強く想いながら、ハルカは決意を新たに刻んだ。
***
異世界の少女の話を聞き終え、クロムは至急、王に報告をする為と称して席を外した。
宿のテラスに防音の魔法を掛け、聖王様への報告を終える。
そして、本来の仲間達への通信も開始した。
「エミリア、リクトへ。やはり異世界の人間の力は危険なものだった。でもこれで、異世界の少女だけの魔法が目覚めるのを待たずとも、消す正当な理由ができた。カイルの記憶が解放される直前までキニオスで新種の魔物の調査をする予定だったが、変更だ。新種の魔物の目覚めはもうすぐ訪れる。処理が終わり次第、そちらに帰還する。受け入れる準備をしてくれ。詳しい話は追って通信を入れる。クロムより」
簡単な説明だけを残し、窓の中を眺める。
そこには、この世界の闇を全く知らない異世界の少女が、仲間と共に談笑していた。
あの少女の全てを飲み込んでしまうような黒を見ていると、無いはずの右目が疼く。
ぼくの黒はそんな事では消えないのだと、主張してくるようだ。
過去を振り返り、クロムは右手で眼帯に触れる。
「ハルカちゃん。君がこの世界に来てくれた本当の意味を、ぼくらと一緒に創り上げよう」
自分達と同じような苦しみを味わう、特別な色を持つ人々を救いたいと願う彼女の想いを叶える為に、クロムは呟く。
それに異世界の少女が気付いたかのように、仲間へと向ける笑みをそのまま向けてきた。
「もうしばらくは、お仲間ごっこを楽しもうか」
クロムはいつものように笑みを浮かべると、通信石をしまう。
そして、仲間のクロムとしてみんなの輪へ加わる為に、部屋へと戻った。
「クロム、私と目が合った時、何か言った?」
「ん? この世界の救いになるような子を見つけましたって、聖王様に伝えただけだよ?」
「えっ!? そんな変な事、聖王様に伝えちゃったの!? 私はそんなに凄い人じゃないのに!!」
どうにも自分の事になると自信がなくなるのか、異世界の少女は可愛らしい顔を青ざめさせていた。
「もう少しちゃんと自覚を持った方がいいよ? 君はね、特別な存在なんだから」
ぼくらが待ち望んでいた君は、これからこの世界の伝説として、カイルの名と共に語り継がれていくのだから。
その想いを込めて、クロムは心からの笑みを異世界の少女へ向けた。
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