第165話 仲間達の魔法

 ミアは恋に対する考えが世間の考えと違うと知り、恥ずかしさで混乱していた。そんな彼女が落ち着きを取り戻すまで、ハルカはそばについていた。

 そしてようやく普段の様子に戻ったミアに、マキアスもエーリシュも嬉しそうに顔をすり寄せていた。

 お互いに自分の精霊獣に触れながら、改めてどんな恋をしてみたいかを話し続け、もしかしたらミアも身近なところに素敵な恋が眠っているかもしれないとハルカが言うと、ミアはとても驚いた顔をしていた。

 しばらくして、マキアスもエーリシュもまどろみ、静かな寝息を立て始めた。

 そして、ハルカもミアもお互いのベッドに横になりながら話し続けていたら、いつの間にか眠っていた。


 ***


 マキアスに顔を舐められ、ハルカは目を覚ました。

 マキアスと一緒に眠っていた事を嬉しく思い、それを言葉で伝えると、マキアスからも嬉しそうな温かい感情が伝わってきた。

 そしてハルカとミアは、自身の精霊獣がいつも通りゆっくりと過ごせる精霊界へと帰した。


 しかしミアが昨日の事を思い出し、みんなと顔を合わせたくないと、涙目になっていた。

 けれど、ミアのお腹が鳴り、ハルカは励ましつつ、なんとかリビングへ連れて行った。

 そして予想を裏切り、昨日の事には触れずに出迎えてくれた男性陣の配慮に、ハルカは心の中で拍手を送っていた。それがミアにも感じられたようで、普段らしさを取り戻すとお礼を伝えていた。


 そして朝食を客室で済ませている最中、部屋の通信石から『キニオスへの到着が遅れる』、と連絡が入った。



「このままだと、キニオスに着くのは夜近くになりそうだな」

「結構手間取ってるみたいだよね。倒しても数が減らないって、どうなっているんだろうねぇ」

「赤はそんなに珍しい魔法使いでもねぇのにな。広範囲の魔法を使える奴が少ねぇのか?」


 カイルとクロム、そしてサンは訓練室に入ってもサブスホーネットの話をし続けていた。

 なんでも『討伐しているけれど数が減らず、対応が追いついていない。様子を見て迂回するか、到着場所を反対側の門にするか検討中』だそうだ。


「だいぶ時間があるから、思いっきり魔法の練習をしましょう!」

「ハルカは黒なので白の魔法が効きやすい。そして逆に、白に対しても黒の魔法は効きやすい。それを頭に入れておいて下さいね」

「新しい魔法が使えるように頑張ってみる! 白と黒はお互いに効きやすいんだね。覚えておくね。2人ともありがとう!」


 キニオスに着くのは夜近くになる、と予想したカイルの提案で、ハルカの魔法の訓練が始まった。


 今いる訓練室は、広い殺風景な部屋だった。部屋の中央に唯一存在している、人と同じ大きさの黒い球体は、攻撃魔法のように威力のある魔法を吸収する役目を果たすそうだ。

 他の訓練室は武器に合わせた部屋や、仮想の魔物が出てくる部屋もあり、それぞれが腕を磨けるように分かれていた。


「そういや、誰のから見るんだ?」

「どうしよう……。あっ! 私がみんなに出会った順番、とか?」


 サンがこちらの会話に気付き、声をかけてくれた。その言葉にハルカは少しだけ迷い、思いついた提案をした。

 すると、カイルがリアンに話しかけた。


「リアンは、ここにいるみんなを守れるぐらいの防御壁を作れるか?」

「はい。この人数なら問題ありません」

「じゃあ頼んだ。あとは熱も遮断してほしい」

「……それは、サンの魔法に対してですか?」


 カイルとリアンのやり取りを聞きながら、サンはイライラした様子を見せていた。


「あの時もサブスホーネットだったな。あれはな、カイルを守ろうとして焦がしただけだろ」

「ぎゃーぎゃー喚きながら魔法を使ったよな?」

「うっせぇな。俺はな、でけぇアンセクト系の魔物が苦手なんだよ!!」


 あ、サンは虫が苦手なんだ。


 確かに大きな虫は怖いよね、なんてハルカが納得した時、部屋の中央から少し手前に、とても大きな白い十字架が出現した。


「この十字架より前に出なければ、この部屋のどこにいても大丈夫です」

「凄いね。わざわざ広範囲の守護壁をありがとう」

「いえ。私が出来る事ならなんでもやりますので、言って下さい」


 リアンは前に見せてくれた防御壁よりも、更に大きな天井にまで届く細長く白い十字架を出現させてくれた。それを眺めながら、クロムは感心したようにリアンに言葉をかけていた。


「出会った順番だったな。じゃあクロム、相手をしてくれ」

「いいよ。お手柔らかにね」


 カイルがクロムを誘い、十字架の向こう側へ移動した。

 それを合図に、残されたみんなは十字架の内側から2人が見える位置に移動した。


 そういえばカイルは補助系の魔法って言ってたけど、どんな魔法なんだろう?


 ハルカがわくわくしながらカイルとクロムを見つめると、2人は距離を取り、双剣を構えた。


「「『疾風しっぷう』」」


 カイルとクロムは同時に魔法を使い、地を蹴った。

 次にハルカが目にしたのは、2人が中央の黒い石の前で、お互いの剣を交える姿だった。そして剣のぶつかる音がしばらく聞こえたと思ったら、クロムが急に後方に跳んだ。


「もっと速くしてもいいよ?」


 そんな言葉を口にするクロムが着地する前に、カイルも跳び距離を詰めた。


「いや、どんな魔法か見れなきゃ意味ないだろ?」


 カイルは軽く笑いながら返事をし、2人はお互いに剣を受け流しながら一緒に着地した。


 は、速すぎ……。


 剣を打ち合っている間は音で辛うじて予測しながら見ていたが、最後は必死に目を凝らしていたハルカの感想だった。

 そしてカイルとクロムは剣を収め、こちらに戻ってきた。


「今のでわかったか? 俺だけの魔法は速さを付与するものだ。速いだけで、やってる事は斬り合いだけどな」

「凄い速さだったよ! あのさ、カイルは魔法を使わなくても速いよね? 更に速さを求めたの?」

「どんな相手でも、速さで勝れば勝機が見出せるかと思ってな」


 カイルの返事を聞き、うんうんと頷いていたハルカだったが、クロムにも質問をした。


「クロムだけの魔法も同じもの?」

「ん? 違うよ」

「そうなの? それなのにカイルと同じぐらい速かったよね?」

「疾風は、緑の魔法使いなら結構使える奴がいるんだよ。けれどね、カイルは自分だけの魔法として使うから、本来ならもっと速くて追いつくのが大変なんだ」

「よくそんな事が言えるな。全然そうは見えないけどな」


 カイルとクロムがお互いに笑い、ハルカにはその姿が褒め合っているように見えた。

 そしてクロムは瞳を閉じ、笑みを浮かべた。


「ぼくの一族はいろいろ手厳しかったからね。だからぼくもその環境に合わせて、目も剣も鍛えられただけだよ」

「クロムが強い理由はこれだ。だから本気のクロムは、俺より腕が立つぞ」


 カイルはクロムに剣を教えてもらったと聞いた時の事を思い出し、ハルカは頷いた。


「本気出されたら、きっと私には見えなかったと思う。2人ともちゃんと魔法を見せてくれてありがとう」


 ハルカがお礼を言うと、サンが動き出した。

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