第166話 続・仲間達の魔法
カイルの疾風という速さ付与の魔法を教えてもらった後、サンが白い十字架の向こう側へ歩いていった。
「よっしゃ、次は俺だな!」
カイルの次に出会ったのがサンなので、彼は楽しそうにハルカを見つめてきた。
「よく見ててくれよ!」
きっとみんなが見やすいようにサンは立ち位置を工夫して、中央の黒い石の斜め右奥で立ち止まった。
そして魔法を唱えた。
「『全てを燃やし尽くせ!
そして胸の前で左手に右手の拳を当てると、サンの目の前から紅蓮の炎が広がり、部屋一面を覆った。
真っ赤な炎が目の前に!!
天井までを埋め尽くす炎に、ハルカは驚いて後ずさった。
「カイルはこれを受けたから、いろいろ言っていたのね」
「そうだ。間一髪で避けたが、髪や服が燃えた」
「わぁ……」
それは、文句も言いたくなるよね……。
ミアが憐むような眼差しを向け、カイルはどこか遠くを見つめながら答えていた。そんなカイルの言葉に、ハルカは心境を言葉にできずに声だけもらした。
そんな会話をしているうちに、サンの放った炎は黒い石へ吸収されていった。
「俺だけの魔法はこんな感じだ」
「凄かったね! リアンの防御壁があっけど、びっくりしちゃった!」
「サンの魔法は上級だよね。見事だったよ」
サンがハルカにそう言いながら戻ってくると、クロムがそんな感想を口にした。
「上級! 凄い魔法なんだね!」
「俺だけの魔法だから威力はあるぞ!」
「私だけの魔法を探す為に、ルチルさんからも色々話を聞いたの。その時にね、サンだけの魔法のきっかけが弟さんだった、ってルチルさんから聞いたんだけど、なんでこの魔法になったの?」
「ルチルからある程度聞いたかもしんねぇけど、俺の家族は人数が多いだろ? だから『家族を守るのは俺だ。全員を守る為に長男として生まれてきたんだ』って考えたらよ、この魔法が浮かんできたんだ。攻撃は最大の防御、って言うしな!」
6人兄弟の長男のサンは守る為に攻撃魔法を使えるようになったと改めて知り、ハルカはその理由に心が温かくなった。
「サンも守る為、なんだね。詳しく教えてくれてありがとう!」
「こんなんでよければいくらでも教えるぞ! ハルカちゃんにとって、何か良い影響になればいいんだけどな」
ちょっと照れたように笑うサンを見上げ、ハルカも微笑んだ。
「次は私達ね。と言っても、私は既に治癒の魔法を見せているけれど」
「ミアだけの魔法は癒しの魔法なんだね」
「そうよ。怪我もちろん、病気や疲労回復まで様々なものに対応させる事ができるわ。それと、魔法の効果が現れるのが早い、ってところね。様々な医術記録も頭に叩き込んであるから、人体の構造が想像しやすく、治すのが早い、っていうのも理由の1つかもしれないわね」
ミアがさらりと理由を説明してきて、ハルカは驚いた。
「凄い……! ミアの努力で魔法が更に進化してるんだよ!」
「ふふっ、ありがとう。自分だけの魔法に限らないけれど、磨けばもっと光るから、ハルカも使えるようになったら研究してみるといいわよ」
ミアからの助言を受け、ハルカは頷きながらお礼を告げた。
「そうなると次は私ですね。私だけの魔法もこの防御壁とあまり大差ありませんが、体験して下さい」
体験?
