第132話 共に歩む仲間達
ハルカが転移者ではなく転生者だとみんなが理解し、宿の部屋には沈黙が訪れた。
「私、ちゃんと話してなかったね。この姿だし、そのままこの世界に来たと思うよね」
事実を伝える為、ハルカはみんなが聞き取れるように、ゆっくりと話を続けた。
「カイルには話していた事だけど、もう1度、ちゃんと話すね。神様から話を聞いただけなんだけれど、私の両親は…………」
続きを言うのに、ハルカはためらい、言葉が途切れた。けれど、ゆっくり息を吸い込んで、悲しみを滲ませないように言葉を紡ぐ。
「……強盗か何かに命を奪われながらも、私が生き延びて幸せに生きる事を、願ってくれた」
耳に残る両親の悲鳴と、天崎はるかの最期の『あの日』を思い出して、ハルカは上手く呼吸ができなくなっていた。
「……そして、その願いが、神様に届いたの。奇跡としか思えない光景の中で、私は、神様から運命の選択を迫られた」
急に自分の周りにだけ酸素が無くなったかのような錯覚を覚え、ハルカは意識して空気を吸い込み、呼吸を整えた。そして、静かに耳を傾けてくれるみんなに話し続けた。
「『ここに残り僅かばかりの生を全うするか、違う世界へ転生して新たな生を歩むか、お前が選べ』って」
この言葉に、みんなの顔が更に苦しげな表現へと変わった。
「私は、両親の願いの為に生きる事を決めて、この世界に来た」
ここでいったん言葉を切り、ハルカは自分を落ち着かせるように、穏やかな声で言葉を紡いだ。
「それにね、前の世界に残ったら、想像を絶する苦しみと絶望を味わった最期だったはず。でも転生を選んだから、神様の暖かくて優しい光に包まれた最期だった。だからね、全然痛くなかったんだよ」
そんな恐ろしい恐怖を味わった両親を想うと、胸が張り裂けそうになった。
でも、みんなの様々な感情を含む悲しげな顔も見ていたくなくて、ハルカはうまく笑えているかわからなかったが、微笑んでみた。
「この世界に対応する身体を創ってもらって、私は生前の姿のまま転生した。そして最初にこの世界で私を見つけてくれたのが、カイルだったんだ」
カイルと出逢った時を思い出し、ハルカは心がじんわりと温かくなった。
最初に私を見つけてくれたカイルには、感謝してもしきれない。
そう考えた時、急にミアが立ち上がってこちらに来ると、ハルカの頭を抱きしめた。
「ハルカ、私にこんな権利はないけれど……、今だけは許して」
ミアの声と体が震えているのがわかり、ハルカはゆっくりとミアの背中をさすった。
「生きて……、と言っていいのかわからない。でも……、生きる選択をしてくれて、ありがとう……」
その言葉にハルカも目を閉じ、静かに涙を流した。
ハルカとミアが落ち着くまで、宿の部屋には静寂が訪れていた。
「もう、大丈夫?」
「私は、平気よ。ハルカ……、この世界であなたの秘密が知られたら、きっと大変な事になる」
「カイルもね、それを気にしてくれていたの。でもね、私だけの魔法を見つける為には、必要な事なんだ」
そして、ハルカは自分だけの魔法の手がかりを見つける為に、プレセリス様に占ってもらった内容を告げた。
「前に話したい事がある、って言ってたのは、この事だったんだな。それと、ルチルの宿の酒場で会った日に、ハルカちゃんはこの世界に転生してきたんだよな?」
「うん。ちゃんと話しておきたくて。最初にサンに出会った日が、私がこの世界に来た初めての日だったんだ」
「なるほどな。それじゃあ、まだ知り合いらしい知り合いもいねぇよな。で、困難を乗り越える為に、ハルカちゃんの真実を伝えて味方をどんどん増やせって事だよな? いったい、どんな魔法なんだろうな……」
サンは腕組みをしながら、眉間にしわを寄せて首を捻っていた。
「なんとなく、わかりかけたような気がするんだ。でもまだ言葉には浮かばなくて……。あとね、この話を聞いて、それでも一緒に私の魔法を探す旅をしようと思えた?」
みんなは信じてくれたが、これからの行動までは共にしてくれるのか気がかりで、ハルカは尋ねた。
すると、みんなはきょとんとした顔でこちらを見てきた。
「一緒に旅するって決めたって、言っただろうが」
「余計に、ついていく気しかなくなったわ」
「私でも力になれるのであれば、共に困難に立ち向かいましょう」
サンもミアもリアンも、そんな嬉しい事を言ってくれる。
出会って間もない私を受け入れてくれる人が、こんなにもいるんだ。
嬉しくて、また涙が出そうになった時、カイルからも声をかけられた。
「俺も改めて伝えておく。ハルカがこの世界で幸せに暮らせるように、最善を尽くす」
「……ありがとう、みんな」
みんなの気持ちが嬉しくて、ハルカは涙が滲んだ。
すると、サンが垂れ目を見開き、緊迫した声を出した。
「いや、1つだけ、問題があったぞ……」
「えっ……、何?」
やっぱり、そんな簡単には話は進まないよね……。
気落ちするハルカを他所に、サンはとても重大な事でも言うように、大きく深呼吸した。
そして、耳を疑うような言葉を吐き出した。
「ハルカちゃんとカイルは親戚じゃなかった。なのに宿の部屋を共にしている……。ハルカちゃんみたいな可愛い子がそばにいたら、いくらカイルが紳士だからって男ならもうがま——」
「
ハルカを中心に右から、カイル、サン、リアン、ミアの順に座っていたのだが、カイルはわざわざ魔法を使ってサンの言葉を止めた。
「ってぇっ!! おまっ、魔法使うとかっ……!!」
サンはおでこを押さえ、黒紅色の長髪を振り乱しながら騒いでいた。
やっぱりこの世界でも、異性と同室っておかしいんだね……。
ハルカはサンの様子を眺めながら、呆れと、胸がちくりとする痛みを感じていた。それは、新しい事実と、カイルに異性として見られていない事実を受け入れた時に、気付いたものだった。
「加減はした」
「くっそ!! 加減したところで痛ぇのに変わりねーんだよっ!!!」
「いや、明らかにサンが悪かったでしょう。それぐらいで済んだ事に感謝せねば」
カイルとサンのやり取りに、リアンが眉を寄せながら冷静につっこんでいた。
そんな騒がしい中、ミアの小さな呟きが聞こえた。
「婚前からそんな親密な関係を持っていたなんて……」
「ミ、ミア……? 違うからね?」
「私は……、そんな2人の仲を邪魔していたのね」
「ミア? 聞こえてる? ミアー!」
この後、ミアを妄想の世界から連れ戻す為に、ハルカは少しばかり苦戦した。
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