第133話 先行きへの不安
ちょうど話も途切れたので、ハルカ達は宿の部屋で昼食を済ませた。エルフ族はあまり肉を好まないようで、他の食材を使って肉のように料理したものの方が多かった。なのでサンは、そろそろちゃんとした肉料理が食べたい、とぼやいていた。
「ハルカ、確認なんだが……、さっき魔法がわかりかけた、と言っていたのはどういう事だ?」
「えっとね、前に私がウィルさんと揉めた時に変な言葉が浮かんだの。それが今日のウィルさんの話で、ウィルさんの『本当の願い』だった事がわかったんだ」
確かに一緒だった。
でも、私だけの魔法の言葉は浮かばない。
発動にはまだ、特別な何かが必要なのかな?
カイルから改めて確認をされ、ハルカは頭の中で事実を整理してみた。
「本当の願いがわかる魔法なんて、素敵な魔法じゃない! 願いがわからない人が教会に救いを求めに行く事があるのよ。きっとその人達の助けになるわ」
「ありがとう。まだわからないけど、誰かの助けになる魔法なら私も嬉しい。でもね、『本人が気付かぬ傷を気付かせる』って言葉をプレセリス様から聞いているから、それだけじゃないのかもしれない……」
「先程のハルカから聞いた話だと、物理ではないのですよね? それなら精神の……、『心の傷』を指すのでは?」
ミアがキラキラした瞳でこちらを見ながら褒めてくれたが、ハルカは引っかかっていた言葉を口にした。すると、リアンが悩みながらも伝えてくれた言葉に、ハルカの心臓がどくんと反応した。
『心の傷』を気付かせると、『本当の願い』がわかるの?
そう言葉を頭に浮かべたら、プレセリス様の言葉も思い出した。
『だからこそ、ハルカ様の魔法を待っている方々がいらっしゃいますの』
もし、そういう魔法だったとして……、どんなきっかけがあって、私だけの魔法が見つかるんだろう……?
ハルカがそう考えた時、カイルが言葉を発した。
「もしそれが本当なら、冒険者には向かない魔法だ。だからハルカは、今後を考え直せ」
「えっ?」
「見つかるまでは旅をするが、見つかれば冒険者を辞めて——」
「だぁーっ! 待てって! 言いたい事はわかるけどよ、それを決めるのはハルカちゃんだろ?」
カイルの言葉の意味を考えた瞬間、ハルカは自分が切り捨てられたと感じた。それを察したように、サンが慌てて会話に割り込んできた。
「……そうだな」
「それによ、冒険者としては何か別の事ができるかもしれねぇし、ハルカちゃんが魔法を見つけた後も旅をしたいなら、するべきだ」
「そう、だね。私の魔法もまだはっきりとはわからないけれど、今後の事も一緒に考えてくれてありがとう」
ずきんと胸が痛んだが、確かに冒険者には向いていない。そして、足手まといになるかもしれないと、ハルカは考えた。だからこそ同時に、自分だけの魔法を見つけるのが怖くもなってしまった。
私はまだ……、カイルと、みんなと、一緒にいたい。
じゃあ、いつになれば冒険者を辞める決心ができるの? と、自分から問われたが、ハルカに答えは浮かばなかった。
すると、サンがハルカを安心させるように白い歯を見せて笑うと、穏やかな声で話しかけてきた。
「考えたところで解決するもんでもねぇし、今は考えすぎなくていいだろ。その時になったらまた一緒に考えようぜ。あと問題は、精霊獣だよな。ハルカちゃんの精霊獣の卵は今までどこにあったんだ?」
「……うん。ありがとう。それがね、精霊獣の卵は私も気付かなかったんだけど……」
サンは自然と話を切り替えて、そう尋ねてきた。ハルカはその言葉に感謝つつ、服の中にしまっていた細長いしずく型の生誕石を取り出した。その瞬間、カイルはやっぱり顔を背けていた。
「ハルカの髪色と目の色みたいな装飾品が、どうしたの?」
「これ、私の生誕石なの」
「え……?」
「なっ!?」
「へぇ〜」
質問してきたミアが表情を変え、同時にリアンも青い顔をして2人は目線を外した。そしてサンだけがまじまじと見つめてきた。
