第99話 占いの館
占いの予約が3ヶ月先まで取れないと聞き、ハルカ達は取り敢えず予約状況を確認しに来たはずだったのだが、何故か待合室に通される事になった。
そして、案内をしてくれているのは魔王……、ではなく、軍服を華麗に着こなすダークエルフの付き人、ユーゴさんだった。
「驚かせてしまって申し訳ありません。プレセリス様から事前に『目つきの悪い男と可愛らしい黒の魔法使いが今日来るから通せ』、と言われていたのを忘れておりまして……。あっ! この事はどうぞご内密に」
そう言ってこちらを振り向きながら、カイルよりも更に目つきの鋭いユーゴさんは柔らかく微笑むと、人差し指をそっと口元に当てていた。
エルフってやっぱり美形だなぁ……。
ハルカがそんな呑気な事を考えていると、どうやら待合室に着いたようだった。
「それではこちらでしばらくお待ち下さい。お茶とお菓子もご用意致しますので、また後ほど」
異人館のような内装の部屋に通された後、ユーゴさんはそう言い残して去っていた。
「目つきの悪い男って……、ユーゴはどうなんだ」
しばらくそわそわしながら部屋の様子を眺めていたら、少し落ち着け、と言わたので、猫脚のソファにカイルと並びで座っていた。
自身の見た目を言われた事に、今更ながら腹を立てたようで、カイルはブツブツ文句を呟いていた。
「カイルは少し鋭い目つきなだけで、普通にかっこいいよ。ユーゴさんは目つきが鋭いけど、性格は穏やかな人みたいだよね」
「そうか、かっこいいか……。まぁ、ユーゴは確かに性格が見た目と正反対な気がするな」
カイルの機嫌が治った気がしたハルカは、気になっていた事を口にした。
「あのさ、私達が来る事を知っていたって、占いで、だよね?」
「そうだろうな。だからこそ気になるのが『どうして俺達は通されたか』、だよな」
占いがそこまで視えるものだとは思わず、ハルカは少しだけ身構えた。
なんだろう……、待たずに済んだのに、嫌な予感がする。
うーん、でも、未知の体験をしたからそう感じただけなのかもしれない。きっとそうだ。
もっと喜んだ方がいい事、だよね……。
そう自分を言い聞かせようとしたけれど、つい、不安が口から漏れた。
「どうしてだろうね。何が待っているんだろう……」
「さぁな。でも何があっても、俺がハルカを守る」
カイルは相変わらず、私を安心させる言葉をすぐに言ってくれるなぁ。
そう考えたら、先ほどの心配が嘘のように消えてなくなった。
「ありがとう」
「お互いに出来る事をやる。俺がやれる事はこれぐらいだからな」
「ううん、そんな事ない。いつも側にいてくれて、ありがとう」
そう話し終えた時、扉を叩く音がして、ユーゴさんが姿を現した。
「お待たせ致しました。お口に合うかわかりませんが、こちらをどうぞ。プレセリス様はもう少し時間が掛かるとの事なので、ごゆっくりお過ごし下さい。何かありましたら蝶の通信石にお声がけ下さいね」
白やピンクのバラの蕾が浮かぶガラスのティーポットからカップにお茶を注ぎ、バラの花びらの砂糖漬けと思われるお菓子を並べて立ち去ろうとしていたユーゴさんを、カイルが呼び止めた。
「予約が6ヶ月先まで出来ないと言っていたのに、俺達が今日通してもらえた理由は何だ?」
「カイル、急にどうしたの?」
先ほど終わった会話だったはずなのに、カイルは何故尋ねたんだろう、と思い声をかけた。
「聞いておいた方が、ハルカは安心するだろ?」
「……ありがとう」
いつも自分を1番に考えてくれるカイルに気恥ずかしさを感じ、ハルカは少しだけうつむいた。
するとクスリと、ユーゴさんが笑う声が聞こえた。
「プレセリス様の言った通りですね」
「何がだ?」
「『一緒にいる男は黒の少女を溺愛しているようだから、まずは彼女を安心させてやってくれ』、と言われておりましたので、何なりとご質問下さい」
「なっ!?」
カイルは驚きの表情のまま、固まっていた。
そして、ハルカは言葉の意味を考えた。
溺愛……?
カイルのはそういうのじゃなくて、優しさを少し拗らせた心配性、ってだけだよね?
占いも、人の心までは読めないんだな、なんて考えたハルカはどこかほっとしていた。
「待て、プレセリスとやらはどうやってそれを予言しているんだ?」
いつの間にかカイルは元に戻ったようで、問いただすようにユーゴさんに話しかけていた。
「全てのものを使って、と申しましょうか……。星読みもそうですが、私自身の事を使って、今後の事を視ておりますね」
「ユーゴを……?」
全く訳の分からない返事が来たので、カイルも戸惑っているようだった。
「自身の事はその方法だと占えないそうで……。そうそう、忘れるところでした。これだけは覚えておいて下さい」
そう言ってユーゴさんは冷たい顔に微笑みを浮かべると、言葉を紡いだ。
「何があってもプレセリス様のお言葉に従って下さいね。まぁ、違う事をしようとしても無理だとは思いますが……、もし、その言葉に反する事をすれば、魂が抜き取られてしまいますから、ね」
不思議で、それでいてどこか不穏な空気を含む言い方に、私はこの時、この場を立ち去るべきだったのかもしれない。
そして、それに気付いた時には——、すでに手遅れだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます