第96話 空の旅
コルト行きの定期便の大きなペガサスにも驚いたが、お城の馬車の内装も、本当に豪華で驚いた。そのまま西洋のお城を乗っけてきた、としか思えない広さでもあった。
入り口を入ってすぐの大広間がロビーみたいなもので、右側にある受付で乗客に部屋の鍵を渡していた。皆が寛げるようにソファも完備されていたが、小さな子達の遊び場と化していた。
正面の螺旋階段を登ると客室があるので、乗客した人々は早々に各自の部屋を目指しているようだった。
大広間から左右に伸びる通路には娯楽室や食事を提供する場所も準備されていると言われ、またも驚いた。護衛室や御者控え室もあるので、間違えて入らないように、との注意もあった。
そして客室へ入ると、ハルカはその部屋の広さに違和感を覚えた。
「ねぇ、なんだか……、広すぎない?」
部屋自体は小さな窓が1窓ある、簡素な宿の作りだった。だけれど、そこまで客室同士の扉の間隔が広かったわけでもないのに、部屋の中が思った以上に広く感じる。
「あぁ、初めてなら驚くよな。これは収納石を応用して、扉自体が大きな収納石の入り口になっているんだ。だからいくらでも広い空間を創れるそうだ」
「えっ!? じゃあ私達、石の中に入っているの!?」
まさか石の中に入っているとは思わず、ハルカはぎょっとした。
「まぁ、そうなるな。普通に部屋を作ったら数に限りがある。だから場所の節約の為にも、国同士が協力して作り上げた魔具らしい。よくやるよな」
カイルはさらっと説明してくれたが、ハルカはまだビクビクしていた。
「収納石ならさ、私達、どうやって部屋から出るの? それに定期便って馬車みたいなのは想像していたけど、なんでこんなに設備が整っているの?」
「だから鍵があるんだ。扉に数字があっただろ? 扉に組み込まれている石と同じ石で作った鍵に、同じ数字が書かれている。鍵穴に挿して共鳴すると扉が開く。もし部屋の中で無くしても、部屋の通信石から助けを呼べば大丈夫だ」
不安に思う事を安心させるように、カイルはゆっくりと説明をしてくれた。そしてそのまま、続きを話し始めた。
「それとな、この定期便は途中の大きな町にも寄りながら1日以上かけて飛ぶ。だから乗客がゆっくり過ごせるような、宿泊できる馬車だと思ってくれ」
「そんなに時間が掛かるんだ!」
定期便がそこまでの距離を走るものだとは思わず、ハルカは驚きで大きな声が出た。
「これでも空を飛んでいるから早いんだ。下の道だったらもっと時間が掛かるぞ。定期便なら大体明日の昼か夕方辺りには着くだろうな」
「なるほどなぁ……。それじゃ部屋がこうなのも納得だね」
ほっとため息をついて、改めて部屋の中を見回そうとした時、カイルが声をかけてきた。
「まだそんなに疲れていないだろうから、気になる場所でも見て回るか?」
「いいの!?」
「せっかくの空の旅だ。楽しまなきゃ損だろ?」
***
カイルの嬉しい誘いで定期便の中を散策をしたハルカは、子供のようにはしゃいでしまった。
そして呆れながらも付き合ってくれたカイルと、ようやく部屋で寛いでいた。
「まさかさ、演奏会がやってるとは思わなかった」
「エルフ族は歌や踊りが好きだからな。コルトの町はそうした旅芸人の立ち寄り場でもあるから、また観れるかもな」
「そうなんだ! また観れるなら、観たいなぁ」
普通の演奏だけでも凄いに、そこに魔法が合わさった。その演目に合わせた香りがしたり、風が吹いたり、空気の温度が変わったり、その音の世界に連れて行ってもらえるような感覚に、とても感動した。
人を感動させる魔法がこんなにも素晴らしいものだとは思わず、ハルカは未だに余韻に浸っていた。
「あとな、また違う凄いものが見られるから、今日は早めに眠って、深夜に少しだけ時間をくれるか?」
「まだ何かあるの? わかった! 頑張って眠ってみる」
「そのまま起きていてもいいんだが、あれだけはしゃいでいたから、きっと寝るだろうしな」
「そんな、子供じゃあるまいし」
カイルの言葉を軽く笑って否定したのに、ハルカはその通り、早々に眠った。
***
「……ルカ。ハルカ、起きられるか?」
「うぅん……。いま、なんじ……?」
カイルに揺り起こされ、もう朝が来たのかと思った。
「こんな深夜じゃ眠いよな。やっぱりやめておくか」
深夜……?
…………あっ!
「ごめんっ! 起こしてくれたんだ!」
「いや、熟睡していたのに悪かった」
「カイル、起きててくれたんでしょ? 私の為に、ありがとう」
凄いもの、って言っていたけれど、いったい何を見せてくれるんだろう?
感謝を伝えながらそう考えたハルカは、ベッドから身体を起こすと寝間着から普段の服へと戻した。
「お待たせ! どこに連れて行ってくれるの?」
ハルカは嬉しくなってカイルの手を取り、部屋の扉まで歩くと、そう尋ねた。するとカイルは繋いだ手を握り返しながら、返事をくれた。
「まだ内緒だ。着く少し前に目を閉じてほしいんだ。その時になったら伝えるから、そのままついて来てくれ」
「わ、わかった。案内、お願いします」
自分が嬉し過ぎて大胆な行動に出ていた事を自覚した瞬間、恥ずかしくなった。けれど、繋がれたままの手が何故だか嬉しくて、ハルカはその幸せな気持ちを噛みしめていた。
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