「そのままの生誕石は弟達が産まれた時に見てたから平気なんだけどよ、装飾品にしてんのは初めて見たな……。なんかこう、痛かったり、気持ち悪くなったりしねぇのか?」
「カイルからも装飾品にしている人はいないって聞いた。でね、サンが気にしているような事は全然ないんだ。それに私は、握りしめると落ち着くの」
「に、握りしめるって……」
「ぎゅっと、普通に握るだけだよ? それがね、普段の魔法の発動動作にもなってるんだ」
「普通に、って……」
サンは心配そうな顔をして、ハルカに不調がないか確認してきた。それにハルカが答えると、ミアが青ざめながらポツポツと呟いていた。
「初めからこの首飾りに付いていたんだ。前の世界では身体に何かを埋め込むなんて事はしなかったから、私はこの方が安心する。それに、自分の両親がそばにいる気がして、見たり触ったりするとほっとするの。でね、この生誕石の側に寄り添うように、精霊獣の卵が覆ってくれていたような気がする」
「……大きさも、形も、変わったな。まさか精霊獣の卵が装飾品になってるとは思わなかった。今考えると、生誕石を体に埋めこなくてよかったのか……」
ハルカは自分の気持ちを告げ、次にマキアスの心から読み取れた感情を伝えた。
すると、カイルはちらっとハルカの生誕石を見てから視線を外し、眉間にしわを寄せていた。
「あっ……、危うく卵が大変な事になってたね」
「今はハルカの生誕石が更に危ないが……」
「でもやっぱり私はこのまま、装飾品として大切にしたい」
ここまで話して、ハルカは自身の生誕石を服の中にしまった。それと同時に、カイルはため息をついていた。
「まぁ、そう言うだろうと思っていたから驚きはしないが、今後も気を付けてくれ。それにしても、何故契約の言葉を言ったのに、ハルカの精霊獣の卵は反応しなかったんだ?」
カイルは視線をこちらに戻し、ミアもリアンもゆっくりとこちらを見た。サンだけは最後まで視線を外す事はなかった。
そしてカイルの質問の答えを、ハルカは告げた。
「さっき額を合わせた時にわかったんだけど、私と、私の精霊獣のマキアスは神様に創ってもらったの。私の魂の一部から創られたマキアスは、既に契約しているのと変わりなかったみたいで言葉に反応しなかったんだ。そして私の心に反応して、姿を見せてくれたの」
「魂から創られた、か。それじゃ普通の精霊獣じゃないのか?」
「ライオネルくんから教えてもらったんだけど、ちょっと違うみたい。だからどんな事が出来るのか、まずは私だけで確認してもいい?」
「ライオネルも知っているのか?」
その言葉で、ハルカはライオネルくんも自分の秘密を知っている1人だと、伝え忘れていたのを思い出した。
「あっ! そうなの。ライオネルくんには、伝えてある。誰にも言わないでいてくれるみたい」
「……そうか。ハルカがそう言うのなら、俺も信じよう。それと、今からマキアスの力を確認しておけ。俺達はいったん外に出ておく」
そしてカイルは、ハルカからの言葉で少し考える素振りをした後、そう言って椅子から立ち上がった。
「ライオネルくんの事も、マキアスの事も、ありがとう」
「ハルカが自分で決めた事だ。だから俺は、そのハルカの決断を信じるだけだ。それにな、ウィルには色々と聞かれるはずだ。それならどんな事が出来るのか、しっかりマキアスに確認しておくべきだ。話し終えたらハルカも外へ来てくれ」
「そう言ってくれて、嬉しいよ。それに、そうだよね。ウィルさんは精霊使いだから、質問してくるはずだもんね。マキアスにちゃんと教えてもらうね」
「俺達の事は気にせず、ゆっくり話してくれ。小さな大きさで現れてくれ、と考えを伝えながら召喚するんだぞ? それと聞きたい事を尋ねれば、自然とマキアスの感情から答えがわかるはずだ」
「ありがとう。やってみるね」
この言葉でみんなは外へ向かい、ハルカは1人、マキアスと対話する為に召喚をした。
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