第六話 カイルの独白⑥

 ハルカに名もなき話を読み聞かせながら、前にもこんな事をしていたなと、不思議な感覚に囚われていた。

 自分がおかしい事に慣れ始めていた俺は、この懐かしい感情が嫌ではなくなっていた。


 そしてハルカのあどけない寝顔を見ながら、今後の行動を考え直した。


 父さんが所持していた記録を奪い去った後、生き残りの俺の前には現れる事がなかった戦争の首謀者。

 きっと、俺が原本を持っているのは知られていないのだろう。もしくは、複写した記録でも十分だったのかもしれない。

 クロムから、流民のままだと俺が狙われるかもしれないからと、キニオスに住民登録をする事を忠告されたが、必要なかったと今なら思う。


 そんな行動が読めなかった奴らの目星がようやく付いた。

 これも全てクロムのお陰だ。


 聖王様は現在確認できている異世界の記録がある地を保護下に置いたが、まだ知られていない土地もある。


 それを、奴らは見つけ出すのが早かった。


 クロムから新たな遺跡の情報が入る度に荒らされた跡だけ残る、異世界の記録が眠っていた土地。

 奴らはまだ狙っている。

 異世界の記録の中にある『何か』を。


 だからハルカを餌にして、危険に晒す事はできない。

 だから俺自身を、餌にする。


 その為にはやっぱりハルカの存在が必要なんだ。

 でも、ハルカの存在は広めさせない。


『3年前の戦争の真相に繋がる異世界の情報を、俺が聖王様へ献上した。その詳細が確認し終えるまで、俺は城内に保護される』


 この考えが浮かんで、俺の心は少しだけ軽くなった。


 この情報を広めれば、王を狙う馬鹿はいなくとも、聖王様のお膝元に潜んでいた首謀者は俺を狙いにくるはずだ。

 あんなにも奴らが自由に動き回れたのは、皮肉にも王の庇護があったからだろう。

 けれどもう、好きにはさせない。


 父さんが保持していた異世界の記録の模写は、前王に献上していた。

 だからこの方法は浮かばなかった。


 けれど今は、ハルカという存在がいる。

 だからこそ、聖王様に真実を伝える。

 聖王様と直接やり取りをしているクロムを通して伝えれば、この提案は受理されるはずだ。


 聖王様は、首謀者の特定と目的を知ろうと奴らを泳がせていた、と聞いている。だから、異世界の記録を保護下に置く活動を続けているようだ。きっと、被害を最小限にする為に動いているんだろう。

 それに奴らの動向を探る為、わざわざ外部のクロムを特殊部隊の隊長にしたとも聞いている。


 だから表向きは俺の名前を伏せ、ハルカの事は、『歴史の記録を保持していた一族の遠縁の者』として、念の為に保護する形を取ってもらう。そして聖王様とクロムには、中にいる首謀者からハルカを守ってもらえるように掛け合うしかない。

 その間に俺は、首謀者をおびき寄せ、倒す。

 これなら誰も傷付く事はないはずた。


 クロムから、目星を付けた奴らが妙な動きを見せ始めた、と先程聞いた。

 様子は随時通信石に連絡をよこしてくれるようだが、いつ、大きく動き出すかわからない。

 だから、急がなくてはいけない。

 ハルカの為に、俺達の為に。


 だが、餌になると決めた俺が、これ以上ハルカと一緒にいる事は許されない。俺のそばにいた事実が知られたら、きっとハルカも無事ではすまないはずだ。

 この世界で、ハルカは幸せに生きる事だけを考えてほしい。危険に巻き込む事だけは絶対に避けなければ。


 だから……、コルトでハルカの魔法が見つからなくともすぐに王都へ連れて行き、保護を頼もう。

 たとえ離れていても、俺がハルカを守る剣である事に変わりはない。

 そして奴らを一掃したら、俺の役目は終わりだ。


 ようやく、全てを終わりにする事ができる。


 そう新たな決意を固めた時、俺の心臓は知らない痛みを宿した。

 その痛む理由がわからないまま、俺は浮かんだ考えを伝える為、再度クロムに通信をしたんだ。

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