ハルカが不思議に思い首を傾げると、リアンが魔法を唱えた。
「『身代わりの盾よ』」
リアンが握った右手を胸に当てると、ハルカの体の前に宙に浮いた白く丸い盾が出現した。それに驚いてハルカは一歩後ずさったが、その盾も一緒に動いた。
「この盾は、護る人が動くとついてくるの?」
「そうです。あまりに私から離れると消えてしまいますが、そうでなければどこに行こうが消える事はありません。今出している設置型の防御壁は、破られればそれでおしまいです。ですがこの盾は破られた瞬間、1度だけ私がその攻撃を代わりに受ける事ができます。なので護られていた方は無傷でいられる仕組みになっています」
「え……。それはリアンが無事じゃ済まないよね?」
魔法の言葉からして嫌な予感がしていたハルカは、戸惑い気味に尋ねた。
「この魔法は単体で使うと、護りの効果がより高まります。ですが、現在使う時は、自身にも守護の魔法を掛けています。なので、身代わりの盾が破られても、それほどの傷にはならないはずです」
「そう……、なんだ。でも、そんな命懸けの魔法をどうして?」
「命を懸けて、お護りしたいからです」
リアンは黒灰色の瞳をこちらに向け、いつもの落ち着いた声で穏やかに説明をしてくれた。
すると、不機嫌そうなミアの声が響いた。
「私の前で『命を懸けて』、なんて言葉を使わないようにして。そんな事をするぐらいなら、何がなんでも生き延びる方法を探してほしいわ」
「しかし、私がミア様の騎士として願った想いがこの魔法になったのです。それは私にとって、とても名誉ある魔法だと今でも思っています」
「……気持ちは嬉しいけれど、リアンを犠牲にしてまで助かりたくはない。だから今後も、しっかり自分も護りなさい」
ミアの気持ちも、リアンの気持ちも、ハルカには痛い程伝わった。
「私は、護りたいと思える人がいて、はじめて護る事ができると思うんだ。けれどね、護られた人が取り残されたら、きっと悲しい。ずっとね、後悔すると思うの。だからミアの言う通り、無茶はしないでね」
「騎士としてミア様に仕えた時から、覚悟はしていました。けれど私も外へ出て、ミア様とハルカの言葉が理解できるようになりました。ですから、この先もずっと護り続ける為には、生き続けなくてはいけません。最近は、そう思えるようになりましたから」
「その返事を聞いて安心した。リアンも詳しい事を教えてくれてありがとう」
リアンはちゃんとミアの気持ちを汲んでいたようで、ミアにもハルカにも安心させるようにゆっくりと言葉を紡いでいた。
けれど、リアンの隣で言葉を聞いていたカイルの表情が一瞬、強張ったようにハルカには見えた。
「……カイ——」
「じゃあ最後はぼくの番だね」
ハルカはその表情の変化が気になり、カイルに声をかけようとした。
けれどその瞬間、笑顔のクロムに遮られた。
「あっ……、そうだね。クロムだけの魔法はどういうものなの?」
「とりあえず、リアンの盾をどうにかしないと使えないかも」
クロムに返事をしながらカイルをちらりと見れば、もう普段の様子に戻っていた。
気のせい?
そう思うハルカに、クロムが顔を近づけてきた。
「リアンの盾、試す?」
「えっ……? い、いや、いい!! どんな盾かはわかったから、リアン、ありがとう!」
楽しそうなクロムの笑顔が視界いっぱいに広がり、ハルカは慌てながら答えた。
「私は試してもらってもよかったのですが、解除しますね」
「ぼくも試したかったけど、ハルカちゃんがそう言うなら仕方ない。リアン、素晴らしい魔法をありがとう」
クロムはハルカから顔を離しながら褒め言葉を言い、はにかむリアンは身代わりの盾を消した。
「さあ、ぼくの魔法も体験してね。『
クロムが魔法を唱えると、ハルカの身体を何かが駆け巡ったように思えた。
「私の体に、魔法が掛かってるの?」
「そうだよ。今の状態なら、どんな事をされても痛くないよ」
「痛くない?」
確かに魔法の言葉は『無痛覚』だった。
感覚がなくなるって事?
そう考えながら、ハルカは自分の腕をつねってみた。すると、言われた通り全然痛みを感じなかった。
「痛みを感じないどころか、自分の体じゃないみたい……」
ハルカは感想を伝えながら、気になった事があった。
それは、どうしてクロムがこの魔法に目覚めたのか、その事が疑問に浮かんで仕方がなかった。
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